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少子高齢化の「漆器の里」を襲った非情な災害――過酷すぎる輪島のリアルから見えるもの

ニューズウィーク日本版 / 2024年1月26日 15時30分

彼はこの日、輪島高校の音楽室で子供のために遊び場を設ける支援活動があると聞き、7歳の長女を連れてやって来た。父親に話を聞く傍らでは、長女がボランティアスタッフと楽しそうに遊んでいる。

1月3日から能登に入り、輪島高校のほか珠洲市や七尾市、金沢市の避難所で子供の居場所をつくる活動を行っている東京都の認定NPO法人「カタリバ」のスタッフ、石井丈士(37)は、子供への支援は後回しになりがちだと指摘する。

「まず一番は人命救助、その次に食事とか衛生、と考えていると、子供と関わっていく人が減っていって、子供が子供らしくいられる時間はなくなっていってしまう」と、石井は言う。

「普段と違う生活、体育館や教室での生活が始まって、周りには知らない人がいたりと、気持ち的には安心できない。そんななかで、安心できる、ここは大丈夫なんだなと思える空間とか、気持ちを発散したり自由に遊べる空間がすごく大事です」

避難所の運営や医療については被災自治体と連携している他の自治体から職員が派遣されてくるが、子供のケアをする保育士はなかなか入ってこない。医療より優先度は下がったとしても、重要かつ必要なケアであるにもかかわらず、だ。

輪島高校の避難所では、約250人の避難者の中で、小さな子供は5人前後。避難所の中で子供は圧倒的少数であり、子育て世代のニーズは積極的に聞いていかなければ見えづらい。

だが子供支援は、子供の親を助けることにもつながる。保育所も学校も閉鎖し再開のめどが立たないなか、24時間子供を抱えた毎日では、生活を立て直すための時間もつくれない。子供の居場所をつくり、子供を見ていてくれる「人」がいることは、親にとって大きな助け舟になる。

配送業の職場が被災して業務がストップしていたという父親は、明日から仕事が再開するという。輪島市外への避難は検討したかと聞くと、「2次避難したら仕事も収入もなくなるんで。結局、働いてる世代は(避難は)難しい。年金暮らしとか、高齢の方なら避難されてもいいかと思いますけど、半壊した自宅については不動産屋に連絡がつかないままですし......」と語る。仮設住宅の申し込みもしており、今のところ遠くに引っ越すことは考えていない。

◇ ◇ ◇

1月16日、前日に輪島から金沢の1.5次避難先である「いしかわ総合スポーツセンター」に到着した二井を訪ねた。17日には金沢市内のホテルに移ることが決まったそうだ。2月25日まではいられると言われたが、その先のことは全く見通しが立っていない。

ホテルに入れば水も電気もトイレも風呂もあるが、輪島の情報は入りにくく、避難者同士のつながりも心もとない。

「ほんと言うと、今頃はふるさと納税の返礼品で忙しい時期なんですよ」と、二井はえんじ色の福寿椀と呼ばれる汁椀を携帯の画面で見せてくれた。震災の泥にまみれてしまった輪島塗が、以前と同じ美しさを取り戻せる日は来るのだろうか。

【関連記事】日本が誇る文化財、輪島塗が存亡の危機...業界への打撃や今ある課題は?


小暮聡子(本誌記者)


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