「走る哲学者」為末大が、競技人生を通してたどり着いた「熟達」にいたる「学びのプロセス」とは
ニューズウィーク日本版 / 2024年3月14日 6時48分
考えてみると、体のパーツはあまりにも複雑で微細なので、頭ですべてをコントロールすることなんてできないわけですよね。ある部位を動かそうとしても、実際にはかなり漠然とした指令しか与えられていなくて、体が勝手に調整して細かく動いている。だから、そこに頭が指令を入れようとすると、ノイズになってしまうのかもしれません。
もちろん、トレーニングでは頭で考えていいんですけど、本番ではむしろその制御を外して、ただただ体が周辺環境と合わさっていくのに任せたほうがうまくいくんじゃないかと思います。
──本番で走るときに、どれくらい体に任せようとしているのでしょうか。
為末 コントロールができないロボット選手権みたいなイメージです。日常の練習ではロボットに「こういう状況でこうやって動くんだよ」とプログラミングしていって、当日そこにロボットを置いた後は、環境に合わせて勝手に動くのに任せると。そこでエラーが起きたとしたら、それは当日の問題ではなく、事前のシミュレーションの問題という考え方をします。
当日に手足をどう動かすかみたいな具体的なことを考えると、混乱が強くなって、エラーが出る感じがするんですよね。それよりも「今日は、前半をキレよくいこう」くらいの抽象度で考えるほうがうまくいきます。
陸上は屋外でやる競技なので、前から風を受けると歩幅が3センチくらい縮んでしまって、ハードルを跳ぶ際のズレがだんだん大きくなったりするんです。だから、周辺環境に自分を合わせながら微調整をしなければいけないんですが、頭を使ってコントロールするのではなく、体が勝手に感じて調整していくという状態が理想ですね。
もちろん、最初から体に任せたらうまくいく訳ではありません。体が微調整してくれるようになるまでの鍛錬は、熟達の段階の中にあります。
──頭が認識できていない情報や言語化できていない情報も体はキャッチしていて、それまで鍛錬してきた自分の体が調整してくれるということですね。
為末 競技人生の最後のほうになると、自分が自分の体をどうやって調整しているのか、すべてはわからないんじゃないかと思うようになりました。全身で感じている風の強さとか、地面を踏んだときの筋肉の反応が普段と比べてどうかとか、体が複雑な情報を統合して微調整しているんだと思うんですよね。そんな量の情報を、自分で認識して思考して意思決定できるはずがない。体のそれぞれの部分が自律分散的に環境に対処していて、なぜかわからないけど全体でうまくいっている。局所的な情報しか認識できていない脳がそこに中途半端に介入すると、うまくいかなくなるということなのではないかと思います。
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