ピュリツァー賞記者が綴る、戦場を渡り歩いた末にたどり着いた「末期がんとの闘い」と生きる喜び
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月5日 10時28分
ノードランドの記事が表紙を飾った1986年の本誌英語版 NEWSWEEK ARCHIVE
40年来、私は折に触れてアフガニスタンに飛び、2021年までの9年間は毎年取材した。
だから脳腫瘍のために一線から離脱し、21年8月、米軍が惨憺たる撤退を繰り広げるなかイスラム主義組織タリバンが再び権力を掌握した悲痛な歴史的瞬間に立ち会えなかったときは、言い知れぬ挫折と絶望を味わった。
これは私が書くべき記事だった。現地には情報提供者もいた。タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官とは定期的に連絡を取っていた。
通訳を介して、考え得るシナリオを全て彼と検討したこともある。私には分かっていた。アメリカが支援していたような腐敗まみれの政権では、タリバンの勝利と復権は避けられない、と。
紛争地取材に必須の出口戦略
予想は的中した。私は事前に通訳を介してムジャヒドに、タリバンが復権した場合、首都カブールにとどまっても安全かどうか確認してもいた。彼は大丈夫だと請け合った。
ムジャヒドの人間性を知り抜いていたわけではないが、彼の言うことは信用できると確信していたし、その証拠は山ほどあった。
その何年か前、戦略的コミュニケーションなるものを担当する米軍当局者にタリバンの広報はアメリカのメディアに受けがいいようだが、米軍の広報とどう違うのかと聞かれたことがある。
私が「ムジャヒドにセミナーをやってもらったらいい。喜んでアレンジしますよ」と言うと、この当局者はムッとした顔をした。
私の口調に皮肉をかぎ取ったらしく、彼は「真面目な話だ。どこが違うか教えてくれ」と迫ってきた。
「そもそもタリバンは、本当のことを言うのが基本ですからね」と、私は答えた。
「何か聞かれて、正直に答えられない場合、彼らはそう言います。調べて後で答えると約束したら、何カ月も待たせるのではなく、何時間か後に答える。あなた方よりはるかに対応が早いんです」
「奴らは真実を突き止めようとしないからだ。われわれはこだわるが」
「へえ、そうですか」と私は言った。「そうであれば、あなた方もタリバンと変わらないってことです」
そのときとっさに思い出したのはアフガニスタンの政府軍強化を目指す米軍の取り組みを取材していたときのことだ。当時、米政府はアフガニスタンの空軍にアメリカ人が設計した新型ヘリコプターを何機も供与しようとしていた。
私はこの件を担当するアフガニスタンの将校に同行して、広報担当の米軍の大佐に会いに行った。新型ヘリが現地では役に立たないことを将校が説明し始めると、大佐は慌てふためいて必死で黙らせようとした。
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