ピュリツァー賞記者が綴る、戦場を渡り歩いた末にたどり着いた「末期がんとの闘い」と生きる喜び
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月5日 10時28分
時に、私の出口戦略は思考実験のようになる。時間稼ぎをして、ポーカーで言う「大勝ちするために相手の出方を待つ」作戦を取ったらどうか。
つまり最悪の破滅的事態をどうにか押しとどめ、やりたいことができない今の生活に耐えて、全く新しい奇跡的な膠芽腫の治療法が開発されるのをひたすら待つのだ。
散らばった癌細胞を完全に死滅させ、脳の可塑性を活性化させて、損傷を受けた部位を修復する。そんな治療法が登場するかもしれない。
この出口戦略を夢想している間は、衰弱し病苦にあえいだこの数年間も、濃密な仕事漬けの日々の静かな間奏曲のように思えてくる。
だが、私は現実主義者だ。そんな展開はまずあり得ないと知っている。
息子を膠芽腫で失ったバイデンは「癌ムーンショット」と銘打って治療法などの研究開発の支援に多額の予算を充てる政策をぶち上げたが、そのうちどの程度の金額が膠芽腫研究に回されるか心もとない限りだ。
たとえ有望な治療法が開発されたところで、私たち患者が生きているうちに実用化にこぎ着けることはまず期待できそうにない。
ロッド・ノードランド(ジャーナリスト)
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