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ピュリツァー賞記者が綴る、戦場を渡り歩いた末にたどり着いた「末期がんとの闘い」と生きる喜び

ニューズウィーク日本版 / 2024年4月5日 10時28分

タリバンは2021年8月、アフガニスタン全土を制圧。米英軍に見守られ祖国を逃れる GETTY IMAGES

将校はあきれ顔で構わず話を続け、新型ヘリの拠点はカブールだが、現状の飛行高度ではカブールを取り巻く高い峰々を越えられないと告げた。

攻撃能力も不十分なら装甲もお粗末。しかも標高の高いこの国の多くの空域は空気が薄すぎるため、長く飛び続けることは不可能だ、と。

こんな調子だったのだが、自分の予想どおりの展開になったとき、私は現地の混乱のただ中ではなく、ニューヨークにいた。そして関連記事を読みあさり、ニュース映像でカブール空港の大混乱を見ることになった。

この空港で離発着を何度繰り返しただろうと、私は思った。自分が書いた記事や出会った人々のことも。今まさに目にしているこの大混乱を不可避だと予想し、何度も書いてきた。それなのに今、現場にいない。まさかこんなことになるとは!

私が身を置いていたのは別の戦場だ。それは世界にとっては取るに足りない戦いだが、個人的には結果次第で全てが終わる大決戦だ。

長年の経験で学んだのだが、紛争地域での取材活動にはただ一つの黄金律がある。生き延びて事実を伝えるためには出口戦略が必須だ、ということだ。

制御不能な状況になった場合(そうなることは非常に多い)、迅速かつ安全に脱出できる戦略を常に用意しておく必要がある。

この黄金律は個人的に重要なばかりか、地政学的にも重要だ。カブール空港の混乱ぶりを目にして気付いたのだが、明らかにアメリカはまともな出口戦略らしきものを持っていなかった。ましてや事前にリスクを検討していたとはとても思えない。

今の私の戦い、生死を分ける戦いでは、出口戦略はさらに立てにくい。膠芽腫という厄介な状況からどうやって脱出できるのか。

「丸儲け」で生き永らえて

戦場に行って記事を書くとき、記者は必ずリスクと報酬をてんびんにかける。私は生き延びる確率をはじき出すことが習慣になっている。

この本が出版されるまで自分が生きている確率は、せいぜい6〜7%。私の年齢で膠芽腫と診断されたら、余命は中間値で15カ月だ。大ざっぱな計算で言えば、私の墓石の一番下には2020年11月5日没、享年71と刻まれるはずだった。

これを書いているのは23年だから、長年の付き合いの同業者ジョージ・デ・ラマの言い草ではないが、今の私はほぼ2年間「丸儲け」で生き永らえているということになる。

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