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「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界で愛される「これだけの理由」

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月1日 14時10分

各国のテレビ局は安く調達できる子供向けの番組として日本作品に飛び付いた。しかし海外の配給会社には番組が日本製であるとアピールする理由はなく、むしろ現地の子供たちに受け入れられやすいようにローカライズの工夫をした。

日本側も現地のローカライズに無頓着なところがあり、日本アニメは当初は日本製と気付かれず浸透していった。

大きな転換点となったのは、89年にアメリカで公開された『AKIRA』だ。本作では、むしろ「日本」が強調されている。物語の舞台は近未来の東京で、社会から疎外された少年たちがサイバーパンクなアクションを繰り広げるSFアニメ映画である。

主人公の金田は、細くつり上がった目、真っすぐな黒い髪、きゃしゃな体で、日本人そのものだ。ほかのキャラクターも同様で、見る側は日本を意識せざるを得ない。それまでの日本作品の登場人物が、8等身で金髪で大きな目をしているなど、無国籍なところがあったのとは対照的だった。

しかも『AKIRA』のディストピアな未来や複雑に絡み合う設定、激しいバトルは、同時代のSF小説や大人向けの映画に比肩するものだった。こうした題材がアニメーションで表現可能であること、子供のためでない大人の映像として成立することが、過去の作品とは何もかもが異質であると印象付けた。

『AKIRA』が当初、子供向けアニメ番組の視聴者とは異なる映像やアートなどのクリエーターらから絶大な支持を受けたのも納得できる。

『AKIRA』が開拓したファン層は、その後『攻殻機動隊』『獣兵衛忍風帖』『銃夢』といった作品に向かっていく。熱狂的なファンに支えられた映画やOVA(ビデオ向けアニメ)で展開される大人向けの作品群である。

これらはまた現在の深夜アニメと呼ばれるヤングアダルト向けの作品の源流でもある。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』『【推しの子】』など現在の世界的な人気作品もこの系譜にあると言えるだろう。

さらにもう1つ、80~90年代には別の日本アニメが海外に広がっている。スタジオジブリである。

パリでナルトのお面をかぶるアニメファン GONZALO FUENTESーREUTERS

世代を超えて鑑賞できる心温まるストーリーが、良質なアニメーションとして国境を超えて支持を集めるようになった。スタジオジブリがとりわけ注目された理由は、アニメーターの職人技とも呼べる手描きの素晴らしさだった。

90年代以降、世界のアニメーションの中心地であったハリウッドや、それに追随する世界の大きなスタジオの多くが制作の主力を手描きからCGに移していく。この中で素晴らしい手描きアニメーションを作り続けるスタジオジブリの作品の魅力は、かえって輝きを増していった。

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