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なぜ日本の「国語の教科書」に外国文学作品が載っているのか?

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月3日 10時53分

これはもちろんイギリスの作家ダニエル・デフォーの小説『ロビンソン・クルーソー』の抄訳である。なお『ロビンソン・クルーソー』は戦後も国語だけでなく、英語の教科書でも教材として用いられた。

この『尋常小学読本』では、絶海の孤島に流れ着いたくるうそうは、「野蛮人」を鉄砲で撃ち殺したりするが、こういった描写や植民地主義は当然ながら戦後の教科書では批判されていくことになる。

「ふか」挿絵 文部省編『尋常小学国語読本 巻十一』日本書籍、1929年 広島大学図書館 教科書コレクション画像データベース

明治の検定教科書である坪内雄蔵(逍遙)編の冨山房『国語読本 尋常小学校用』『国語読本 高等小学校用』(明治33年)は評価の高かった読本だが、翻訳教材を多数収録していることでも知られている。

たとえば『尋常小学校用』には「ふか」という読み物が掲載されている。南洋での航海中、遊泳している息子に迫るさめを大砲で撃退する水夫の話だが、これはトルストイ原作だ。

「ふか」は第一期国定教科書(明治36年~)、第三期国定教科書(大正7年~)でも用いられ、戦後の検定国語教科書でも使用例がある。

同『高等小学校用』には「おしん物語」(「シンデレラ」)やデ・アミーチス原作の「盲唖学校」(「耳の聞こえない女の子」)も収録されていた。

とはいえ「ふか」もふくめ、それぞれもとはロシアやイタリアの作品ながら、英語のリーダーを経て訳出されたものであり、読本には原作者名も記載されていない。

また「おしん物語」では「シンデレラ」は「おしん」に、「盲唖学校」では、「耳の聞こえない女の子」である「ジージャ」が「お徳」になるなど、猛烈に同化されていた。

こうした例が示すように、この時期の外国文学教材は外国のリーダー経由の翻案読み物だった。

「定番」外国文学教材の誕生

大正10年ごろから、論争を経て文学教育が評価されるようになると、数多くの文学作品が教科書や副読本に取り入れられるようになった。その流れの中で外国文学作品も教材として採用されていく。

もちろん、昭和10年代以降、戦時色が強まると外国文学作品は採用されにくくなってしまうが、それまでに繰り返し、何種類の教科書に掲載される「定番」と言ってもいいようなものも出現している。

ランキングをつくってみるならどうだろう。戦後も根強い人気を誇ったドーデ「最後の授業」や、第三期、第四期(昭和8年~)国定教科書に掲載されたシェイクスピア「リア王」も捨てがたい。

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