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アメリカという永遠の難問...「マグマのような被害者意識」を持つアメリカと、どう関係構築すべきか

ニューズウィーク日本版 / 2024年8月5日 11時0分

8月4日、スターマー英首相は、不法移民の排斥を求める抗議活動が難民滞在先のホテルを襲撃する事態に発展したことを受け、「極右の暴力行為」と非難し、加害者は法に基づき処罰されると述べた。写真は同日、北部ロザラムで行われた反移民デモで、ごみ箱を投げるデモ参加者(2024年 ロイター/Hollie Adams)

三牧聖子(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授) アステイオン
<今のアメリカは、世界のお手本となる「民主主義と自由の国」だろうか。もはやそう自明視できない。『アステイオン』100号の特集「「言論のアリーナ」としての試み」より「アメリカという永遠の難問」を転載> 

どんなに嫌いでも離れるには結びつきすぎていて、どんなに好きでもいつまで経っても理解できない。アメリカという国を理解し、関係を構築することは、いつの時代も難問だ。

1986年に創刊された『アステイオン』でも、多種多様なアメリカ論が展開されている。そしてそこには、今日喪失されてしまったかとも思える、アメリカへの健全な批判が満ちていることにまず気付かされる。

私たちは今、アメリカを批判的かつ建設的に分析できているだろうか。たとえば外務省HPは日米関係についてこう述べている。「日米同盟は日本外交の要」であり、両国は「自由、民主主義、人権の尊重といった基本的価値観を共有」する国である、と。

しかし、今のアメリカは、世界のお手本となる「民主主義と自由の国」だろうか。もはやそう自明視できない。2021年、世界の民主主義や選挙状況を分析する民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)の年次報告書は、アメリカを初めて「民主主義が後退している国」に分類した。

同じ年にピュー・リサーチ・センターが日本やカナダなど16カ国で行った世論調査でも、各国平均で6割近い人が「アメリカはかつては民主主義のよいお手本だったが、今ではそうではない」と回答した。

アメリカ人自身も、自分たちが享受する自由や権利の衰退を感じている。「過去10年間に自由や権利が奪われた」と感じているアメリカ人は7割近くに及ぶ。アメリカは今日でも、日本にとって重要な国だ。しかしだからこそ、この国が抱える病や問題を誠実に分析していかねばならない。

この現代の問いに照らして、草創期の『アステイオン』のアメリカ論は啓発に満ちている。たとえば池澤夏樹は、芸術時評「アメリカ時代の黄昏」(1号)において、ニューヨーク美術の観察を通じて「アメリカだけが、他の経済や政治の分野でと同様に、文化の領域でも独走を続ける時代はそろそろ終わりかけている」、「アメリカだけを見ている時代はもう過去に属する」という認識を大胆に打ち出している。

確かに当時は、ベトナム戦争がアメリカの全面撤退で終わったこと等を受け、「アメリカ衰退」論が論壇を賑わせていた時代ではある。しかし池澤の慧眼は、「アメリカの衰退」を悲観視せず、むしろ世界がより多極化する趨勢として歓迎していることだ。

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