なぜ、私たちはすぐに「正解」が分からないと満足できなくなってしまったのか...「デジタル化」と「紙媒体の弱体化」
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月21日 11時35分
早い理解は浅い理解になりがちなことをわれわれは経験から知っている。よく理解するためには、分からないことに向かい合い、決して問題点を見失わないという強い意志が必要になる。
さもないと「生成AI」と呼ばれる新技術を無制約に使用し、われわれの思考は機械任せになってイライラし続ける恐れがある。
(Ⅱ)旧稿「奴隷・ソフィスト・民主主義」では、第三点としてメディアと言論の自由の問題について述べた。
米国における「言論の自由」の現状に関しては『アステイオン93』(2020年)に掲載された「正義と開かれた議論についての公開書簡」(田所昌幸訳)にも実情が示されている。言論の自由を活力として発展してきた自由社会の危機がいかに深刻かが分かる。
古代社会には現代のような、高度の複写技術と通信技術は存在しなかった。しかし知識と情報が経済的価値を持つことには変わりはなかった。
教育は政治的・経済的野心を成就させるための有力な手段であることを市民は知っていた。言論の自由は多種多様な知識を開発・散布し、知識の質の良否についての判断力が求められる。
ペルシャ戦争後のアテナイの民主制は、学問が公共生活の舞台の中央に登場し、学芸と弁論が新しい真理の発見に必要欠くべからざる能力を与えるだけでなく、人を説得させる技術としても重視されたのである。
そのために、謝金を払ってでも、学芸と弁論術を身につけたいと思う者、それを教授する「半分教師で半分ジャーナリスト」のような職業人が現れた。いわゆるソフィストである。
彼らの多くは決して詭弁や屁理屈の妙手ではなく、人々の意見や考えの相違、不一致、あるいは一致への強制がないことが、人間知性開発の最良の方法であることを知っていた人々である。
人間の重要な知識の中には種々さまざまな関心から世界を探究していた人々の、「意図せざる副産物」として生まれ出たものが多いことも知悉(ちしつ)していた。
政治選択においては多数の意見に従うのが大原則であるが、多数が常に正しいわけではない。人気や世評は移ろい易い。
みんなが直ぐに関心を持つ問題を追求するのは学芸でもなく、ジャーナリズムでもなく、芸術でもない。自分の内発的な関心から孤独な探究を続ける研究者がいてこそ、その国の学問や文化に厚みと強さが生まれる。
そうした例は、近年日本のメディアに登場する研究者の厚みにも現れている。2022年2月のロシアによるウクライナ侵略は国際政治の急激な変動をもたらした。その原因をどのように理解し、戦況を正確に知るにはどうすればよいのか。
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