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なぜ、私たちはすぐに「正解」が分からないと満足できなくなってしまったのか...「デジタル化」と「紙媒体の弱体化」

ニューズウィーク日本版 / 2024年8月21日 11時35分

わが国の地域研究は、専門家の層が薄いと言われていた。しかしこれまで一般の人々には知られていなかった研究者が、テレビや新聞で専門家として解説を加え、われわれの蒙を啓(ひら)いてくれたことは記憶に新しい。

また、世界を驚かせた2023年10月のハマスとイスラエルとの戦闘も、現在だけを観察していてはわれわれ日本人には十分には理解できないところがある。

パレスチナ自治区ガザ地区やヨルダン川西岸のような地域がどのような歴史で生まれたのかを理解した上で現況を誰がどう説明できるのか。

しかしこの場合も、ガザ地区の内部の政治的社会的構造、その生成の経緯と現況に解説を加える専門家が現れた。

生物学からの例も記しておこう。30年近く前、「特定外来生物」に指定されている「セアカゴケグモ」がはじめて大阪で発見されて大騒ぎになったことがあった。

オーストラリアに生息するこの毒グモがコンテナなどに紛れて日本に運ばれてきたのだろうか。その直後、「セアカゴケグモ」の研究者がテレビで、その毒性や生息場所(自販機の下、排水溝の蓋の裏など)、噛まれた場合の応急措置について解説を加えていたことを思い出す。

近年の日本の研究費配分政策は「稼げるか」「役に立つか」という視点からの経済支援が基本となっている。したがって平常時には表面化しない事柄について研究する「役に立たない」分野の研究の経済的基盤は強くはならない。

こうした現象はわれわれの安全保障感覚の鈍さと無関係ではない。短期的な視点から「稼げるか」「役に立つか」を考えるだけでは、不確実性に満ちたこの世の自然現象や偶発事などに適切に対応することは難しい。

火事は滅多に起きないから消防署は不要だと論ずる類の教育・研究の評価基準ほど国を過つものはない。

「紙媒体」による公論形成の場の活性化を期待しつつ、最後に2点指摘して結びとしたい。

(1)日本には、ウェブのニュース、テレビ報道、良質の日刊新聞はあっても、週単位で世界情勢や国内政治を振り返る「週刊新聞」はなきに等しい。瞬時瞬時の事件の報道はあっても、その出来事を少し長期的な視野から再検討して「公論」を形成するという姿勢は弱い。

ちなみに日本の一部「週刊誌」は、大新聞が報道しないような重要なニュースを読者に伝え、社会の不正や歪みを告発する浄化機能を持っている。

近年いわゆる大新聞が報道しなかった重要な社会問題を「週刊誌」が取り上げ、執拗に報道し、問題の深刻さに警鐘を鳴らす事例がいくつかあった。

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