英暴動は他人事ではない......偽・誤情報の「不都合な真実」
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月16日 17時42分
メディアはトランプのおかげで、この旨みを知った。欧米各紙がファクトチェックに乗り出しているのも当然で、ファクトチェックによって、ひとつの偽・誤情報から二度、三度と旨みを味わうことができる。そして、偽・誤情報を扱う時のトピックスはSNSプラットフォームの責任が圧倒的に多かったことがわかっている。
メディアが大々的に扱えば政府も配慮せざるを得なくなる。欧米民主主義国の政府は中露イランなどからのFIMI、メディアが叫ぶSNSプラットフォームの責任とIBD、そして国内の治安に深刻な脅威となっているIBVEsなどの各方面に目配りして発言することになる。
専門機関もメディアと同様だが、ロシアなどFIMIの脅威を取り上げがちだ。
Metaが四半期ごとに公開する脅威レポートには数年前からロシアが、最初から検知されてメディアが取り上げることを狙って、効果がなく検知されやすいデジタル影響工作を実施していたことが何度か指摘されている(パーセプション・ハッキングの応用)。
各アクターの推しアジェンダには根拠がない
こうした各アクターの推しアジェンダ設定は誤報にはならないものの、ミスリードにはなる。トランプ暗殺未遂事件が起きた時、専門機関のいくつかはロシアが偽情報を仕掛けてきているという速報を出した。確かにロシアは偽・誤情報を拡散していた。しかし、目立つ事件が起きればロシアは必ず反応するのであり、特別なオペレーションでなければ警戒するほどのことはない。
この分野で有名なデジタルフォレンジック・リサーチラボは事件後の2024年7月18日に、ロシアの干渉の可能性を示唆する記事を出したが、あまり根拠となる定量的な裏付けはなかった。続報がしばらくないことから、自身でフライングだったことに気がついたのだろう。前述のパーセプション・ハッキングの応用の典型的な例であり、ロシアはほとんどないもせずに、アメリカの権威ある専門家の手によってアメリカ国内の情報空間を汚染することができた。
また、メディアの多くはトランプ暗殺未遂事件で偽・誤情報が氾濫したかのような報道を行っていた。後から誤報と言われるのを避けるために、意図的にSNSでの偽・誤情報が全体のどれだけの割合を占め、どのような影響が出ているかの説明をしないのがメディアでは通例となっている(きわめて不誠実だと思うのだが、なぜか容認されている)。全体量に対して偽・誤情報の割合がきわめて少なく、影響も確認できなければ氾濫しているような表現や、それが問題であるという指摘はミスリードになる。しかし、偽・誤情報そのものがあったことは間違っていないので誤報にはならない。ミスリードにならない表現を巧みに使っている。偽・誤情報はネットを検索すれば見つけられるし、ツールを使えば閲覧数の多い投稿をピックアップできる。「こたつ記事」と言ってもよいだろう。
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