「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月5日 17時17分
それによれば、第22研究所(すなわちCRIRP)は1963年に軍事目的で設立され、水平線の向こうの物体を捕捉できる「超水平線(OTH)」レーダーの国産化に向けた技術開発をリードしてきたという。
昨年、創立60周年の記念式典で陳欣宇(チェン・シンユィ)所長は「軍事力の強化」を主要な研究目標の1つに挙げた。陳は研究所の党組織を率いる党書記も兼務している。
CETCのウェブサイトによれば、習近平(シー・チンピン)国家主席がトップを兼務する党中央軍事委員会も他の軍事機関と共にこんな祝賀メッセージを送って称賛した。「(CRIRPは)軍需産業における主要な責任を堅持し、中国の国防近代化と総合的な国力向上に重要な貢献を果たした」
黄河基地の付近でオーロラを撮影する中国人研究者 XINHUA/AFLO
安全保障関連の公開情報の収集・分析サイト「データアビス」(米オハイオ州)や本誌の調査によると、CRIRPは人民解放軍の13の部隊と協力している。
例えば海軍92941部隊とは「海洋環境における死角領域でのレーダー探知」について、中央軍事委員会連合参謀部61191部隊とは「宇宙目標監視レーダー」について協力した。
RiSのサイトに掲載された研究内容によると、CRIRPは宇宙天気、オーロラ、電子を含む大気圏と電離圏の観測を行っている。いずれも攻撃目標の捕捉・追尾・特定に重要なデータだと、専門家は言う。
ある中国人研究者が匿名を条件に本誌に語ったところでは、黄河基地に設置した機器を使って中国国内の研究チームが分析を行う「リモート研究」も行われているという。
「気象観測から原油や天然ガスのボーリング調査、レーダーの秘密研究まで、あらゆることをやっているというのが私の評価だ」と、データアビス(米国防総省の資金援助を受けている)の創設者LJ・イーズは言う。
「中国人民解放軍に貢献していない環境・大気研究もあるが、問題は軍民両用研究だ」
「それが中国流のやり方だ」
スバールバル諸島での研究が軍事利用される可能性を示唆する状況証拠は既にある。CRIRPのもう1つの共同研究パートナーである解放軍理工大学の楊昇高(ヤン・ションカオ)は、スバールバルと南極基地のデータを使ってミサイル誘導技術の研究を行っている。
「電離圏の電場に変動が生じてもICBM(大陸間弾道ミサイル)が意図した弾道を確実に保持できる正確な誘導」を行うために、レーダー信号に対する「電離圏の擾乱の影響をよりよく予測し、軽減することは可能だ」と、楊は論文で述べている。
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