「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月5日 17時17分
中国はノルウェーなどと同じように、北極圏の海底資源にも大きな魅力を感じている。いずれの国の管轄権も及ばない深海底の資源開発を管理する国際海底機関(ISA)は、早ければ25年にも北極圏の深海底資源の採掘許可を出し始める可能性がある。
中国は北極圏での長期的な情報収集活動にも意欲を見せていると、スバールバルの知事特別顧問を務めるヨン・フィッチェ・ホフマンは言う。「中国は長期的なスパンで活動しており、今後どのように影響力を拡大するつもりか分からない。ただ、とてつもない情報収集能力がある」
ホフマンによると、中国関係者(国と直接結び付いているとは言い切れないことが多い)は、スバールバル諸島で最大の町であるロングイェールビーンで、不動産を購入したり住宅建設を提案したりして、中国の存在感を高めようとしている。
だが、ノルウェー政府がスバールバル諸島の重要インフラの管理を強化し、外国人への売却を制限する政策を取ったため、この領域での中国の試みは失敗に終わっている。
アラスカ沖では米沿岸警備隊が領海侵犯に目を光らせる U.S. COAST GUARD PACIFIC AREA
米政府はこうした状況を、指をくわえて眺めているわけではない。ホワイトハウスは22年にまとめた「北極圏国家戦略」で、中国進出への懸念を明記している。23年には米国務省が、10年近く閉鎖されていたトロムソの外交拠点を復活させた。
今年1月には米国土安全保障省が4600万ドルを投じて、アラスカ大学アンカレジ校に北極圏イダルゴセンター(ADAC)を設置。3月には、同省のディミトリ・クスネゾフ科学技術担当次官がカナダ政府の科学顧問と共にスバールパルを訪問し、最新情報を交換した。
警戒されるロシアとの協力
それでもアメリカはこの領域で後れを取っている。砕氷船は3隻しか保有しておらず、そのうち1隻は修繕中だ。これに対して中国は、6月に3隻目となる砕氷船「極地」の進水を発表し、来年には4隻目が完成するという。ロシアは数十隻の砕氷船を保有し、一部は原子力船だ。
ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアと中国の接近が目につくようになったが、それが北極圏にも及ぶようになることを、アメリカや同盟国は懸念している。
アラスカ大学フェアバンクス校北極圏安全保障・レジリエンスセンター(CASR)のトロイ・ブファード所長は、中国は圧力を強めており、緊急に対策を講じる必要があると語る。「今秋の米大統領選後も変わらない長期的なビジョンを持って、包括的で大規模な国家戦略を緊急に立案するべきだ」
米国防総省は7月、最新の北極圏戦略を発表し、中国に対抗して北極圏での軍事的プレゼンスと情報収集能力、同盟国との協力を強化する必要性を訴えた。
これについて中国外務省の毛寧(マオ・ニン)副報道局長は、米国防総省は中国の役割(毛に言わせれば「ウィンウィンと持続可能性」に基づく)をゆがめていると批判した。
中国とロシアはスバールバルでも協力する可能性がある。ロシア政府高官は昨年、かつて炭鉱の町として栄えたが現在はゴーストタウンとなっているピラミーデンに、BRICS5カ国の共同研究センターを設置することを提案した。
ニーオルスンから100キロほど北にあるこの町は、かつてソ連領だったことがある。
中国はこの計画に参加するのか。PRICは本誌の質問に回答していない。「自分たちの手の内を見せるつもりはないのだろう」と、ノルウェー北極大学のランテインは苦々しげに語った。
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