トランプ対ハリスのテレビ討論は事実上、引き分け
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月12日 13時30分
冷泉彰彦
<アメリカの多くのメディアがハリス優勢だったと報じているが......>
米東部時間の9月10日(火)午後9時から行われた大統領選のテレビ討論は、民主党の候補がバイデン氏からハリス氏に代わって初めての「対決」として注目されていました。実際の討論は、予定の90分を大幅に超過して2時間近く行われ、主催したABCテレビだけでなく、多くのニュース専門局でも中継され、ストリーミングも合わせると相当の視聴数を稼いだと思います。
その「勝敗」ですが、一夜明けたアメリカの多くのメディアはハリス氏が優勢だったと伝えています。例えば、CNNは投票未決定者を集めた簡易調査を行った結果として、ハリス氏優勢が63%、トランプ氏優勢が37%だったとしています。CNNの場合は、多少リベラル寄りの報道姿勢がある局ですので、割り引いて考える必要があるのは事実ですが、大手メディア全般の傾向としてハリス氏が優勢だったという声は多数派のようです。
その一方で、保守色の濃いFOXニュースの報道では、討論を主催したABCテレビの司会者が偏向していたという批判記事が圧倒的に多くなっています。司会への批判が多いということは、FOXニュースとしても討論の勝敗としてはハリス氏の勝ちを認めていると理解できます。
では、今回の討論の結果として、ハリス氏が更に勢いを増していくのかというと、冷静に考えて、そこまでの効果はなかったと思われます。ハリス氏の弁論が足りなかったのではなく、両候補が全く違う目的で討論に臨んでいたと考えられるからです。
まず、両陣営に共通していたと思われるのは、「自分は相手側の消極的支持者を自分の支持へと引っ張り込むことはできないし、そんなことは狙わない」ということです。更に言えば、「まだ態度未決定の無党派中間層にアピールして票を伸ばすのは無理」という姿勢も感じられました。
2人が闘ったそれぞれの目的
何よりも現在のアメリカ政治は分断の時代です。両陣営ともに嫌いという「ダブルヘイター」がいるという言われ方もしていますが、その場合も「本来はクラシックな共和党支持でもちろん民主党は大嫌い。でも、トランプも嫌い」か、あるいは「自分はリベラルで、もちろんトランプは大嫌い。だが、バイデンも高齢でイヤ」というように、「元の色」がある人がほとんどだと思います。
そんな中では、左右対立の向こう側から票を引っ張り込むことは無理。また色に染まっていない人というのは、そもそも限りなくゼロに近いと言えます。その意味で、純粋に客観的な立場から討論の勝敗を判定し、勝ったほうが未決定層を取るだろうというストーリーは、あまり意味がありません。
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