AIと人間を隔てるのは「身体性」...コンサートホールで体を震わせることこそ「人間的」だと言える理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 10時55分
片山 米ソの冷戦時代とは違う選択の時代に「人間はこれからどうなっていくのか」というとき、文明観、人間観も含めて人間中心主義で考え、最大限の自由を尊重するという路線と、自由を我慢できる中での自己実現をよしとする路線とがありますね。
こういう路線を改めて見直すと、「内なる自由」を保てるなら、余計なことは言わず捕まらないようにすればいいじゃないか、捕まるやつはバカだ、みたいなことになって、中国的なものを許容することになる。なぜ香港でわざわざ面倒な運動をして亡命するようなことをするのだ。バカじゃないのかと。
新しい秩序優位における「内面の自由」をよしとする考えですが、「内面が自由だから何をしてもいい、政治的に社会的に発言してもいい」というかたちの自由ではなく、「内面の精神生活だけが自由だ」と翻訳するわけです。
「内も外も自由だ、政治も文化も経済活動も束縛なしだ」という自由主義と資本主義の組み合わせの中で、実際に経済的パイがどんどん増えて、みんなにお金が回れば、それは幸福でしょう。
でも福祉はもたない、税の再分配はうまくいかない、貧富の差が開くということでは、自由主義陣営の自由は噓っぽくなってくる。自由を我慢しても我慢しなくても結果として大差ないじゃないかと。経済的自由がなければ政治的にも自由がなくては回らず、複数政党制になるはずだという当たり前が通らない。
拠り所としての「身体性の擁護」
田所 中国が問題だと言いましたが、本当に重大な問題は中国以上にアメリカ、そしてヨーロッパかもしれません。いわゆる合理主義的なリベラルモデルが内在的な問題を抱えていて、ガバナンス上の非常に難しい問題が起こっているということです。
一番本質的な問題はどんな人生、どんな社会を望み、どんな生き方をしたいのかということで、それを扱うのが芸術であり、なかでも始原的なのが舞踊だ。そこを考えなければいけないという最初の三浦さんのお話につなげて考えてみたいと思います。
人間が人間であるのは、当たり前だけれど身体を持っているということに依拠します。
AIと違うのは身体を持っていて、いずれは皆平等に老いて死ぬし、物を食べたらおいしくて、音楽を聴いて一期一会の経験に感動する。やっぱりコンサートホールに来て聴かないとダメよね、というのはそれですよね。
そこにチャレンジするのが、人間の意識だけを切り離してサイバー空間で完結できてしまう、という発想の人たちです。そして、それを政治の世界まで展開すると、サイバーの世界で全部けりをつけてしまおうという中国的な発想になると思います。
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