AIと人間を隔てるのは「身体性」...コンサートホールで体を震わせることこそ「人間的」だと言える理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月9日 10時55分
片山 そこは「身体性の擁護」という話に着地するのかもしれませんが、本当に難しい。中国は、政党がたくさんあり、誰もが個人的な意見を持ち、議論も経済活動も自由という時代の経験をすっ飛ばして今に至っています。
辛亥革命後は混乱状態が続き、日本との戦争を挟んで国共内戦があり、国民党を追い出して中華人民共和国になったわけで、中国の歴史には西洋型近代も西洋型文明開化も日本ほど内面化しようとする時代は無かった。
ロシアも同じで、国民が自由に考え、行動し、たくさんの政党同士が議論をするという時代を全く経験していないまま、中華人民共和国も今のロシアも21世紀に至っている。だからエートスとしての個人という価値観は、あれだけ巨大なスラブ世界にも中国大陸にもない。
そこには今まで議論されているような、自由を我慢できるはずがないモデルで我慢してしまう人たちが相当数いる。そのくらい厳しめに見ておいてもいいと思っています。
田所 このたび、本号の特集で若い方々に創刊時の『アステイオン』を読んでレビューを書いてもらっています。私を指導してくださった高坂正堯先生は「粗野な正義観」が闊歩する嫌な時代になったと書いています(2)。「アメリカがあちこちに介入して世界中をアメリカ流の自由民主主義にしようとしているけれど、やめたほうがいい」と。
三浦 なるほど、86年の段階での話ですね。
田所 はい。高坂先生が言及しているのはジョン・スチュアート・ミルの『内政干渉について(The question of intervention)』です。外から介入しても自由は実現できない、介入者が帰ったらまた元どおりになるというわけです。
40年近くたって、結局そうだったと思っている人が多いのではないでしょうかね。ある意味で世界は昔見たような国家の合従連衡(がっしょうれんこう)の時代に逆戻り気味なのですが、メディアの世界はすっかり変わってしまっています。
そこで、片山さんが先ほどおっしゃった「身体性の擁護」について伺います。「ネットの世界、ユーチューブでいろいろできるのだし、楽しかったらそれでいい」という人たちに対して「身体性が擁護されないといけない」と訴えるとき、どういう論理があり得るのでしょうか。
2004年にバイオ技術によってサントリーが開発した「青いバラ」。小ホールは、多くのアーティストによる新たな挑戦の舞台としての活用を願って「ブルーローズ」と名付けられ、入口に木製のブルーローズが飾られている。撮影:池上直哉 協力:サントリーホール
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