「真ん中が抜け落ちた国」アメリカの空白を埋めるのは誰か?...大統領選前に「液状化」を再考する
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月23日 10時55分
金成隆一(朝日新聞大阪本社社会部デスク) アステイオン
<2015年以降、アメリカの「ラストベルト」を取材し続け、2016年のトランプ大統領の誕生にも立ち会った日本人記者が見た、支持政党を失った人々と政治的な空白地帯について。『アステイオン』100号より「空白を埋めるのは誰か」を転載>
「出身地? ここだよ。この町で生まれ育った。そこの高校を卒業したんだ」
訪問先のダイナーやパブで居合わせた相手がこんなことを言うと、私の中で取材スイッチが入る。地元での半生を振り返り、地域経済や人々の暮らしぶりを語ってもらえませんか、と頭を下げる。地域に根ざして生きてきた人の視点を学ぶためだ。
自身の体験に基づき、自分の言葉で語ってくれる人が理想だ。ぼんやりした思いは、時間をかけて言語化してもらう。私は、つまらぬ断片知識で邪魔してしまわないよう聞き役に徹する。継続取材も許してもらえれば、自宅にお邪魔し、同窓会や通院、裁判にも同行させてもらった。
こんな取材を米国(2014~19年)と英国(21~23年)で試みた。米国では「トランプ当選」の震源地ラストベルトに、英国ではブレグジットの震源地の1つ、イングランド北部に通った。
いずれもリベラル系の政党(米民主党と英労働党)の地盤だったが、大きく揺らぎ、2016年に2つの衝撃を引き起こした。衝撃を起こした地方の声を集め、私なりにその意味を考えてきた。
米国から帰国後に書いたのが『アステイオン』93号の「真ん中が抜け落ちた国で」だ。
「真ん中」には、個人と国家の間にあり、異質な他者と出会える場としての教会や労働組合など「中間団体」、公共交通や公教育など誰もがアクセスできる「パブリック」、異なる意見があっても最後は妥協し「真ん中を探る姿勢」という3つの意味を込め、それぞれの弱体化が「分断」の背景にあるとの見方を示した。
この視点は今も変わらない。「真ん中」の機能低下の末、今では「分裂」までが懸念される事態になっていると考える。そんな視点に加え、英国滞在を経た今、米ラストベルトでも英イングランド北部でも、支持政党を失った有権者がさまよい、政治的な空白地帯ができていたとの思いを強めている。
英レッドウォールでさまよう労働者階級
イングランド北部では取材相手の階級認識を聞くよう心がけたが、ほとんどが「労働者階級」か「労働者階級出身」と答えた。
英国が「高度サービス経済」の国家に変容した今、聞こえてきたのは、ロンドンなどの都市だけが成長し、地方は置き去りという嘆きと、主要政党が遠い存在になったという不満だった。
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