どちらが勝っても日本に「逆風」か...トランプvsハリス、日本経済にとって「まだマシ」なのは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月1日 14時29分
加谷珪一(経済評論家)
<分断が進み、自国第一主義へと突き進むアメリカ──大統領選の結果は日本の金利・為替・貿易・企業にどんな影響を与えるのか>
アメリカ大統領選が間近に迫っている。日本経済はアメリカとの関係性が深く、常にワシントンの動向に左右されてきた。トランプ氏とハリス氏のどちらが大統領になってもアメリカの分断は確実といわれており、先行きは不透明にならざるを得ない。
経済政策については、両名に際立った違いがあるように見えるものの、根っこの部分では実は共通項も多く、総じて日本にとって逆風が吹きやすい。アメリカ大統領選と日本経済への影響についてまとめた。
◇ ◇ ◇
アメリカ大統領選挙は2024年11月5日に投票が行われる。共和党のドナルド・トランプ前大統領と、民主党のカマラ・ハリス副大統領との間で激しい選挙戦が繰り広げられているが、共和・民主両党とも内部で深刻な対立を抱えており、一枚岩の選挙戦とは言い難い。
背景となっているのは、アメリカ社会の根深い亀裂と分断である。
アメリカ経済はリーマン・ショック以降、量的緩和策の効果も相まって順調に成長してきたが、好景気の波に乗る富裕層と、それに乗ることができない中間層以下の分断が深刻となっている。
量的緩和策は中央銀行が意図的にマネーを市場に供給し、インフレをつくり出す政策であることから、物価と株価が上昇しやすくなる。富裕層の多くは資産価格の上昇によって富を拡大させる一方、勤労所得しかない中間層には物価高の悪影響が大きく好景気の恩恵が及びにくい。
アメリカと日本の金利政策と物価上昇 REUTERS (2)
もっとも、これまでは物価上昇が激しいとはいえ賃金も物価に追い付いていたので、中間層以下の不満も何とか吸収できていたが、コロナ危機やロシアのウクライナ侵攻をきっかけにその図式が崩れ始めている。
量的緩和策による貨幣的なインフレに加え、原油価格や食料価格の高騰など、コスト・プッシュ型のインフレも加わり、物価上昇に賃金が追い付かない状況が顕著となってきた。
今のところ何とか景気は維持しているものの、物価上昇と不景気が同時に進んだ1970年代のスタグフレーションが再来するのではないかとの見方も一部から出ている状況だ。
一連の経済環境の変化によってアメリカ国民の価値観は大きく変わり始めている。
これまでは多くのアメリカ人がグローバル経済のメリットを受け入れており、アメリカ企業が世界中で活動を行うことや、外国資本がアメリカに入ってくることは、最終的に自らの利益になると考えていた。自由経済を維持することこそがアメリカの豊かさを体現するという価値観である。
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