「そもそも安定した時代がなかった」シリアの運命はダマスカスとアレッポを結ぶ「回廊の覇者」が決める【地政学】
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月19日 15時45分
アラシュ・ライシネジャド(テヘラン大学助教〔国際関係学〕)
<外敵を阻止する自然の大きな「壁」がないシリアは、世界との貿易に開けていると同時に、軍事侵攻のルートにもなりやすい地形>
10年以上続いたシリア内戦が、バシャル・アサド大統領の出国により終わりを迎えた。今後は、反体制派のシャーム解放機構(HTS)を中心に、安定らしきものが戻ってくるだろう──。
そんなふうに考えるのは、残念ながら間違いだ。なにしろシリアには、戻るべき安定した時代など、ほとんどなかったのだから。
シリア内戦は、宗教やイデオロギーと同じくらい、その地理によって激化してきた。今回の戦争の終わりは、次の戦争の始まりを意味する可能性も十分ある。
■【年表】シリアの戦いの歴史 を見る
シリアには、国内にも国境沿いにも大きな自然の「壁」がない。北西部は地中海に面しており、世界との貿易に開けていると同時に、軍事侵攻のルートにもなりやすい。
東にはユーフラテス川が流れ、中央から南辺には砂漠が広がり、北辺はトロス山脈の南麓の平原が広がる。つまり、シリアの地理には外敵を阻止する壁もなければ、国内で最終防衛線となる壁もない。
現代のシリア国境の大部分は人為的に引かれたものだ。このため国境は脆弱で、権力は独立性が低く、国家としてのアイデンティティーも乏しい。
一方、国内は地形によって6つのエリアに分かれている。南西部のオアシスと、北部の地域貿易の重要拠点、西の地中海沿岸部、南の険しい高原、南北に走る回廊、そして平らで不毛な東部だ。
シリアの戦いの歴史
南西部のオアシスは、レバノンとの国境を成す山岳地帯と、東側の砂漠との間に挟まれている。首都ダマスカスはこのオアシスの中央に位置する。しかし、全国各地と有機的に結ぶルートが整備されておらず、歴代政権は力によって脆弱国家の内部崩壊を防ごうとしてきた。
北部の商都アレッポは、小アジアとメソポタミアを結ぶ交易の要衝だ。いつの時代も、小アジアを支配する者(東ローマ帝国、オスマン帝国、そして現在のトルコ)は、多くの人でにぎわうアレッポを物欲しげに見てきた。
シリアの政治の中心であるダマスカスにとっても、アレッポは重要なライバルであり、常に支配下に置いておきたい街だった。
外国軍の支援は海から
西部の地中海沿いには小高い山が連なっており、歴史的にアラウィ派(イスラム教シーア派の分派)やキリスト教徒といった宗教的マイノリティーが暮らしてきた(シリアの多数派はイスラム教スンニ派)。
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