アサド政権崩壊で、もうシリア難民に保護は不要?...強制送還を求める声に各国政府の反応は?
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月15日 14時17分
アンチャル・ボーラ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
<アサド失脚で迫害の恐れが消えた今、ヨーロッパに逃れた難民たちも母国に帰れるはずだ。ドイツやオーストリアは出国命令などを検討中だが、強制送還は条約違反で──>
シリアで反体制派のイスラム武装勢力がバシャル・アサド大統領を国外逃亡に追い込み、首都ダマスカスを掌握したのは昨年12月8日。以来、欧州ではシリア人の難民認定申請の手続きを一時停止する国が相次いでいる。
EUは対シリア制裁の解除に乗り出す可能性を示唆。かつて国際テロ組織アルカイダの関連組織だった「シャーム解放機構(HTS)」が主導する暫定政権の出方を注視している。
【関連記事】アサドを倒した「シャーム解放機構(HTS)」は「過激派」なのか、それとも「穏健派」なのか?
HTSは共存を呼びかけているが、シリアの少数派(クルド人やイスラム教シーア派の分派であるアラウィ派、キリスト教徒など)は、イスラム勢力から宗教上の敵やアサド派と見なされる懸念を抱いたままだとの報告もある。
ワシントン・ポスト紙によれば、少数派を狙った報復殺人も数件起きている。
だが欧州での議論は、大半のシリア難民を一斉に出国させるよう奨励または強制すべきか否かという段階に移っている。専門家や人権団体は、難民認定を申請中のシリア人と、既に欧州に滞在している120万人を超えるシリア人の将来に危機感を抱いている。
オーストリアのゲルハルト・カルナー内相は内務省に対し、「秩序ある帰還と強制送還」のためのプログラムを準備するよう要請した。
この議論が最も活発なのは100万人近いシリア人を受け入れており、2月23日に総選挙を控えているドイツだ。
移民・難民の初期受け入れ施設で昼食の列に並ぶ人々。大半がシリア出身者だ(2023年10月、ドイツ東部のアイゼンヒュッテンシュタット) SEAN GALLUP/GETTY IMAGES
ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は1月3日、ダマスカスでシリアの実質的な指導者アフマド・アッシャラア(別名モハマド・ジャウラニ)と会談。その直後にナンシー・フェーザー内相が、ドイツ在住の一部のシリア人の保護資格を取り消し、国外退去を命じる可能性があると表明した。
「シリア情勢の安定化を受け、ドイツでの保護が必要なくなったなら、わが国の法律が規定するとおり連邦移民・難民局はシリア難民への保護資格を見直し、取り消すことになる」と、フェーザーは語った。「この措置は居住権を持たず、自主的にシリアに帰国しない人々にも適用される」
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