「自分が食べておいしい」と感じたものだけを売る! 東京・早稲田のある商店主の“まちづくり”へのこだわり
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年4月4日 17時55分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
春は桜並木が美しい、東京の神田川。近くを走る都電の終点・早稲田駅から、早稲田大学の大隈講堂にかけて続く商店街、「大隈通り商店会」には、飲食店や弁当屋さんをはじめ、多くのお店が軒を連ねます。そのなかにこだわりの産地直送品を扱うお店、その名も「こだわり商店」があります。
店主の安井浩和さんは、早稲田生まれの46歳。小さい頃から家業のスーパーを手伝いながら育った安井さんは、20歳過ぎから店長を任されるようになりました。
ある日、商店街の会長を務めていた父親のもとへ、講演でお世話になった方から、一家ではまず食べきれない、大量のお米が贈られてきました。そのお米を見た父が、安井さんにこんな提案をします。
「売っちゃおう。ただ、丁寧に売ろう」
安井さんは「丁寧に売る」という言葉の意味が分からず、父に尋ねますが、「自分で考えろ」の一点張り。そこで安井さんは、お米のブランドや生産者を調べ、どんな思いで作られたのかを聞いて、そのエピソードと共に試食販売を行うと、瞬く間に完売してしまいました。
『丁寧に売るって、面白い!』
そう感じた安井さんは、家業のスーパーを継がないで、なんと閉店する決断をします。そして、全国を巡り、ありとあらゆるものを食べ歩いて、「おいしい!」と感じたものを1つずつ、ピックアップしていきました。
そして、およそ半年の充電期間を経た2007年10月、「自分が食べておいしい」と感じたものだけを売るお店、「こだわり商店」をオープンさせることになったのです。
安井さんが自信を持って開いた「こだわり商店」ですが、いざお店を開けてみると、売り上げはスーパーの時代の10分の1にも届きませんでした。こだわりの品を集めた分、1つ1つの品物は、値段が上がってしまって、「安さ」を求めてスーパーに来てくれていた人たちが離れてしまったんです。
でも、安井さんは、昔から来てくれていた常連のおばあちゃんのこんな言葉を思い出して、折れそうな気持ちを奮い立たせました。
「あなたとの会話が楽しくてお店に来てるのよ。あなたが居なかった時は寂しかったわ」
安井さんも売り上げを上げるために、必死で工夫を重ねます。例えば、エコキャンペーンと題して、ひと足早く、レジ袋を有料化しました。その代わり、家で余っていたレジ袋や紙袋を持参してもらって、お客さんみんなで使い回していこうという取り組みをやってみました。
じつはこのとき、安井さんは集まったレジ袋に印刷されているお店を1軒1軒訪ねて、お客さんが普段、どんなお店で買い物をされているのか、リサーチしていたんです。ときには、お客さんに直接、このお店で何を買ったのか、そしてどうしたら売れるのか、聞いてみたこともありました。
安井さんは、だんだんとお客さんのニーズをつかんでいきました。そして、生産者から商品を直接仕入れることでコストを下げて、大きなお店に流れていたお客さんを、少しずつ商店街に呼び戻していきました。各地とのパイプが増えてくると、生産者さんが生産者さんを紹介してくれるようになり、100あまりのアイテムで始まったお店は、今や1600を超えるほどになりました。
そうやって繋がった生産地の1つに、石川県珠洲市があります。珠洲で水揚げされたものがすぐに並ぶ地元のスーパーと連携して、早稲田のまちに珠洲の魚が並ぶと、たちまち売れていきました。例年、年末には「珠洲のおせち」を予約で受け付けるのが恒例になっています。
お店が軌道に乗った安井さんはいま、学生街ならではのお店作りを進めています。なかでも力を入れているのは、全国各地の中学校からの修学旅行生の受け入れです。中学生たちは自分のふるさとの品を持ち寄って、安井さんのお店で販売を体験します。最初は、「やらされている感」がいっぱいだった生徒たちも、次第にスイッチが入って、商品が売り切れると、みんな涙を流して喜ぶといいます。
「お客さんが私たちのことを褒めてくれたから、頑張ることが出来ました!」
そう話す生徒たちに、安井さんは小さい頃、お店を手伝って褒められた自分自身の姿を重ねながら、こんな言葉をかけています。
「キミたちは、ふだん買い物をしているお店を褒めたことはありますか? キミの買い物ひとつで、そのお店をよくすることが出来るんです。2店舗、3店舗と増えていけば、きっと、まちを変えることが出来る。それが“まちづくり”なんです」
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