アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『マリウポリの20日間』4・26公開決定
ORICON NEWS / 2024年4月2日 9時23分
先月10日(現地時間)に開催された「第96回アカデミー賞」で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画『マリウポリの20日間』(原題:20 Days in Mariupol)が、4月26日より公開されることが決定した。戦火にさらされたウクライナ東部・マリウポリの人々の惨状を命がけで撮影し、決死の脱出劇の末に世界へと発信されたAP通信取材班による奇跡の記録映像をもとに制作された作品だ。
【動画】映画『マリウポリの20日間』予告編
2022年2月、ロシアがウクライナ東部に位置するマリウポリへの侵攻を開始。これを察知したAP通信のウクライナ人記者であるミスティスラフ・チェルノフは、仲間とともに現地に向かった。
ロシア軍の容赦のない攻撃による断水、食料供給や通信の遮断…瞬く間にマリウポリは孤立していく。海外メディアが次々と脱出していく中、彼らはロシア軍に包囲された市内に残り、死にゆくこどもたちや遺体の山、産院への爆撃など、侵攻するロシアによる残虐行為を命がけで記録、世界に発信し続けた。
取材班らも徐々に追い詰められていく中、滅びゆくマリウポリと戦争の惨状を全世界に伝えるため、チェルノフたちはつらい気持ちを抱きながらも市民を後に残し、ウクライナ軍の援護によって市内から脱出することになる。
「これを見るには覚悟がいる。それでも見なければならない」
予告編は、マリウポリで実際に起こった凄惨な現実と、しかしこの状況が報道され世界へ拡散されることで「世界が変わる」という一縷(る)の可能性を信じる人たちの姿を捉えたもの。街中では、ロシア軍の印「Z」が刻まれた戦車が走り、爆撃投下を知らせるサイレンに怯えながら地下に避難する市民、やがて産科病院さえもターゲットになり妊婦らが被弾、大きなお腹のままで担架で運ばれ、小さなこどもは「死にたくないの」と、訴える。
穏やかだった日常から一転、混沌の渦となってしまったマリウポリの様子が次々と映しだされる。「この惨劇を世界へ伝えてくれ」惨劇の被害者となった一般市民たちを治療する医師は取材班に懇願。「この光景を必死に忘れようとしても、決して忘れることはできない」と監督自身が語る現実を、容赦なく世界の人々へと突きつける映像となっている。
アカデミー賞授賞式で、「おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かった、などと言う最初の監督になるだろう」とコメントした、本作の監督であり、ジャーナリストのミスティスラフ・チェルノフ(現在はドイツを拠点として活動)。AP通信社のビデオジャーナリスト、そしてウクライナ職業写真家協会の会長でもある彼は、ウクライナ東部の出身で、2014年にAP通信に入社して以来、欧州やアジア、中東の主要な紛争、社会問題、環境危機を取材してきた。
長年の同僚であるエフゲニー・マロレトカと、ウクライナの戦争に関連した問題を取材、報道しているワシリーサ・ステパネンコの3人のチームでマリウポリ包囲戦の取材を行い、ロシアによるこの都市に対する攻撃の目撃者たちの証言を世界に伝えた。この取材チームは、2023年にピューリッツァー賞公益賞も受賞している。
ポスターは、戦地となり、荒れ果ててしまったマリウポリの街を記録する取材班の姿を切り取ったもの。ほかのメディアが撤退した後も「真実を語る」ために、命をかけて最後まで残り続けたAP取材班の命がけの覚悟を映し出すようなビジュアルとなっている。
ポスタービジュアルにも採用された写真のほか、ロシア戦車によってアパートが爆撃される様子、空爆によって被害を受けた産科病院から怪我をした妊婦が運び出されるカット、取材チームの1人でもある写真家のエフゲニー・マロレトカが、空爆の後にマリウポリ市内の産科病院から立ち上る煙を指さす姿、マリウポリ市内で避難生活を送る人々を捉えた場面写真も公開された。
■2024年3月10日「第96回アカデミー賞」授賞式 ミスティスラフ・チェルノフ監督の受賞コメント(全文)
この作品はウクライナ映画史上初めてアカデミー賞を受賞しました。しかし、おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かった、などと言う最初の監督になるだろう。このオスカー像を、ロシアがウクライナを攻撃しない、私たちの街を占領しない姿と交換できれば、と願っています。
ロシアは私の同胞であるウクライナ人を何万人も殺している。私は、彼らがすべての人質たち、国を守るために戦うすべての兵士たち、刑務所にいるすべての民間人たちを解放することを願っています。
しかし、歴史を変えることはできません。過去を変えることもできません。私はあなた方に、世界で最も才能のあるあなた方に呼びかけます。私たちは、歴史を正しく記録し、真実を明らかにし、マリウポリの人々や、命を捧げた人々が決して忘れ去られないようにすることができます。
なぜなら、映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成するからです。
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