緑茶市場の停滞、“ゴクゴク飲める”に振り切りすぎた? お茶の価値を再定義する試金石となるか…『新・伊右衛門』の覚悟
ORICON NEWS / 2024年4月12日 9時40分
2004年の発売以降、ペットボトル緑茶として長く親しまれ、今年20周年のメモリアルイヤーを迎えるサントリー『伊右衛門』。ところが2023年、ペットボトル緑茶のNB商品全体が落ち込む中、『伊右衛門』も過去最低の売上を記録。巻き返しを図るべくサントリーは、3月12日に”史上最高レベルの濃さ”を誇る新しい『伊右衛門』を発売した。これまでのイメージを刷新する今回のリニューアルにかけた思い、商品開発のプロセス、緑茶市場の今後の展望について担当者に聞いた。
【写真】緑茶カラーの衣装で登場、伊右衛門の新CMに出演する堺雅人、古川琴音
■『伊右衛門』筆頭に大手NB緑茶が総崩れ、原因は緑茶としての価値の希薄化?
2023年、サントリー『伊右衛門』が過去最低の売上を記録。同じくペットボトル緑茶の『おーいお茶』(伊藤園)、『生茶』(キリンビバレッジ)、『綾鷹』(日本コカ・コーラ)も軒並み売上を落としている。緑茶市場全体としては落ちていないものの、消費者がより安価なPB(プライベートブランド)商品へと流れ、NB(ナショナルブランド)が押された形となっている。
「これは自分たちの努力不足です。少なくとも『伊右衛門』においては、商品の価格に見合う価値をお客様に提供できていなかった。それが去年の結果であり、そこを工夫しなきゃいけないと危機感を持ちました」
2004年の発売以来、何度もリニューアルを敢行してきた『伊右衛門』。近年では、2020年に、”ゴクゴク飲める清涼飲料”としての要素を打ち出し、一旦は売上を伸ばしている。しかし三宅さんは「これが大きな反省点だった」と振り返る。
「昨今、亜熱帯化が進み、人々の水分摂取量が上がる中、お客様の『ごくごく飲めるものを飲みたい』というニーズから、麦茶や水がすごく伸びてきました。そこで『伊右衛門』も”水分補給としての緑茶”というニーズにかなり合わせたんですね。緑茶らしさを残しながらもゴクゴク飲める中身に仕上げた結果、一旦は伸びましたが、結果として『それなら麦茶でも水でもいいよね。わざわざ緑茶を飲む価値って何なの?』という命題にもぶち当たりました。つまり飲料全体のトレンドを見すぎて緑茶を動かしすぎてしまい、結果、緑茶としての価値が希薄化してしまった……それが去年までの状況です」
■「緑茶にしかできない価値とは?」難産の末、史上最高レベルの濃さを実現
そんな反省もあり、2023年『伊右衛門』は大幅なリニューアルに踏み切ることに。”ゴクゴク飲める”清涼飲料としての価値を一旦横に置き、「緑茶にしかできない価値とは何か?」という原点に立ち返った。これはかなり大きな転換点だったという。
「清涼飲料としての価値は水や麦茶に任せておけばいい。僕らは緑茶にしかできない、緑茶でしか味わえない価値をもう1回考えようと。極端に言えば、今僕らが飲んでいただきたい、本当に美味しい緑茶の味を追求してみようと思ったんです。社内でもいろんな議論がありました。”ゴクゴク飲める”飲料が求められる中、それとは大きく違う方向に行こうとしたので、経営陣からは『理屈は分かるが、行く方向がそっちでいいのか? そこに答えはあるのか?』と言われました。経営陣だけでなく、開発に取り組む僕らも100%の確信はなかったです。本当にこれがお客様に受け入れられるのか? といった不安を抱えつつも、前に進もうとしていました」
20年の長きに渡ってタッグを組む福寿園にも「もう1回美味しいお茶を作りましょう」と呼びかけた。互いに議論を繰り返した結果、福寿園の売れ筋商品である「深むし茶 京の緑茶」を一つのモデルとして、新しい伊右衛門を作ることに。
「開発にかけた約6ヵ月間は、とても密度の濃い時間でした。僕ら開発チームがプレゼンして、ダメ出しが出たら緊急ミーティング。翌日にまた別の中身とデザインを出す……そんなスピード感でした。もう何百作ったか分からないくらい、試作を繰り返しました。難産でしたが、今の中身ができた時に僕らはいけると思いましたし、経営陣も飲んで『なるほど。君たちが言っていたのはこれなんだね』と言ってくれました」
こうして完成した新・伊右衛門は、茶葉量1.5倍、旨み抹茶3倍、カテキン約2倍、コク約3倍で、同商品史上最高レベルの濃さを実現。ユーザー調査の結果も良好で、三宅さんら開発チームはかなりの手応えを感じている。
「今回の伊右衛門の味は他と明らかに違っていること、かつ『美味しい』と思っていただけること、この二つを調査結果としてきちんと出すことが一番の課題でしたが、最終調査でその結果を得られて『いける』と思いました」
三宅さんが言うように、新しい『伊右衛門』は一口飲んだ時に味の濃さ、旨味、深みなどをしっかり感じられる商品に仕上がっている。いわゆる”ゴクゴク飲める”タイプというよりは、じっくり味わって飲むタイプの緑茶と言えるだろう。
「”1本飲み調査”として、飲み始めと飲み終わりの評価を見たところ、飲み終わりの評価がすごく高かったんです。ぬるくなってもお茶の味がしっかり感じられ、最後まで美味しく飲めると感じていただけた。なので、”ゴクゴク飲める”感覚は落ちたとしても、それはそれでよいと思いました」
■今後の緑茶市場は二極化していく? 「伊右衛門はその片方を担っていける存在」
今回のリニューアルに伴い、テレビCMでは堺雅人、古川琴音、webCMでは小島よしおをキャラクターとして起用。これまでの純和風のCMから、ガラリと作風が変わっている。
「これまでは作り手側のストーリーを描いていましたが、今回は作り手側から飲み手側に視点を変えたことが一番のポイントです。CMの中で堺さんに『お茶なんてどれも同じでしょ』と言っていただいていますが、あれが飲み手であるお客様の気持ちだろうと。それを堺さんに代弁していただきました。『私もそうなんだよ』という飲み手側の共感はとても大事だと思うので。小島さんのwebCMでは、辛いニュースが流れてくるタイムラインの中に『おっちゃっぴー』が一つ入ってきます。あれは、日々辛いことがあるけど『お茶を飲んで一息つきましょう。お茶でピースになりましょう』と言いたかった。それがお茶の役割ではないかと。もちろん、たくさんの人に飲んでもらいたいというメッセージも含んでいます」
今年20周年のメモリアルイヤーを迎える『伊右衛門』。「伊右衛門のコンセプトは『最も美味しそうに見えて、事実最も美味しい緑茶をつくる』でしたが、今回その原点にもう一度戻ったと思います」という三宅さん。今回の『伊右衛門』リニューアルを経て、今後の緑茶市場はどのように活発化していくのか?
「他社さんも含めて、きっと色々なことを考えていると思っています。僕が思うに、緑茶市場全体としては二極化して、”ごくごく飲める、すっきりしたタイプ”と、”お茶の味をしっかり感じられるタイプ”の2グループが今後大きくトレンドをつかんでいく気がします。『伊右衛門』はその片方を担っていけると思いますし、僕たちはその期待を込めてじっくり飲む緑茶の再構築を図りました。今後どう変革していくか楽しみです。今グローバル時代で多くの人たちが海外に出て行きますが、帰ってきた時に『やっぱり日本の緑茶は美味しい』と思ってもらいたいし、インバウンドで日本に来られた外国人の方たちにも緑茶を美味しく飲んでいただきたい。多くの皆様に『緑茶って美味しい』と思ってもらいたいし、それを伝えられる『伊右衛門』でありたいです」
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