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「入浴が面倒=うつ病」は本当? “真偽”を精神科医に聞く

オトナンサー / 2024年4月30日 9時10分

入浴が面倒に感じる場合は、うつ病の可能性がある?

 疲れているときに、風呂に入るのが面倒だと感じることはありませんか。SNS上では、「風呂に入るのが面倒すぎる」「髪の毛を乾かすのが面倒で、風呂に入るのがだるい」「風呂掃除が面倒」など、さまざまな意見が上がっています。

 ところで、ネット上では「風呂に入るのが面倒に感じる場合、うつ病の可能性がある」という内容の情報がありますが、本当なのでしょうか。「出雲いいじまクリニック」(島根県出雲市)院長で、精神科医・総合診療医の飯島慶郎さんに聞きました。

■入浴の頻度でうつ病の状態を確認することも

Q.風呂に入りたくないと感じることがあるのは、なぜなのでしょうか。

飯島さん「『入浴』という言葉をよく考えてみると、そこには次のようなタスクが集合していることがよく分かります」

(1)脱衣場で服を脱ぎ、浴室に入る。
(2)髪を洗う。
(3)体を洗う。
(4)浴槽につかる。
(5)浴槽のふたを閉めたり、床の髪の毛を洗い流したりするなど、浴室をきれいにする。
(6)脱衣場に戻り、髪や体を拭く。
(7)下着やパジャマを着る。
(8)ドライヤーで髪を乾かす。
(9)脱衣場を元の状態に整える。

これだけでも多くのタスクを含んでいますが、例えば、髪を洗うこと自体も『まず湯で髪を洗い流す』『シャンプーを使って髪を洗う』『湯でしっかり洗い流す』『リンスを髪になじませる』『湯で洗い流す』といった、さらに小さなタスクから成り立っています。

また、これらのタスクに加えて、女性の場合はメーク落としや結髪、肌の手入れなど美容関連の動作がさらに加わります。そして、それぞれをさらに小さなタスクに分解できます。

このように、入浴と一言で言えてしまう動作は、驚くほど多くの作業工程を含んでいることが改めて分かります。面倒に感じない方が実は不思議なのかもしれません。

Q.ネット上では、「風呂に入るのが面倒に感じる場合、うつ病の可能性がある」という内容の情報がありますが、本当なのでしょうか。

飯島さん「細々とした動作を組み合わせ、1つの目標を達する能力を『遂行機能(実行機能)』と呼びます。例えば、入浴は高い遂行機能が要求される行動の一つです。

脳が正常に動作している場合、遂行機能は無意識のうちに問題なく働く一方、脳卒中や認知症などで脳の前頭葉に障害が生じると、遂行機能が十分に働かなくなることが知られています。

近年、うつ病の場合でも、遂行機能に大きな障害が生じることが学術的に明らかになってきています(※1)。そのため、うつ病の人が入浴動作を十分に行えなくなることも容易に想像できます。

また、『日本うつ病学会 うつ病看護ガイドライン(2020)』の中では、『うつ病患者は、(中略)うつ気分によりセルフケアが妨げられ、生活機能全般を維持することが困難になる』という記載があります。この生活機能全般には当然、入浴も含まれています。

お風呂に入るのが面倒になったからといって、必ずしもうつ病の初期段階とは限りませんが、うつ病の可能性は否定できないでしょう」

Q.実際にうつ病の人は、風呂に入りたがらない傾向にあるのでしょうか。

飯島さん「実際の診療では、私は『お風呂に入りたくない』『お風呂に入れなくなった』といったことを訴えるうつ病の人によく会います。先述のうつ病看護ガイドラインのように、そもそも、うつ病は日常生活全般が困難になる病気なので、当たり前といえば当たり前です。

私のクリニックでも、患者さんがお風呂に入れているかどうかをよくチェックします。例えば、週に1~2回しか入浴できていなかったうつ病の患者さんの中には、症状の回復とともに入浴回数が増えていく人がいます。

一方、『十分回復しました』とおっしゃる患者さんに話を聞いてみると、実は毎日入浴できていないことが分かるケースがあり、その際はまだ全快ではないと判断します。

また、私の専門分野とも関係しますが、お子さんのうつ病の診療をするときには、『お風呂に入ることをどれくらい嫌がるか』をかなり参考にしています。子どもは自分でうまく症状を訴えることができないため、こうした客観的な情報が大変重要になるからです。

うつ病の人の日常生活にどのような支障が出るのかについて、詳細に報告した論文はほとんど見当たりませんでした。恐らく、うつ病の人の日常生活が困難にさらされるのは医学的に常識過ぎて、研究テーマにする人が少ないのではないでしょうか」

Q.入浴が面倒だと感じるようになった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

飯島さん「入浴のような高い遂行機能を要求するタスクを処理しにくいと感じる場合、脳に疲労がたまっていると考えることもできるでしょう。その際は自分の心身をいたわり、そういった傾向が悪化しているかどうか、経過を見ると良いと思います。悪化する一方であれば、医療機関に相談することをお勧めします」

【参考文献】
(※1)Rock PL et al.Cognitive impairment in depression:in a systematic review and meta-analysis.Psychol Med.2014;44:2029-40.

オトナンサー編集部

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