道長とまひろの思いは、次の世代に伝わるのか。“ラブレター”として詠んだ「愛のうた」って?【NHK大河『光る君へ』#44】
OTONA SALONE / 2024年11月18日 22時30分
*TOP画像/道長(柄本佑) 大河ドラマ「光る君へ」 44話(11月17日放送)より(C)NHK
平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第44話が11月17日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
摂政と大臣を辞すことを決めた道長
内裏では三条天皇(木村達成)がこの世を去った後も、人びとの思惑が複雑に絡み合う状況が続いています。そうした中でも、道長(柄本佑)はうまく立ちまわり続け、我が子や孫をつかって自身の基盤を固めていきます。
道長は後一条天皇(橋本偉成)の摂政として申し出の判断を行う権を得ました。租税の減免を希望する国には「租税は 減免せよ」と率直に答えることや、「あしき先例は 速やかに改めて当然である」と公卿の前で主張することもありました。道長は民の力になれる地位までようやくのぼりつめたかのように見えました。
しかし、現実はそう甘くはありません。公卿たちから権力集中を懸念する批判的な声が上がります。幼い頃から親しくしていた公任(町田啓太)からも「内裏の平安を思うなら 左大臣をやめろ」と言われてしまいます。
道長は帝を摂政と大臣の権をもって支えることこそが皆のためだと思っていましたが、実際はそうではないことに気づきます。内裏は自らの志を実現するためにひとりで奔走できる世界ではないのです。また、民のためだといって先例をひとりで覆したり、公家の声を一切無視して民の声だけに耳を傾けたりしていれば世がよくなるというわけでもないのかもしれません。
頼通は道長の思いを受け継げるのか。長い年月を経て成し遂げられることもある
道長は摂政と大臣を辞すことを考えます。道長とまひろの間では以下の会話が交わされていました。
「摂政まで上っても 俺がやっておっては世の中は 何も変わらぬ」
「頼通様に摂政を譲られるのでございますか」
「ああ」
「頼通様に あなたの思いは伝わっておりますの?」
「俺の思い?」
「民を思いやるお心にございます」
[中略]
「道長様のお気持ちがすぐに 頼通様に伝わらなくても いずれ気付かれるやもしれませぬ」
「そして 次の代 その次の代と 一人でなせなかったことも時を経れば なせるやもしれません」
道長は摂政と大臣の権をもつという異例の力を得ましたが、それでも世を変えられないばかりか、公卿からも批判的なまなざしを注がれることになりました。
まひろも道長が自分との約束を実現するためにひたすら走ってきたことを知っているからこそ、現在の世の中では民のための政や世の歪を正しきれないことも理解しています。しかし、まひろは道長が世を変えられなかったとしてもそれで終わりではなく、次の代、次の代と世が移り変わるなかで成し遂げられるかもしれないと考えています。
考えてみると、今の世の中は一瞬にしてできあがったわけではありません。現在の日本では政治家たちは国民のための政策を話し合っています。また、国民は選挙権を性別問わずもっており、リーダーを自分たちで選べます。病気や災害などで独力で生きられなくなった人たちを支える制度もあります。一方、平安時代は内裏で民のための政策が話し合われる機会は今よりもずっと少なかったはずですし、生活保護制度や国民保険などもありませんでした。
本作は実在の人物をもとにしたフィクションであるとはいえ、まひろと道長の志が今の世の中に脈々と流れているのは確かです。まひろや道長のような人たちが存在し、声を上げてきたからこそ、今の世があります。道長は光る君の物語を人の一生のむなしさが描かれていると解釈しましたが、長い目で見るとむなしいだけではないのが人間なのかもしれません。本作を通して過去が今にいかにつながっているかを考えさせられます。
自らの栄華をうたったとされてきた「望月の歌」。本作ではまひろと道長の「愛のうた」に
道長は威子(佐月絵美)が中宮となったことを祝ううたげで、かの有名な歌を詠みました。
「この世をば わが世とぞおもう 望月の かけたることも なしと思えば」
史実では、権力の頂点に立ち、この世を我が世と思った道長が自らの栄華を詠った歌として「望月の歌」は解釈されています。満月には欠けるところがないように、自分もなにもかも手にしていると詠った歌としてとらえられることが多いです。
しかし、本作では道長がまひろに宛てた“ラブレター”として変換されていると解釈できるかもしれません。
まひろと道長の約束は満月の日の夜でしたし、ふたりは別の場所で月を見ながら相手のことをそれぞれ思うことがありました。現在の道長は自分の力の限界も知り、一家三后を実現したものの政が思い通りにならない現実に直面しています。まひろは道長が自分に注ぐ愛情だけではなく、祝いのステージに立って、周囲に称えられている彼の心の内も知っているからこそ感極まったはずです。まひろに視線を送る道長は「俺たちここまできてしまったな」と微笑みかけているように感じられます。まひろにやさしく頷き返してもらうことを求めているかのように。
▶つづきの【後編】では、「飲み屋」は平安時代より前から存在していた?お酒が苦手だと平安貴族は大変だった!?……についてお届けします。__▶▶▶▶▶
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