【アジアパラ】パリパラリンピックの出場切符をゲット! 卓球・和田なつきは「ドーナツを持ったシンデレラ」
パラサポWEB / 2023年10月27日 7時55分
ドーナツを持ったシンデレラが、パリ2024パラリンピックの出場権を獲得した。中国・杭州で開催されているアジアパラ競技大会。卓球は26日にシングルスの決勝が行われ、女子クラス11(知的障がい)で20歳の和田なつきが、3-1で王婷莛(香港)を破って初優勝。パリパラリンピックの出場権を獲得した。
逆転勝利で優勝した新鋭の和田(写真左から2人目) 体格の良さとサーブのバリエーションが武器8月のタイオープンではフルセットの末に敗れたが、雪辱した。第1ゲームは相手の強打に押されて10-7から4連続失点。11オールで追いついたが11-13で先取を許した。しかし、第2ゲームからは自信を持っている多彩なサーブで相手を翻弄。また、攻め急ぐことなく、相手のドライブをしっかりとブロックしてから形勢逆転に持ち込む戦い方が光り、11-3、11-6、11-6と安定した戦いで勝ち切った。
「ホッとしました」と涙を流した和田和田は「まだ優勝した実感が沸かないけど(パリに出るために)この後の大会のこととかも考えていた。パリのチケットが手に入ったので、今すごくホッとしています」と笑顔を見せた。
身長173㎝と恵まれた体格を持ち、打てる範囲が広いのは一つの強み。加えて、中学生の大会などの映像を見て真似することでバリエーションを増やしているサーブの種類の多さが武器だ。
アジア女王に輝いた20歳は、パラ卓球界に突如現れたシンデレラだ。ダブルスで国際大会にデビューしたのが、昨年11月。シングルスでのデビューとなった5月のチェコオープンは、ベスト4を目標に臨んだが優勝。さらに台北オープン、台中オープンと3連続優勝を飾り、一気に世界ランキングを上げてきた。
現在の世界ランキングは、クラス11の日本選手最高の2位 ダイエットが目的で始めた卓球が運命を変えたパラリンピックへの挑戦は、2028年のロサンゼルス大会がターゲットだと思っていたが、国際デビューから1年足らずで早くもパラリンピックの切符を獲得。「中学生の頃は、学校にも行けないくらい精神的に落ち込んでいたときがあったので、そこから考えると、信じられないような人生」と驚きを隠さなかった。
小学校でいじめを経験して学校が怖くなり、中学校はほとんど通学できなかったという。中学2年時、知的障がいがあると診断を受け、3年生のときは地元大阪の西浦支援学校に通った。
卓球を始めたのは、その頃だ。「今より17㎏くらい重かった」という体重を落とすダイエットを目的に、近所のエレファントTTC卓球場に足を運んだ。しかし、重い体でフットワークの練習はきつく、10分も運動をすれば疲れてしまうほどで、楽しくもなかったという。
それでも、卓球は続けた。「卓球でつながって、いろいろな人と会えるので、自分に自信が持てるようになりました」と話した部分は、一つの大きな理由だったのだろう。本格的に競技者として高みを目指そうと思ったのは、高校1年生の2019年。まだ競技歴が浅かったが、パラFIDジャパン・チャンピオンシップ卓球大会の女子オープントーナメントで4位。
勝負をして勝つことの楽しさを知ったことがきっかけだ。和田は「天才じゃね? と思い始めた」と笑って振り返る。
試合後、和田は道畑コーチのもとに駆け寄って喜びを分かち合った“楽しさ”が、眠っていた才能を起こした。エレファントTTC卓球場の道畑総一郎コーチは「サーブは、教えることもありますが、自分で動画を見て、これは使えるとか、使えないとか。練習時間は2~3時間しかもたないのですが、一人でやっているときの集中力は、抜群に高い」と和田を評する。
新しい世界を見せてくれた卓球にのめり込み、今はその世界を駆け足で走り回っているところだ。
パリパラリンピックに向けて「金(メダル)は獲りたいです。でも、強い人ばかりなので、まず自分らしいプレーをできればいいな」と意気込みを語った和田のインスタグラムのプロフィールアイコンは、知人に描いてもらった似顔絵。右手にはラケットを持っているが、大好きなお菓子を持っている絵にしてほしいという本人のリクエストにより、ドーナツを持ったイラストになっている。パラ卓球界に突如現れた「ドーナツを持ったシンデレラ」。その勢いと輝きは、パラリンピックの大舞台に向け、まだまだ増していきそうだ。
アジアパラは、総合競技大会。開催地・杭州の熱意は高く、会場は健常者がプレーしたアジア大会と同じ環境が用意され、多くの観客も入っている。大会初日、和田は「台がいつもと違うし、点数が審判の下のところに表示されたり。初めての環境で試合をして、すごく緊張しました。応援もあって、なんか輝いていると感じました。緊張はしましたけど、楽しかったです」と興奮気味に話していた。
金メダルを手に笑顔を見せる和田表彰台の上に立ち、華々しい舞台で最も輝いた和田は、これからが楽しみな選手だ。
edited by TEAM A
text by Takaya Hirano
photo by Takamitsu Mifune
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