【逆説の日本史】ロシアの第一次大戦からの離脱で英仏が目をつけた「チェコ軍団」
NEWSポストセブン / 2024年11月21日 16時15分
そうこうするうちにロシアでは革命が起こって帝国が崩壊し、十月革命でソビエト連邦が誕生した。正確に言うと、この時点の正式な国号は「ロシア社会主義連邦ソビエト共和国」で、周辺の国家を統合して「ソビエト社会主義共和国連邦」となったのは内戦終了後の一九二二年(大正11)である。一九一七年時点で、ソビエト共産党は白軍を殲滅するためには世界大戦などしている場合では無いと、ドイツとの単独講和に踏み切った。これは英仏から見ると、同盟軍ロシアの戦線離脱によって西部戦線が手薄になることになる。そこでドイツ軍の反転攻勢を怖れた英仏が目を付けたのが、チェコ軍団であった。
読者は、チェコという国をどのように認識しているだろうか。
団塊の世代なら、チェコというと「チェコスロバキア」という国名が反射的に浮かび上がってくるのではないか。ソビエト連邦の「属国」としての東欧六か国の一つであり、そこから「独立」した後も「チェコスロバキア連邦共和国」であった。
その国がチェコとスロバキアの二つの共和国に分かれて現在に至るわけだが、そもそもチェコ人とスロバキア人は同じスラブ系ではあるが別の民族だった、しかし巨大な帝国からの支配を嫌う勇猛果敢な独立心の高い人々であり、汎スラブ主義(スラブ人同士が団結して国家を作ろう)の影響を受け、チェコとスロバキアが力を合わせて帝国支配に抵抗しよう、という機運が高まっていた。
ただ「本家」の汎スラブ主義は、ロシアを盟主としてスラブ人が団結するというもの(お気づきのように、これはソビエト連邦の国家運営とも、現在ロシア共和国の独裁者プーチン大統領の政治思想にも影響している)だったが、チェコ人もスロバキア人もそんな形はまっぴらごめんであった。本来ならば互いに組むこと無くそれぞれの国家として独立したかったのであり、その夢は現在実現されたが当時は強大な帝国の力に対抗するにはチェコとスロバキアが同盟するしかない、と考えたわけだ。
日本の歴史にたとえれば、ちょうど今川家に支配されていたころの松平家(のちの徳川家)の立場によく似ている。松平家は「今川連邦」の支配下にあったが、なんとか独立したいと考えていた。彼らは勇猛なので「今川連邦」の尖兵として酷使されていた。恨みは深い。ところが、織田信長が今川義元を倒してくれたのでさっそく独立した……。同じことである。
チェコ軍団(約4万人。正確にはスロバキア人も含めた軍団)は、オーストリア・ハンガリー帝国の尖兵として酷使されていた。ところが、その帝国が英・仏・露の連合軍に降伏し、形の上ではチェコ軍団は隣接するロシア帝国の捕虜となった。だが、武装解除されたわけでは無い。革命寸前のロシア帝国にそんな能力は無かった。そうこうするうちにソビエト連邦が誕生し、ドイツと単独講和して第一次世界大戦から手を引いた。
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