【逆説の日本史】「極早生」なのに「多収」で「良質」な「農林1号」という奇跡のコメ
NEWSポストセブン / 2025年1月21日 16時15分
ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は近現代編第十四話「大日本帝国の確立IX」、「シベリア出兵と米騒動 その17」をお届けする(第1442回)。
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シベリア出兵、つまり「ロシア革命潰しを目的とした第二次日露戦争」を断行したのは、陸軍大将でもある首相寺内正毅であった。もちろん、その背後にはしぶとく生き残っていた「陸軍の法王」山県有朋の強い支持があった。しかし、じつは出兵が始まってしばらくしてから寺内内閣は崩壊し、別の人物が内閣を率いることになった。軍人では無く政党人で、「平民宰相(爵位を持っていない総理大臣)」ともてはやされた原敬である。どうしてそのようなことになったのかと言えば、「米騒動」が起こったからである。
米騒動という言葉自体は、明治時代からあった。一八八九年(明治22)と言えば、その紀元節(2月11日。現在の建国記念の日)に大日本帝国憲法が発布された年だが、まれにみる凶作の年でもあった。注意すべきは、明治から大正そして昭和にかけてコメは投機の対象となる商品で、専売制でも無く公定価格も無かったことだ。国民作家司馬遼太郎の祖父が米相場に血道を上げていたことは、前にも述べた。
この年は秋になってもコメはまったく市場に出回らず、米不足となり翌一八九〇年(明治23)になると米価は急騰した。要するに、庶民が買える価格では無くなった。そこで、一月にまず富山県富山市で暴動が起こり、それが新潟県に波及した。とくに佐渡相川で鉱夫らが起こした暴動は数千人規模で、鎮圧のため軍隊が出動した。しかし、ここで述べるのは寺内内閣の治世下一九一八年(大正7)に起こった最大規模のもので、前後の同種のものと区別するため「大米騒動」と呼ばれたものである。これも最初の暴動は富山県で起こった。
ところで、日本人はコメの歴史やイネの常識を知っているようで知らない。この『逆説の日本史』シリーズの愛読者なら頭に入っているとは思うが、近現代編から読み始めた読者もいるかもしれないので、あえてまとめておこう。まず注目しなければいけないのは、コメつまりイネは熱帯原産の「寒さにきわめて弱い」植物だということである。だから日本列島においても、昔「西国」と呼ばれた近畿、中国、四国、九州地方でしか栽培されていなかった。
後に「東国」と呼ばれた関東、東北地方は「狩猟民族」と言える縄文人の勢力範囲であった。これに対して西国の主である天皇家は「弥生王」とも呼ぶべき存在で、その祭祀儀礼も大嘗祭や新嘗祭など稲作に関するものだ。言わば、日本列島は平安時代の九世紀初頭までは西国の稲作文化(弥生文化)と東国の狩猟文化(縄文文化)が併存していた国なのだ。これを決定的に変えたのが、平安京を開いた桓武天皇であった。
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