新国立競技場「何もかも中途半端なものになる」
プレジデントオンライン / 2015年8月31日 11時15分
■白紙撤回直後には新プランがあった!
高まる国民の批判を受けて白紙撤回を余儀なくされた新国立競技場の建設計画。政府は「(新整備計画は)アスリート第一」などとする方針を決定し、負の遺産からの脱却に躍起になっている。総工費が膨らみ、アスリート側からも批判された旧計画とは異なる異次元の新整備計画には期待が高まるが、9月からスタートする新計画の設計・施工の公募を前に舞台裏を探ると、初めから「総工費」ありきの見直しで、デザイン性や機能面を軽視した実態が浮かび上がった。
安倍首相が2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場である新国立競技場の整備計画を見直すと表明したのは7月17日。内閣支持率急落の原因となった安全保障関連法案の衆院での強行採決直後だった。政界ではもっぱら「計画の撤回は国民からの批判をかわすため」(野党幹部)と見られているが、首相は「国民、アスリートから大きな批判があった」と釈明。当初、計画を大幅に超える2520億円にまで膨れ上がるとされた総工費を抑制していきたい考えを表明した。
これを受けて、遠藤利明五輪相と下村博文文部科学相はアスリートや有識者らを招いてヒアリングを実施するなど、新整備計画の策定をスタート。旧計画の極端な「デザイン重視」が世論の強い反発を招いたとして、今後はアスリートに寄り添う姿勢をアピールした。政府は新たな整備計画策定には1カ月以上かかると説明し、構想の練り直しを周到に行っている態度を見せてきたが、実はその概要は首相の白紙撤回表明直後にはできていたようだ。
「この際、総工費は約1800億円とすることでどうだろうか」。首相が「ゼロベースで見直す」と語った計画撤回から約1週間後の7月下旬、ひそかに政権の最高幹部は関係省庁に新プランを説明していた。「『とにかく総工費を下げたい』の一点張りだった」(政府関係者)という。
その後の関係省庁幹部との協議で、競技場の屋根は観客席の上部だけに限定することや、民間運営の検討など新計画の概要が練られていったが、ある省庁幹部は「『デザインや競技場の機能面を後回しにして大丈夫か』との声は根強かった」と不安を隠しきれない。別の政府関係者は「総工費だけが世論の批判の的だったわけではないが、官邸にはトラウマなのだろう」とも語る。
そもそも総工費を押し上げたのは、競技場のシンボルとなるはずだった「キールアーチ」と呼ばれる巨大なアーチが主な原因だ。屋根部分の工費は1000億円近いとされ、景気回復に伴う人件費や資材の高騰も重なって全体が膨張。最終的には当初計画の二倍近くにまで上った。
菅義偉官房長官は、旧計画でデザインを担った建築家ザハ・ハディド氏のプランが工費膨張の要因だったとの見方を示すが、それなら白紙撤回によってデザインを変更すれば、大幅な工費圧縮が可能になるはずだ。単純計算で、1000億円差し引いただけでも1500億円になる。デザインを国際公募した際の前提は「約1300億円」であり、それを500億円上回る総工費は高すぎる。政府高官は、「予算の上限を設けずにデザインや機能だけを考えるわけにはいかない」と言いつつも、「3000億円近かった旧計画から見れば、ほぼ半額」と胸を張る。それに対し、国費の投入に神経をとがらせる財務省幹部は「ゼロベースで見直すとまで首相が言ったのだから、中途半端な額ではなく総工費をさらに下げる知恵が出せたはずだ」と首をかしげる。
計画見直しを表明した安倍政権には、首相サイドの狙い通り一定の評価が出たが、すでにハディド氏側には監修料など約15億円を支払い済み。加えて、五輪の公式エンブレムがベルギーの劇場ロゴと酷似していると指摘されるなど、問題は山積している。野党側は「杜撰な進行管理により、余分な設計費や違約金がかかる」(維新の党の松野頼久代表)などと下村氏らの責任を追及する構えだ。新計画策定後も、安保関連法案と並行して国会審議が荒れるのは避けられそうにない。
(時事通信フォト=写真)
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