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刑事が教える「部下のウソ」を見抜く法

プレジデントオンライン / 2016年4月12日 10時15分

元警視庁捜査第一課長 久保正行第62代警視庁捜査第一課長。1949年北海道生まれ。67年北海道十勝支庁・新得町から上京。71年警視庁刑事に。74年に捜査第一課に異動。2008年2月警視庁第七方面本部長を最後に勇退。著書に『現着』『警視庁捜査一課長の「人を見抜く」極意』など。

取調室で向かい合う刑事と容疑者。片方は相手を説得しようと意気込み、片方は不利なことを喋らないように気を配る――。刑事ドラマでよく見るこの光景、上司を説得しようとする部下、部下のウソを見抜こうとする上司の攻防に似ていないだろうか。
警視庁捜査第一課第62代課長を務めた久保正行氏は、手練手管で容疑者の心を動かし、数多くの自白に導いてきた。百戦錬磨の元刑事に、心理戦を制する極意を聞いた。

■視線、皮膚、目の動き 相手のウソは最初で見抜ける

警察は階級社会です。地位と職歴がはっきりしており、企業よりも厳しい上下関係が成立しています。しかしそんな厳格な世界でも、部下によっては自分から都合の悪いことを上司に報告しませんし、時にはウソをつきます。

それは格別驚くことではありません。なぜなら人間は誰しも、ウソをつくからです。上司の中には部下が正直者だと信じ、ウソをつかれている気がしても、「何かの間違いだ」「ウソをついているとしたら理由がある」「やがて真実を話すはず」と考える者もいます。しかしこれらはすべて、都合のよい思い込み。このような時代遅れのお人よしはこれからの時代、うまくやっていけないでしょう。人、そして部下はウソをつくものと胆に銘じ、進んで見抜いていく姿勢が必要です。

それではウソを見抜くため、まず何をするべきか。それは普段から部下の行動を見ておくことです。歩いている姿、書類の持ち方、報告するとき、視線はどこにあるのか。声をかけたらどんな反応をするのか……。その癖を把握しておくことで、「今日は喋り方がおかしいな」「いつもは正しく使う書類の文言を間違えているぞ」と気づくことができる。そしてそのズレこそ、これからウソをつこうとしている“兆し”にほかなりません。その兆しを察知したら、集中力を高め、部下の動向に注意しましょう。

私が人を観察するうえで重要視しているのは、第一印象です。取り調べは、容疑者が取調室に入ってきたときから動作に目をやり、とりわけ姿勢に注目します。正直な性格の者はやましい気持ちがあると猫背気味になるし、狡猾な者はわざと胸をはるものです。

そして挨拶したとき、気にしないふりをしながら、視線がどこに向いているかを確認する。私のほうをまっすぐ見ているのであれば問題ありませんが、顔の横の何もない空間を見ている場合は後ろめたい気持ちがあるかもしれません。目をそらしたり、うつろなときも要注意です。さらに私が気にするのが、目線と皮膚の感じが一致しているかどうか。顔の血色が悪いのに目の力が強いのは、ムリしている証拠です。

やがて話を始めたとき、ウソをつくと顔全体に兆候が表れます。唇が乾く。唇をなめる。顎がピクピク小さく震える。顔が青白く、耳は軽いピンクに染まる。話すときの手の動きにも注目します。両手で顔をおおう。机を指でコツコツ叩く。手で頬や顎を触ったり、着衣で手汗を拭く。あまり大事ではない箇所で、オーバーに手を動かす。そういったどこかぎこちないと感じるときは、ウソをついている可能性が高いといえます。

また、部下は口頭だけではなく、書面でもウソをつこうとするもの。そのため、私は報告書の数字を鵜呑みにしないよう気をつけていました。

たとえば「刑法犯の検挙率は80%」と報告されると、何となく成果があったように感じますが、そこで納得するのはセミプロ。一言で検挙といっても、刑事が捕まえたのか、市民が捕まえたのか、それとも自首してきたかで話は全然違ってきます。企業においても、売り上げや利益を報告された際、何を根拠にした数字なのかを確認し、数字の内容と重みに考えを巡らさなければなりません。

人のウソを見抜くには、観察力が不可欠です。それはおもに経験によって培われますが、相手の生い立ちを知ることは観察力に大きな+αの力をもたらしてくれます。私が刑事だったとき、それこそがもっとも知りたい容疑者の情報でした。特に小学校に入る前の幼少期がわかると、その人の根本的な性格や傾向が理解でき、心理を見抜きやすくなります。

たとえば過保護に育てられた者は、幼稚で孤独で、組織になじまないケースが多い。自己主張が強く、時間にルーズということもあります。逆にきびしくしつけられた者は、上司の顔色をすぐうかがい、従属的になりがちです。一方、放任されて育つと警戒心が強く、劣等感を抱きやすい。

生い立ちは、身上調査などで知る方法もありますが、ひとつのしぐさから推測することも可能です。たとえば着席のタイミング。目上の人がいても気にしないで先に座ってしまう人であれば、人生であまり苦労していないことが読み取れます。

部下の生い立ちを知るのに一番有効な手段は、飲み会でさりげなく話しかけることでしょう。「どこで生まれたんだっけ?」と質問して、嫌がる人はあまりいません。

「○○県××市です」「ああ、あそこは空港が近いからうるさくて大変だったろう」「そうなんですよ。子どもの頃は防音工事ばかりやって……」という会話を続けていく中で、家族構成や家庭環境が浮かび上がってくる。その情報をストックして、後々の観察につなげていくのです。

■上司の説得は夕方を狙って端的に

では逆に、部下が上司を説得するときは何を心がけるべきか。さきほど第一印象が大事と述べましたが、説得も最初の対応がきわめて重要です。「上司は一度却下したものを再び見直すことはない」と考え、慎重に準備をしてから挑む必要があります。

まず場所と時間を選びます。場所は集中できる空間がベストで、もし反対されることが予想されそうな場合、周囲に人がいない環境を設定する。なぜなら部下や同僚の見ているところで説得されると意見を翻しにくくなるし、場合によっては「恥をかかされた」と後々わだかまりになる可能性もあるからです。

話しかけるタイミングは、十分説明のできる時間帯を見計らいます。人間は1日のリズムを持っているもので、人によっては比較的話を聞いてくれる時間帯があるかもしれません。刑事の体験上、午前中に容疑者が自白することは少なく、自白が多いのは家族で夕食をとる光景を思い出しやすい、夕暮れの頃でした。

さて最善の場所と時間で上司と向き合ったら、これから話す内容を端的に伝えましょう。たとえ言いにくい提案だとしても、必ず結論から説明するべきです。石橋を叩いて渡るような言い方で、なかなか核心に入らない説明が、相手の心に刺さることはありません。

そして説明するとき、手帳やメモを見ないのはイロハのイです。視点をメモに視線を落としていると、内容が頭に入っておらず、自信がないことが一発で伝わります。ただし、こまかい数字は間違えるといけないので、手帳を見て確認してもかまいません。

そこで、こちらの視線はどうするか。刑事時代に容疑者を自供させたいとき、私は両目で相手の片目を見据えていました。しかし、真剣な気持ちを伝えたいとしても、部下が上司をにらみつけるのは失礼で逆効果です。上司のネクタイの結び目のあたり、もしくは唇を見ましょう。上下関係の中では基本的に、上司は部下をじっくり見るもので、部下は見られる側だと意識しておくべきです。

喋りすぎないことも気をつけたいポイントです。説得しているとき、沈黙が訪れるのは怖いものですが、それは決して無意味な時間ではありません。実際、上司があきれて口を閉ざしていることより、案件について考えている場合が多いものです。だから余計な話で間を埋めず、上司からの質問を待つ。慣れてきたら肝心なポイントをわざとはずして説明し、相手の質問を誘う方法もあります。

しかし上司の質問に対して、部下が黙ってしまうことがあります。そこで上司に求めたいのは、話題を変えたりせず、答えを待ってあげることです。容疑者が「私がやりました」と自白する前、沈黙する時間が必ずありました。そのときに話しかけると、言葉を飲み込んでしまって言いたいことを言えなくなります。沈黙を含めて部下の話に傾聴するのは、上司の大事な仕事です。

■上司のタイプ別「逆張り」で攻めるアプローチ術

説得の方法は、上司の性格によって変えると効果的です。基本は相手の性格と逆の手段をぶつけること。ガミガミ叱るような上司に、「違うじゃないですか」と食ってかかるのは揉めるだけなので、攻めには受けで対応する。争わずに「そうですね」と流して、別のタイミングで話しかければいいのです。

上司が行動的な性格だったら、情熱的でものわかりがいい半面、思い込みが強い弊害がありがちなので、ポイントを客観的に説明します。自己保身的な性格は自分でひいた路線の上を歩きたがるので、改革的な意見を主張しないほうが賢明です。大体がその上の上司の顔色をうかがって案件を判断していますから、本人よりもその上司を説得したほうが話は早いでしょう。

最大の問題は、石橋を叩くだけでも進まず、はてには壊してしまうような優柔不断な性格の上司です。このタイプにはどんなにわかりやすい説明をしても、何かをやろうという気がないので、時間をかけるだけムダ。取りつくしまがないのですが、この手の上司に対して私はメリットだけでなく、デメリットも説明して、なるべく具体的な話をするように努めてました。というのも、このタイプにウソをつくのは一番危険な行為だからです。基本的には何もやりたくないので、却下する理由を探しており、そこでウソを見つけようものなら格好の餌食。執拗に攻められ、説得しようにも話が本論からずれていきます。

今回、私は読者に部下のウソを見抜く方法を一部伝授しました。しかし、それは叱責することが目的ではありません。時にはだまされたフリをすることも大事です。努力した部下が報告書で些細な形式的部分をごまかしていたら、見過ごして「大変だったな」「また頼むぞ」と一言かければいい。そう声をかけられた部下は上司の洞察力を知り、「あっ、この人にはバレてる」と心から改めるものです。

上司の最終的な目的は、部下に愛情を持って接し、育てること。その点は警察でも企業でも、大きな違いはないはずです。

(元警視庁捜査第一課長 久保 正行 元警視庁捜査第一課長 久保正行 構成=鈴木 工 撮影=市来朋久)

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