「頭のいい子」を作る親の夏休み旅行術
プレジデントオンライン / 2017年7月15日 11時15分
■子どもの頭がよくなる夏休み旅行術とは?
もうすぐ夏休みです。読者の皆さんはもう家族旅行の計画を立てただろうか。
ご存じの通り、夏休み期間の旅行代金はお盆期間を中心に利用者が増える影響で高くなる。宿泊費にしろ、移動費にしろ。まあ、それでもしかたないか、と思って予約した経験がある人は多いだろう。せっかくお金と時間を費やすのだから、その経験・体験を子どもと共有したい。
まず、下の中学入試問題を見てほしい。学習院女子中等科の入試問題(2010年)である。
≪ホテルの宿泊料金について、土曜日の宿泊料金が、ほかの曜日の宿泊料金よりも高くなっている理由を説明しなさい
▼ホテルの宿泊料金(1泊2食付き、1名料金)
・月曜日~金曜日の宿泊料金:9,800円
・土曜日の宿泊料金:11,800円≫
大人であればわかることを、小学生や中学生が考えられるかどうかが試される。今回の問題、小学生や中学生であれば「たくさんの人が泊まるときに値段を高くすると利益を得やすいから」と答えられればいい。理想としては「土日が休日である人が多いため、需要が高まる週末に料金を高くしても宿泊する人は多く、利益を上げやすいから」という解答になる。要は、「ホテル側は利益を最大化するために、工夫をしている」といった視点があればよい。
子どもに「大人の常識」をそれとなく教える
かつての知識偏重型から、思考力重視に教育の質が変わっていく中でどんな能力が受験で問われるのかというと、究極的に言うと「大人の常識」ということになる。何も中学入試だけではない。山口県の公立高校入試でも次のような問題(2016年)が出題されている。
≪次の【表I】は、新聞の広告に掲載されていた、あるホテルの宿泊料金表である。多くのホテルが、曜日によって異なる宿泊料金を設定する理由を、「ホテルの部屋の数(供給量)は一定であるのに対し、」という書き出しに続けて、簡潔に述べなさい。
【表I】
月、火、水、木:6,980円
日、金:7,980円
土:11,980円≫
2020年の大学入試改革で「記述式問題が増える」「分析型の問題が増える」と言われているが、すでに中学入試や公立高校入試ではこのタイプの問題は出題されている。こうした流れからみても、今、子どもに身に付けさせたいのは、「大人の常識」と「資料の活用力」を組み合わせた能力。私はこれを「現場思考力」と呼び、塾生の指導を行う際も重視している。
では、どのような場面でこの能力を身に付けさせることができるだろうか。実は、家庭でできることはいくつもある。特に夏休みなどの長期休暇は貴重な機会となる。
■なぜ商店街は衰退し、ショッピングモールがは隆盛しているか?
たとえば、旅行先や帰省先で目にする「シャッター商店街」。空き店舗が目立つ通りを歩きながら、「ここも人が減ってしまったからな」と因果関係をそれとなく子どもに説明した気になっているのではちょっとさびしい。もちろん因果関係を説明するのは大切なことだが、人が減ったから商店街が廃れたということくらい、子どもでも十分認識できる。もう一歩進んだ会話をしたい。
ドライブをしていたら、郊外に大型ショッピングセンターを見かけることがあるだろう。「この大型ショッピングセンターと、さっき見た商店街の衰退には何か関係があると思うんだけどな」と、子どもに考えさせてみてほしい。
大型ショッピングセンターには、多くの店舗が入っている。特に地方だと自動車の所有率が高いので、商店街に行って専門店を一つずつ歩いていくより、大型ショッピングセンターに行ったほうが明らかに便利。しかも、価格的にも商店街より安くすむことが多い。「大型店やチェーン店だからこそ、規模の論理で価格を安く抑えられる」。そういった理由もあるということを会話の中で教えていきたい。
なぜ大手小売店はプライベートブランドを展開するか?
何も小学生や中学生にそこまで教える必要はないのではないかと思う人もいるだろう。しかし、繰り返すが、現代の子どもに問われているのは「大人の常識」なのだ。芝中学校の入試では次のような問題が出題(2013年)されている。
≪下線部(1)について、ここで言う「さまざまな工夫」の例として、正しいとは言えないものを、次のア~エから一つ選び、記号で答えなさい。
ア.一度に仕入れる量を少なくして、仕入れにかかるお金を節約する。
イ.大量に売れることを見込んで、ひとつあたりの利潤を低く設定する。
ウ.生産者から直接仕入れることで、間に入る業者に支払うお金をなくす。
エ.独自ブランドの商品をつくり、広告や営業にお金をかけずにすむようにする。
大規模なショッピングモールなどの商業施設は、消費者にとってはありがたいものですが、街の個人商店にとっては悩みの種です。大規模な店ならば、(1)さまざまな工夫によって商品を安く提供することができますが、個人が営む商店では品ぞろえや価格の競争に勝てません。すると、店をたたまなくてはならないところも出てきます≫
大手の小売店側が独自につくる、「プライベートブランド(PB)」(イオンの「トップバリュ」やセブン&アイの「セブンプレミアム」など)についても子どもと話すというのもいい。この<トップバリュ>なら、缶のウーロン茶は29円、500mLのペットボトルは51円などとかなりリーズナブル。スーパーの西友は「やっぱコスパ!」というコピーを使っています。同社のPB「みなさまのお墨付き」を買う時に、「プライベートブランドは安いね」と子どもに話してみるといい。
ちなみに、前出の問題の正解は「ア」。一度に仕入れる量を少なくするのではなく、逆に仕入れる量を多くして単価を下げ、仕入れにかかるお金を節約するのである。
■資本主義の論理を教えた上で、その課題も伝える
「大人の常識」の多くは、「いかに利益をあげるか」「いかにもうけるか」という話になっていく。よって、ふだんから事あるごとにそうした身の回りの経済の仕組みを考えさせたり、気づかせたりしてほしい。
家族の夏休み旅行や週末の食事。夕ご飯に寿司チェーンの「くら寿司」へ行ったら、「どうして皿カウンターに皿5枚入れるたびに1回ゲームができるようになっているのかな?」と聞いてほしい。最初は「面白いから」「子どもが来るようにするため」という答えが出てくれば合格。その後、親子で会話をしていくなかで、一部機械化の導入によりコスト(人件費)を削減し、ゲームができるというサプライズ演出による集客効果で利益率を高める……といったような内容を子ども自身が考えられるようになればいい。
入試でしばしば問われる「高知県でなすの促成栽培がさかんな理由」「愛知県の渥美半島で夜間にも電気を照らして栽培する電照菊の生産がさかんな理由」も、その答えのなかには「促成栽培や夜間照明により出荷時期をずらし、利益を上げようとしていること」が含まれる。大人の視点がある子は記述問題であっても容易に類型化して答えが出せるようになっていく。
大人の常識を知っている子は中学受験に対応できる
まだ小さい子にそういうことばかり教えるのに抵抗を感じる人もいるだろう。それなら、その先も教えてあげればいい。
先ほどの芝中学校の入試問題、最後に次のような問題が出題されている。
≪現代の日本がかかえている問題に向き合ったとき、消費者の中にも、多少高くても身近なところで買うという選択肢が増えてもいいように思います。それはなぜですか≫
解答には「個人商店を存続させることで、自動車を運転することができない人や高齢者の日常の買い物の場を確保できる」という要素を入れたい。資本主義の論理だけではひずみも出るから、昔からある小さな個人商店も大切にしていきたいね、と話せばいい。それこそが、「大人の常識」につながる。
大学入試改革は2020年に始まると言われているが、その段階ではある程度記述問題が入ってくる程度。何だ入試改革と言ってもそんなものかと思ってしまいがちだが、それは大きな誤りだ。『合格する親子のすごい勉強』(かんき出版)にも書いたが、大学入試改革の本丸は2024年。コンピューターを利用して実施される「CBT方式」が導入されれば入試状況は一変する。2006年度以降に生まれた子どもたちは、新たな大学入試制度、コンピューターを利用する試験、面接重視など、企業の採用面接に近いような形式の受験が待っている。
これまでよりも早く、「大人の常識」を身に付けさせ、因果関係を説明できる子にすることが、子どもの将来につながっていくだろう。
(中学受験専門塾ジーニアス代表 松本 亘正)
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