楽天で超人気「通販おせち」怪物店の秘密
プレジデントオンライン / 2017年12月31日 11時15分
■なぜ「中小企業」でもトップを取れるのか
おせち料理の市場が拡大をつづけている。富士経済の調査によると、2016年の重詰(完成品)おせち市場は約600億円。とくに活況なのは通販市場で、EC大手・楽天市場ではおせちの売り上げが2011年から2016年までの5年間で約1.6倍に伸長しているという。
この「ネット通販おせち」で、11年連続で楽天市場の「グルメ大賞」に選ばれている怪物店がある。福岡県福岡市に拠点を置くおせちの専門店「博多久松」は、社員数25名の中小企業だが、自社工場でつくる「和洋折衷本格料亭おせち『博多』」(1万5800円、税・送料込み)は、週間ランキング1位を累計で214回以上獲得している。
同社の常務取締役・松田健吾氏に、「おせち」というニッチジャンルでトップを走り続けるための戦略について聞いた。
■初年度は90個、2年目は2500個、3年目は9500個
――ネット通販おせちを始めたきっかけは。
【松田氏】元々は仕出し弁当の店でした。高校卒業後、1998年に家業を手伝い始めてから、なにか新しい挑戦ができないかと、2004年に楽天市場で「ネット通販おせち」をはじめました。初年度は90個を用意したのですが、わずか1週間で売り切れました。手応えを感じ、翌年は2500個を用意し、これも12月を待たずにほぼ完売。さらに2006年には9500個を売り切りました。「楽天グルメ大賞」を受賞したのは、この年が最初です。
――今年の販売見込みは。
【松田氏】2018年のお正月向けおせちは、約15万セットを用意しています。当店で扱うおせちの平均価格は1万4000円程度。約20億円の売り上げを見込んでいます。
――久松の手がける「冷凍おせち」は、ネットで購入する食品としてはかなりの高額だ。百貨店などで販売される高級おせちには「冷蔵」や「常温」も目立つが、手がける予定はないのか。
【松田氏】ありません。実は以前には、冷蔵のおせちを製造したこともあるのですが、衛生面の懸念をクリアできませんでした。安心して食べられるのはやはり冷凍おせちです。それに冷凍であれば、重箱の中で盛り付けが崩れづらいという利点もあります。
――冷蔵や常温に比べて、冷凍は「味が劣る」というイメージを持たれやすいのでは。
【松田氏】食材へのこだわりにも、味の良さにも、自信があります。年々、冷凍技術が進化して、食材が水っぽくなったり、パサパサになったりしてしまうといった味の劣化はかなり防げるようになりました。また、焼きたて、揚げたてを、いかにはやく冷凍するかにもこだわっています。上手な解凍方法をまとめた注意書きも商品に同梱しているのですが、ご自宅でもおいしく食べていただける商品になっていると自負しています。
――食材のどこにこだわっているのか。
【松田氏】おせちは多種多様な食品・食材を使うため、15万セットという数をそろえるためには、夏ごろから調達に動く必要があります。食材は最適な時期に仕入れ、仕込みを行います。例えば、冬が旬の大根は11月~12月頃、金柑は1月頃に仕入れ、1年前に一次加工を済ませてしまいます。冷凍ですから、作業の前倒しができるんです。冷凍に向く調理法についても研究を重ねています。例えば大根は、繊維質が多いので、やわらかく炊いて冷凍してしまうと筋っぽくなってしまいますが、逆に切り干し大根のように調理すれば、かえってコリコリした食感になります。国産を中心に質の高い食材を厳選し、それぞれの旬の時期にまとめて仕入れることで、品質を高めることに強くこだわっています。
――食品業界は比較的、参入障壁が低い。市場が拡大している「おせち」は、競争環境も厳しいのではないか。
【松田氏】おせちはニッチなジャンルです。使われている食材は、年に1回しか使わないような特殊なものや珍しいものが少なくありません。うちは規模としては中小企業ですが、おせちに特価しているので、大手流通に負けないだけの購買力があります。質の高い食材の仕入れには、自信があります。
――たとえば大手コンビニもおせちを手がけている。脅威はないのか。
【松田氏】おせちの調理には、どうしても手仕事の領域が残ってしまいます。ニッチなジャンルですから、機械化はむずかしく、生産性で差をつけられる商材ではありません。大企業は資本力はあると思いますが、それだけでは容易に勝てない市場だと思っています。
――通販商品では「安売り」も多い。「早割」などはあるのか。
【松田氏】うちは一切、割引をやっていません。「博多久松」の顧客は全体の約3割がリピーターですが、そうしたお客さまにも割引はしていません。社員が買う場合でも定価です。うちのモットーは「自分たちの友人・知人が定価で買ってくれて、『良かった』と感想を持ってもらえるおせちをつくろう」。そのかわりサポートには力を入れています。ネット通販の会社ですが、コールセンターを用意していて、電話での対応に力を入れています。元日でも対応します。お正月に窓口が閉まっていれば、おせちを売る企業としては失格ですから。
――今後の課題は。
【松田氏】お客さまに満足してもらえる商品を提供することが一番です。そこは絶対に妥協しません。製造部門への負担は増えてしまいますが、それでも毎年必ず商品の30%程度はリニューアルしています。現在の価格を維持しながら、どこまで品質を高められるか。そのことを突き詰めていくことを考えています。おいしいものをつくれば、結果は付いてくると思っているんです。
※編集部注:「博多久松」の2017年販売分のおせちはすべて完売済み。
(プレジデントオンライン編集部 撮影(松田氏)=プレジデントオンライン編集部)
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