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三菱電機を変えたイタリア女性エンジニア

プレジデントオンライン / 2018年7月20日 15時15分

マルミローリ・マルタ●1971年生まれ。ボローニャ大学を卒業後、日本に留学。97年に入社、電力自由化関連システムの研究開発に携わる。2011年、スマートグリッド技術および事業開発に従事。18年より現職。

言葉の壁にも苦労したが、「女性特有」の役割を求められて戸惑うことも多かったというマルタさん。イタリア育ちの彼女の目に、日本の男職場はどう映ったのだろうか?

■なぜ日本で働きたいと思ったのか

三菱電機のエンジニアであるマルミローリ・マルタさんは、イタリアのコッレッジョという街の出身だ。城壁と教会のある歴史ある街――その10人ほどのクラスの小学校に通っていた頃から、彼女は科学が大好きな少女だった。

「機械仕掛けの人形やおもちゃを見ると、中身がどうなっているのか知りたくなっちゃう。お気に入りの編み機を分解して、元に戻せなくなったときは泣きました」

当時を振り返りながら、彼女は懐かしそうに目を細めた。

日本企業への就職を決めたのは、1996年のこと。ボローニャ大学で原子力工学や超電導を専攻していたが、反原発の世論が高まっていたイタリアには、自身の専門を活かせる企業がほとんどなく、奨学金で留学した日本での就職を視野に入れた。三菱電機の採用担当者に「好きなことを研究していい」と言われたことが決め手になったという。初来日は18歳のとき。高校の卒業旅行で京都や東北を巡ったときから「日本で働いてみたい」という気持ちは抱いていた。

「ただ、当時の外国人エンジニアは契約社員という扱い。今では外国人の正社員も当たり前にいますが、あの頃は『外国人はすぐに辞めるから』といったポリシーを会社側から感じましたね」

1年目は終業後、週3回、日本語学校に通い、土曜日は自宅近くにあった書道教室で子どもたちに交じって字を習った。以来、書道を趣味にし続けている彼女は、「それが地域の人たちとの大切な交流の場にもなった」と語る。

■お茶くみとメイクは、女性のたしなみ?

仕事では、電力自由化に伴う省電力のシステムなどのソフトウエア開発を担当してきた。三菱電機が請け負った日本卸電力取引所(JEPX)のシステムでは、基幹デザインの大部分を任された。

(上)午前中はデスクワークが中心。メールや電話対応などをスピーディーにこなしていく。(下)ランチは本社ビルの地下街などで購入。野菜たっぷりのバゲットサンドがお気に入り。

電力業界を取り巻く制度の変革の最前線で、さまざまなシステムを設計する仕事は、非常にやりがいのあるものだった。夜遅くまで残業が続く時期もあったが、同僚の日本人エンジニアとともに、一丸となってプロジェクトを進める日々は楽しかったと語る。

「書道教室での体験もあって、昔から同僚とコミュニケーションを取るときは、メールではなく、直接会って話すようにしています。日本語の文字だけでのコミュニケーションに不安があったのも確かですが、表情を確かめながら話すほうが、お互いに理解を深め合えると思うからです」

ただ、仕事で充実感を得られる一方で、日本特有の文化になじめず苦労してきたのも事実だ。

「満員電車は今でもつらいですが、最初は食事が大変でした。私はパンが大好きなのですが、社内で注文する食事はごはんのメニューが中心で……。一時は10kgも痩せてしまいました」

それからもう1つ、大きな戸惑いを覚えたのは、男性と女性を明確に区別する社内の雰囲気だった。

「会社には女性技術者は少ないのですが、事務の仕事をする女性社員はたくさんいて、彼女たちから『お茶くみをして』と言われて、断ったことがありました。先輩の女性に『マルタもメイクくらいしないと』と、化粧品を渡されたこともありました。私は普段メイクをしないので、結局、使いませんでしたが(笑)」

その頃の社内には、まだこうした雰囲気が色濃くあったのである。当時の戸惑いが胸に甦るのだろう、いくつかのエピソードを指折り数えながら、彼女は思わず苦笑いを浮かべた。

「イタリアではレディーファーストが当たり前でしたから、エレベーターに乗る際、男性社員のために女性がドアを開けて待っているのも驚きました。仕事では男女が対等に働いているのに、どうして扱いがこんなに違うんだろうと。『なぜこれを私に頼むの?』『みんながしているからって、関係ないでしょ』と、上司だった人たちとは、ずいぶんけんかもしました」

■女だから、男だからと考えるのはおかしい

当時の三菱電機の社内において、マルタさんは外国人であると同時に数少ない女性エンジニア。二重の意味でマイノリティーだった。そんな彼女の存在は、保守的だった職場の雰囲気を徐々に変えていったようだ。

Essential Item●日本語はかなり上達したものの、打ち合わせや会議の記録は英語かイタリア語。気分転換用のミントタブレットは強刺激タイプが好み。

「彼らが定年でいなくなった後、久々に会ったときにこう言われました。『けんかもしたけれど、君が来たときには、いろんなことを考えさせられた』って」

2008年に日本での永住権を取得し、雇用形態も正社員になった。3年ほど前に同じ職場の日本人男性と結婚。「寒い季節には自宅で一緒に日本酒を飲んだり、料理をすることもあります」と少し照れくさそうにほほ笑む。

クリスマスの時期など年に2、3度はイタリアへ帰り、両親とゆっくり過ごす。そうした時間を大切にしながら、技術者として興味のある分野を深めていく――彼女の続けてきたスタイルだ。

「周りの人を変えるのは時間がかかりますから、自分が周りに合わせて変わるほうが簡単です。でも、女性だから、男性だからと考えるのはやっぱり変。私はおかしいと思うことは我慢せずにはっきり言ってきました。人間はみんな同じだとストレートに考えたほうが、最終的にはうまくいく。それがこの会社で20年以上を過ごしてきた私の実感です」

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▼マルタさんの1日のスケジュール
(6:30)起床、シャワー、夫と一緒に朝食
(7:00)バスと電車で通勤
(8:30)出社。打ち合わせ、電話、資料作成など
(12:00)散歩&ランチ
(12:45~19:00)仕事再開。顧客の事務所への説明など
(21:00)夕食。同僚か顧客と一緒に食べることが多い
(23:00)帰宅。歯磨き
(23:15)就寝

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(ノンフィクション作家 稲泉 連 撮影=市来朋久)

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