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退職して手打ちそば屋を始める人の末路

プレジデントオンライン / 2018年7月26日 9時15分

老後のためにいくら準備しておけばいいのか。国の調査によると、60代の貯蓄額は平均2200万円。高齢夫婦の毎月の収支は約5.5万円の赤字だから、計算では30年以上は心配ない。だがファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏の体感だと、毎月の赤字額は8~10万円で、20年足らずで底を突く家庭が多いという。人生100年時代に向けた備え方とは――。

■老後の蓄えが20年足らずで底を突く人が続出する

「何歳まで働けばいいのか?」
「65歳以降も仕事はあるのか?」

近頃、ファイナンシャルプランナーとして、退職後のお金の相談を受けることが増えています。以前は「現在の家計」が心配事だったのですが、現在は多くの人が「退職後の家計」を心配されています。

相談を受ける際は、リタイア後のおおよその生活費と年金額、貯金額などを確認して、シミュレーションを行います。相談者の多くは、65歳で完全にリタイアすると、85~90歳の間に貯金がなくなってしまいます。

総務省の「家計調査」(2017年)によると、60代の貯蓄額は平均で2202万円です。また、高齢者夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ)の1カ月の収支を見ると、実収入約21万円に対して、支出(食費・交通通信費・交際費・教養娯楽費など)が約26.5万円で毎月約5.5万円の赤字になっています。

▼うっかり100歳も生きてしまったら……

私の体感では、実際の毎月の赤字額は5.5万円より多い家計がほとんどです。シニア世代では、毎月の年金収入だけでは足りず、毎月8万~10万円を貯金などから取り崩している人が大半です。高齢者の暮らしには質素なイメージがありますが、今どきの高齢者は高コスト体質なのです。

65歳でリタイアして、月10万円赤字だとすれば、2200万円の貯金があっても、20年たらずで底をついてしまうのです。

7月20日、厚生労働省は日本人の平均寿命は男性が81.09歳(前年80.98歳)、女性が87.26歳(同87.14歳)で、ともに過去最高を更新したことを発表しました。着実に日本人は「寿命100歳」へと近づいています。

厚労省の「2016年簡易生命表」によれば、女性の4人に1人が95歳まで、男性の4人に1人が90歳まで生きるということです。今後は、真剣に「100歳まで生きる」と考えて、その対策を早いうちから考えておくべきでしょう。

■「趣味」で老後を悠々生き延びる人転落する人

長くなった老後の生活費を工面する方法は、主に4つあります。

1)毎月の貯金額を増やすこと(現役時代に収入増と支出減の工夫をする)。
2)「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「企業型確定拠出年金」を利用して、年金の受給額を上乗せすること(iDeCoは、掛け金が所得控除されるので、節税効果もある)。
3)「つみたてNISA」などで資産運用。
4)65歳以降も働いて収入を得ること。

このうちいちばん確実なのは、65歳以降も働くことです。65歳からは年金が受け取れるため、フルタイムで働く必要はありません。年金や退職金を使いつつ、毎月の赤字分を補填できれば、十分なケースがほとんどです。

では、65歳以降でも働ける仕事はあるのでしょうか。私は仕事はあると考えています。

労働人口の減少を受けて、65歳以上の人にも働いてほしいと考える企業が増えています。内閣府の「高齢者白書」(2017年)によると、従業員31人以上の企業約15万社のうち、「高齢者雇用確保措置」(※)を実施した企業の割合は99.5%。ほとんどの会社で実施されています。また、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は74.1%でした。

※「高齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、企業に「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を講じるように義務付けています

各社の動きも相次いでいます。今年4月、サラダ店「RF1」を運営するロック・フィールドは、定年後の再雇用年齢を75歳まで引き上げることを発表。さらに今年6月には、化粧品大手のポーラが、再雇用制度の年齢制限を撤廃することを発表しました。こうした流れは今後も続くのではないでしょうか。

ただし、65歳以降の再雇用の際は、嘱託や契約となり、正社員だった現役時代に比べて給与は減るケースが多いので注意が必要です。

▼元食品会社社員の女性はペットシッターで起業

退職前後に起業する人も増えています。

経済産業省の「中小企業白書」(2017年)によれば、男性で起業した人のうち、35%が60歳以上の人でした。全ての世代の中でもっとも多くなっています。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/damedeeso)

筆者の友人で都内に住む57歳の女性は、現在、フリーランスとして活動しています。仕事は動物好きという性格をいかした「ペットシッター」です。

ペットシッターとは、ベビーシッターのペット版。飼い主が旅行などで不在の間、犬や猫の食事の世話、散歩、掃除などを行います。ペットが病気や高齢で動けないので、代わりに世話をしてほしいという依頼もあるそうです。

この友人は数年前まで食品メーカーに勤務していて、その時は本業と平行して、ペットシッター会社でアルバイトをしていました。5月の大型連休や夏休み、正月はいつもアルバイトに励んでいました。そうした長期休暇はペットシッター会社の書き入れ時なのです。

■退職後に「手打ちそば」で食っていけるのか?

最初のうちは、先輩のペットシッターに同行します。手順を覚えると、徐々に1人で仕事を任されるようになりました。その後、思い切って本業の会社を辞め、自分の会社を作りました。ノウハウがわかっているからか、最初から事業は順調だったそうです。

ペットの世話をしている様子を写真に残したり、それを飼い主に送ったりするなど、気の利いたサービスが好評を得て、現在も繁盛しています。彼女いわく、「収入は食品メーカー時代の約半分くらいだけど、ストレスフリーです」とのこと。現状では会社を大きくすることは考えておらず、事務のスタッフを1人だけ雇ってスケジュール調整など頼んでいます。

このように、自営業やフリーランスとして働く場合は、まず、副業・ダブルワークからはじめてみるといいでしょう。忙しくなりますが、他に収入源があることで、ビジネスとして成り立つかを、冷静に考えることができます。

また、起業をする際は、「初期投資が少ない(かからない)」「在庫管理が難しくない(いらない)」という職種を選ぶとリスクが少なくなります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/key05)

一方、リスクが高いのは、飲食店経営です。

日本政策金融公庫の「新規開業パネル調査」(2016年)における業種別廃業状況では、2001年から2015年の全業種廃業率が平均10.2%でした。廃業率ワースト5は、5位から順に「卸売業」(11.5%)、「教育・学習支援業」(12.5%)、「小売業」(14.5%)、「情報・通信業」(15.8%)、そして最も廃業率が高かったのが「飲食・宿泊業」(18.9%)でした。宿泊業も含めた数字ですが、全業種の中で、「飲食業」はもっとも高いリスクの仕事ということが言えます。

一般的に、飲食店は利益率が低いうえ、初期投資に多くのお金が要ります。メディアなどでは「退職して田舎で手打ちのそば屋をはじめた」「海の見える場所にレストランをひらいた」など、成功例が紹介されますが、実際の運営はなかなか厳しそうです。事前の準備をしっかり行い、最悪の場合を想定した事業計画を作る必要があります。

▼「1年で資産が10倍に」「株で月収30万円」

また、投資を副業として実施し、老後に備える人もいます。

今年5月、転職サイト運営会社のエン・ジャパンが行った「正社員3000名に聞く『副業』実態調査」によると、13%の人が「株式運用・FX取引・不動産投資を副業にしている」と答えています。

家計相談にくる方のなかにも、退職金で株式取引をしようと考えている人が少なくありません。1000万~2000万円のまとまったお金が懐に入ると、「もっと増やそう」という気持ちが高まるようで、「初めてだけど株取引をやってみたい」などとおっしゃります。

短期間での株式の売買やFXは、「投機」にあたります。

投機とは、お金を投じた先の「値動き」で利益を得ること。お金を投じる先の「価値」はほぼ変わらないため、参加者全員の損益の合計はゼロです。つまり、誰かの利益は、誰かの損失から生まれていることになります。

こうした投機で、長期的に利益を得ることは難しく、副業とはいえないと私は考えます。「1年で資産が10倍に」「株で月収30万円」といったたぐいの本や広告がありますが、誰でも再現可能な手法はありません。

誰もが不労収入のある生活にあこがれます。人生100年時代のこれからはなおさらのことです。しかし、それを実現するにはそれなりの知識の取得や経験が必要です。リスクがある投資は、万が一、そのお金がなくなってもいい額を投じるのが基本です。退職金や年金がなくなってもいいという方はごく限られた人ですから、長生き時代を「投機」で生き延びようとするのはやめましょう。

(経済エッセイスト 井戸 美枝 写真=iStock.com、執筆協力=瀧健(ファイナンシャルライター))

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