悲劇だけが増える「沖縄分断」の根本原因
プレジデントオンライン / 2018年10月4日 15時15分
■選挙結果にかかわらず、辺野古移設を進める方針
沖縄の県知事選で、米軍の普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する58歳の前衆院議員、玉城デニー氏が初当選した。
知事選の投開票は安倍改造内閣が誕生する直前の9月30日だったが、67歳で死去した翁長雄志前知事に続く辺野古施設の反対派知事の誕生で、安倍政府の移設スケジュールに大きな影響が出る。
自民党総裁選の地方票で石破茂元幹事長の善戦を許し、来年の統一地方選や参院選を控えて求心力の低下が懸念される。予想外の結果にさぞかし安倍晋三首相も肩を落としたことだろう。しかも安倍首相念願の憲法改正のほか、政権運営にも影響する可能性がある。安倍首相にとって大きな打撃であることは間違いない。
「安倍1強」の結果生まれた「緩み」や「おごり」を安倍首相自身が自覚し、政権の軌道修正を図るなら私たち国民にとって甚大な利益となるだろう。
しかしながら安倍首相にはその自覚がほとんどない。安倍政権は強気である。
今回の選挙結果にかかわらず、辺野古移設を進める方針だ。玉城氏も移設の是非を問う県民投票の実施を目指すなど徹底抗戦の構えだ。安倍政権と玉城氏が激しく対立するのは必至である。
■過去最多の得票数で、与党側の候補を圧倒したが……
沖縄県知事選の投票率は63.24%で、前回選挙を0.89ポイント下回った。
投票率が前回選挙を下回ったとはいえ、沖縄県選挙管理委員会によれば、玉城氏の得票数は1998年に稲嶺恵一氏の獲得した37万4833票を超える39万6632票で、沖縄県知事選で過去最多となった。
選挙戦自体は、玉城と安倍政権が支援する前宜野湾市長の54歳の佐喜真淳氏の2人による一騎打ちだった。結果は玉城氏が8万票以上もの差をつけて圧勝した。過去最多の得票数と、一騎打ちの相手に対する大差で、玉城氏は大きなウエーブに乗っている。
玉城氏は「まずは対話を求めていく」と語り、この呼びかけに安倍政権側も応じる構えではある。しかしながら玉城氏も安倍政権もそう簡単には譲らないだろう。これまでの経緯を考え合わせても、辺野古移設で折り合いが着く可能性はかなり低いと思う。
それゆえ8月9日のプレジデントオンラインで「ボタンのかけ違いを放置したまま突き進めば失敗する」と小見出しを付けて指摘したように、国は根気強く地元に説明し、きちんと理解を求めていくべきであり、地元沖縄は国のその説明にしっかり耳を傾けることが求められる。
■強硬姿勢が溝をさらに深くする
8月9日のプレジデントオンラインではこうも書いた。
「(読売社説は)朝日社説の指摘や主張と真逆である。朝日社説と読売社説のどちらが正しいのだろうか」
「環境保全措置は十分なのか、不十分なのか。サンゴの移植はやるのか、やらないのか。今回、2紙の社説を読み比べていると、頭の中が混乱してくる。結局、朝日に言わせれば『環境保全が不十分』であり、読売に言わせれば『環境保全は十分』ということなのだろう」
そこで今回も、安倍政権に批判的な朝日新聞の社説と、親和的な読売新聞の社説(ともに10月1日付掲載)を読み比べてみよう。
朝日社説は冒頭部分から玉城氏の圧勝をテコに主張する
「安倍政権は県民の思いを受けとめ、『辺野古が唯一の解決策』という硬直した姿勢を、今度こそ改めなければならない」
「まず問われるのは、県が8月末に辺野古の海の埋め立て承認を撤回したことへの対応だ。この措置によって工事は現在止まっているが、政府は裁判に持ち込んで再開させる構えを見せている。しかしそんなことをすれば、県民との間にある溝はさらに深くなるばかりだ」
「硬直した姿勢」「溝はさらに深くなる」など朝日社説の指摘は手厳しい。そして「今度こそ改めなければならない」との主張は安倍首相嫌いの朝日新聞らしさがそのまま出ている。
■安倍政権の戦いぶりを「異様」と表現した朝日新聞
さらに朝日社説は「『沖縄に寄り添う』と言いながら、力ずくで民意を押さえ込むやり方が、いかに反発を招いているか。深刻な反省が必要だ」と安倍政権をたたく。
極めつけが次のくだりである。
「今回の選挙で政権側がとった対応は異様だった。全面支援した佐喜真淳氏は辺野古移設への賛否を明らかにせず、応援に入った菅官房長官らは、県政とは直接関係のない携帯電話料金の引き下げに取り組む姿などをアピールして、支持を訴えた」
「都合の悪い話から逃げ、耳に入りやすい話をちらつかせて票を得ようとする。政権が繰り返してきた手法と言えばそれまでだが、民主主義の土台である選挙を何だと思っているのか」
安倍政権の戦いぶりを「異様」と表現し、最後には「民主主義」を振りかざす。朝日新聞が応援する知事候補が圧勝したとはいえ、少々度が過ぎた論の展開に思える。
この社説を書いた朝日新聞の論説委員は、抑えて書くことを知らない。論説は料理と同じだ。味が濃ければそれでいいわけではない。隠し味が重要なのである。
■国との対立をあおるだけでは行き詰まる
次に読売新聞の社説を見てみよう。
「国との対立をあおるだけでは、県政を率いる重要な役割を果たせまい。新知事は、基地負担の軽減や県民生活の向上に地道に取り組むべきだ」
これが安倍政権の辺野古移設を支持する読売社説の書き出しだが、朝日社説と違って冒頭部分では辺野古移設をストレートには主張しない。知事選で安倍政権が敗れたから、主張したくてもできないのだろう。
ただしそこは熟練の論説委員がそろう読売新聞である。巧みに論を辺野古移設に持っていく。
「玉城氏が反対の立場を貫けば、移設工事の停滞は避けられない。日米両国は、早ければ2022年度の普天間返還を目指しているが、工事は大幅に遅れている」
「政府は、計画の前進に向けて、県と真摯な姿勢で協議するとともに、着実に基地の再編や縮小を進めなければならない」
安倍政権に対し、真摯な協議を求めるところなどは肯けるし、米軍基地の縮小も賛同できる。
■辺野古への移設は、本当に「唯一の現実的な選択肢」なのか
問題は次である。
「翁長県政は、辺野古の埋め立て承認の取り消しや、工事差し止め訴訟などで計画を阻止しようとした。司法の場で翁長氏の主張は認められていない」
「県は8月、埋め立て承認を撤回した。政府は近く、裁判所に撤回の執行停止を申し立てる方針である。基地問題を巡って国と争いを続けることに、県民の間にも一定の批判があることを玉城氏は自覚しなければならない」
安倍政権の執行停止の申し立てについて朝日社説が「そんなことをすれば、県民との間にある溝はさらに深くなるばかりだ」と指摘するのとは反対の主張である。
社説の読み比べで大切なことは、この違いに気付くことだ。
朝日の主張と読売の主張、どちらが正しいのだろうか。読売社説は「選挙戦で玉城氏は、普天間の危険性除去の必要性も訴えていた。辺野古への移設は、普天間の返還を実現する上で、唯一の現実的な選択肢である」と駄目押しする。
しかし、辺野古への移設が本当に普天間の危険性の除去に繋がるのだろうか。当初からそこの議論が不十分であるところに、ボタンのかけ違いが生まれた気がしてならない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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