結局会社員は"今の会社で頑張る"べき理由
プレジデントオンライン / 2018年11月16日 9時15分
▼長期目標
出世、ワークライフバランス、年収倍増……10年後のなりたい自分に向けて動き始めよう
誓い:1
いまの会社で出世コースに乗りたい
■野村証券で最年少、出世した秘訣
いまの会社で出世したいと思ったら、どんな行動をとればいいのだろうか。
野村証券に勤務していたころ、数々の営業記録を樹立し、最年少で本社の超富裕層向けプライベートバンク部門に異動になったZUU社長兼CEOの冨田和成さんは、当時、どんなことに気をつけていたのだろう。
「僕は出世しようとは思っていませんでしたが、5年でセールスナンバーワンになろうと思っていました。そこで威力を発揮したのが、PDCAの習慣です。5年でセールスナンバーワンになるという目標から逆算し、現在地から目的地への行き方を想定し、そのためにすべきことをリストアップして日々のTo Doに分解していく。そしてそれを振り返って調整を加える。その繰り返しです」(冨田さん)
しかしこと出世となると、さまざまな要素が影響してくる。ヘッドハンターの武元康明さんは「出世には運も大いに関係します」という。
企業には、成長・発展の過程でさまざまなフェーズがある。武元さんは企業がいまどのフェーズにあるのか、「創業拡大期」「安定期」「最上志向期」「衰退・変革期」の4つに分類する。各フェーズによって、求められる人材や評価される人材のタイプが違うのだ。
「どんなに能力があっても、企業のフェーズによって、求められる思考、行動特性、資質は違います。安定期ならば“寄らば大樹の陰”で何ごともミスなくこなす人物が評価(ある意味、減点法)されて出世します。しかし安定期に有能だとされる人物が、創業拡大期においても優秀だとは限りません」(武元さん)
創業拡大期に力を発揮するタイプは、衰退・変革期にも手腕をふるうことが多い。たとえばスティーブ・ジョブズ。アップルを創業したが、同社が成長し安定しはじめたら追い出された。しかし経営が危うくなると再びアップルに舞い戻り、一層成長させた。衰退・変革期に必要になるのが、過去からの思考やこだわりを捨てる力(切断力)だ。
「日本でいえば稲盛和夫さんが似たタイプかもしれません。ご存じのように京セラを創業し、さらに最近は日本航空を再上昇させた」(武元さん)
■変化を起こす人か、とがっている人か
創業拡大期に力を発揮するタイプの人は、安定期にある会社では「とがっている」「自己主張が強い」と敬遠されてしまう。逆に安定期に有能なタイプは、創業拡大期において変化を起こすことができないし、変化についていくこともできない。通常、安定期にある企業では、何か新しいことを提案しては失敗するようなタイプは評価されないのが現実だ。思い当たる節がある人は、自分がどのタイプなのか、会社はいまどのフェーズにあるのかを考えてみてもいいかもしれない。そしてその結果、いまの会社は合わないと思ったら、転職を考えるのは当然の成り行きだ。しかし武元さんは、「転職には慎重になったほうがいい」という。
すでに述べたように、出世には自分についてきてくれるフォロワーの存在が不可欠である。転職すると、それを得るのが難しくなると武元さんはアドバイスする。
「たとえ転職先に平取として入ったとしても、さらに上にいくには時間がかかります。それよりは、いまの会社で出世する方法を考えたほうがいいでしょう」
誓い:2
ワークライフバランスを目指したい
■いまの会社で、頑張るべき理由
会社にしがみつかず、ワークライフバランスを目指す。それができれば理想的だが、実現するにはどんな方法が考えられるだろうか。
「本当にワークライフバランスのとれた生活を目指すなら、いまの会社で最大限、頑張ってみることです」
武元さんはいい切る。
人材の流動性は高まっているものの、終身雇用型の企業もまだまだ多い。そのような企業では、社員は会社に長く在籍し献身的に働くことで、会社からの信頼を得て、徐々に役職が上がっていく。逆にいえば、会社に長期的に貢献する姿勢がなければ、会社からも信頼されず昇進することはほとんどない。役職が上がらなければ、人から命令されるだけ。いわれたことをやる受動的な生活は、自分の裁量で決められることが少ない。会社が残業を命じれば従うしかない。その結果、ワークライフバランスをとることは難しくなるというわけだ。
「出世するということは、自分の裁量で決められる部分が増えるということです。上司からあれやこれやといわれることもないから時間配分も自由。結局、いまの会社で出世を目指すことが、ワークライフバランスを実現する近道だと思います」(武元さん)
■高年収、短時間労働の職に就く技
もっとも経営者クラスになると、ワークライフバランスのうち「ワーク」が突出して多くなるのも事実。
「経営者を見ていると、ワークライフバランスがとれた人は少ないようです。かならず週末の2日間まるまる休んでいるような人は少数派でしょう」
取締役になれば、労働法上も「社員」ではなくなるので、休日が保証されるわけでもない。会社にトラブルがあれば飛んでいかざるをえない。
「勉強などの自己投資に時間を使う人も多い。上にいけばいくほど、『ライフ』の部分のウエートが軽くなる印象です」(武元さん)
そんな緊張感のある生活を送るよりは、家族と過ごす時間を充実させたり、趣味に時間を使いたいという人もいるだろう。その場合はどうすればいいのだろうか。
冨田さんは、ここでもPDCAの考え方が役立つという。
「ゴールから逆算して考えるといいでしょう。会社にしがみつかず、ワークライフバランスをとるには、長時間労働をしなくても一定の金額を稼げるだけの能力を身につける必要があるかもしれない。その能力が何かを考え、それを身につけるプロセスを計画に落とし込み、計画を実行したら振り返り、調整を加えていく」
あるいはいまの会社にいては長時間労働は避けられないから、転職をする方法もあるかもしれない。しかし転職して給料が下がったら、ワークライフバランスをとることはできなくなる。そこで短時間労働でなおかつ年収の高い業界や職種を探す。その仕事につくために必要な能力は何か、仮説を立てる。それが業界固有の知識ならそれを勉強すればいいし、業界に関係なく営業スキルが必要ならばそれを磨くということだ。
「目標や計画を立てる人は多いのですが、それをきちんと振り返り、次に生かす人は少ない。PDCAを実行することで、きっと目標を達成できるようになります」(冨田さん)
誓い:3
早期リタイアしたい
■外国企業で働くか、起業するか
40代か、遅くても50代半ばには退職し、あとは好きなことをして暮らしていく。こんな生活を想像したことのない人はいないだろう。しかし武元さんは「早期リタイアというのは、日本には馴染まないのではないでしょうか」と異論を唱える。
欧米では、ビル・ゲイツのように早期リタイアをして、人生の後半はボランティアをしたり趣味を充実させたりして好きなように生きるのがいいという価値観がある。
そもそも早期リタイアをするには、巨万の富を得る必要がある。だが日本企業はどんなに会社に利益を与えた社員でも特別扱いしない。会社を辞めて遊んで暮らせるほどの退職金は出ないのだ。また国の政策としても、年金支給開始年齢を遅らせる準備として、定年を延長する動きが出ている。
「もっとも、若い世代はこれから変わってくるのかもしれません。外資系企業の日本法人は日本企業と大差ありませんが、本当の意味での外国の企業に勤めたり、あるいはベンチャー企業を起こしたりすれば、巨万の富を得る可能性もある。どちらを選ぶかは自分次第でしょう」(武元さん)
誓い:4
年収を2倍に増やしたい
■商社の社長なら、億単位も可能
ヘッドハンターに声をかけられて転職すると、年収が2倍になることもあるのだろうか。武元さんに聞いてみた。
「日本企業から外資系企業に移った場合などは、そういうこともありました。しかしそれは過去の話です。年収を2倍にするならいまの会社で出世コースにのったほうが確実かもしれません。商社の社長になれば、業績が好調なら年収は億単位ですから」
いっぽう法政大学心理学科教授で行動分析学が専門の島宗理さんは、
「まずは何歳までに年収を2倍にするのかを決める。そしてどうやって2倍にするのかという手段を具体的な行動として書き出し、一つ一つ実行する。そうすれば年収2倍も妄想ではなくなるかもしれません」
という。10年後に年収を2倍にすると決めたなら、その間で打てる手が何かを考えるのだ。それはいまの会社で頑張ることかもしれないし、転職することかもしれない。このとき重要なのが、とるべき方法を具体的にすること。「転職したい会社とコネをつくる」ではまだ抽象的すぎる。「管理職クラスの人の名刺を2枚以上手に入れる」というレベルまで具体的にしなければ行動に移せないのである。
誓い:5
健康診断でA判定をキープしたい
■意志が強い人などいない
健康診断のA判定をキープするには、運動や食事など生活習慣の影響も大きい。どうすれば健康にいい習慣を身につけられるのか。
「よく“自分は意志が弱いから、お酒を飲んだあと夜中にラーメンを食べてしまった”とか、“意志が強いのでジム通いが続いている”といういい方をします。しかし行動分析学の観点からいえば、そもそも意志が弱い人、強い人などいないのです」(島宗さん)
私たちは意志が強いとか弱いというのは、その人の性格だと思っている。しかし科学的にいえば、性格とは、その人の行動を観察した結果、行動の傾向を分類してまとめる概念にすぎない。陽気な声で話したり、よく笑ったりする人は、その行動を総称して「明るい性格だ」といわれているだけなのだ。
「行動は環境によって影響されます。学生時代は明るい性格だと思われていた人も、社会人になって営業先で怒られることが続けば、声が小さくなって笑顔が減ることもあるでしょう」(島宗さん)
性格と行動の関係は、川の流れにたとえるとわかりやすいかもしれない。ゆるやかに流れる川と、流れの激しい川がある。流れの速さの違いは水質の違いが原因ではない。傾斜の角度など、地形が違うだけなのだ。人間の性格もそれと似たようなもので、周囲の環境によって、誰でもとる行動はいくらでも変わってくる。それなのに「自分は意志が弱い」と思いこんでいると、「どうせ自分には続かない」というように可能性を限定してしまう。逆にいえば、いい習慣を身につけたかったら、それなりの環境を整えればいいということになる。
「意志が弱いという自覚があるなら、どういう場面で意志が弱い行動をとっているのか、自分の行動を観察して記録してみてください。たとえばいつも夜中12時頃ラーメン店に寄っているとわかったら、その時間はその店の前を通らないようにする、などと対策が打てます」(島宗さん)
「健康については、頑張りすぎないほうが、よい習慣が身につく」というのは武元さんだ。
「私はいま医学界の方とおつきあいがありますが、みなさん口を揃えていうのは、歩くことが健康にいいということです。歩くと足裏の血流が上に押し上げられて、循環がよくなる。私も1日30~40分は歩いています」
ポイントは、わざわざ着替えたり靴を履き替えたりしないこと。スーツにビジネスシューズのまま、街中を歩く。思い立ったらいつでも歩ける。だからこそ続くのだ。
継続に必要なのは「決意」より「ペン」
島宗 理●心理学者
■毎日○×を書くだけでもOK
仕事でもダイエットでもそうですが、何かを続けるために「強い決意」が必要だと思い込んでいる人は、きっと多いのではないでしょうか。
「記録すること」には、多くの人が想像している以上の効果があります。思い込みではなく、自分自身を客観的に分析できるようになるだけでなく、視覚的に達成感を得やすいという利点もあります。
うまくいかなければ戦略を変えて、その結果を記録する。記録と分析の繰り返しの中で、自分にぴったり合った続け方を発見できるのです。
注意点としては、「自分で記録すること」自体が嫌になってしまわないようにすることです。まずは設定した目標をすべて達成できなくてもいいから、今日は何ができたか、毎日○×を書くことだけはやろうと開き直りましょう。サボってしまった罪悪感で頭を抱えるより、書いた用紙を眺めることのほうが、続ける力になります。
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ZUU社長兼CEO
一橋大学卒。野村証券にて営業記録を樹立。2013年ZUUを設立し、金融メディア「ZUU online」運営。著書に『鬼速PDCA』など。
サーチファーム・ジャパン取締役会長
1968年、石川県生まれ。半蔵門パートナーズ社長。約20年のキャリアを持つ世界有数のトップヘッドハンター。
法政大学文学部心理学科教授
千葉大学文学部卒業。慶應義塾大学社会学研究科修了。ウェスタンミシガン大学心理学部博士課程修了(Ph.D.)。
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(ライター&エディター 長山 清子 写真=AFLO、iStock.com)
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