老親の家の片付けは"洗面台下"から始めよ
プレジデントオンライン / 2018年12月15日 11時15分
※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。
■高齢者は「捨てる」にとても敏感
実家に帰ると、物があふれて足の踏み場もない。そんなケースが後を絶たないという。「親の家の片付け」問題はいまや他人事ではない。
では、どうやって片付けを促したらいいか。5000軒の片付け実績を持つ安東英子氏はこう語る。
「絶対にNGなのは、『捨てよう』というワードです。物を捨てることに敏感になっているお年寄りは非常に多いのです。人によっては『葬式の準備でもするのか?』と、ひねくれて受け取るケースも。『別に片付けなくてもいい』と突っぱねられたらそれですべておしまいです。だからこそ、『掃除してあげようか』くらいから始め、親の手の届かない棚の上などを拭いてあげたりするのがいいでしょう」
親にしたら現状の住まいに何の問題もなく暮らしているわけで、片付けることを強要されるのは「余計なお世話」。事実、切り出し方に失敗したり、よかれと思って勝手に片付けをしたことで親子関係が決裂し、「2度と来るな」と勘当されるケースもあるという。だからこそ、最初のアプローチが肝心だ。
例えば、洗面台下の開き戸の中などは、しゃがまないと奥まで手が届かないため、何年間も放置されている場合がほとんどだ。ならば、「キレイに拭いておくよ」などと中の物を全部出し、あえて中に何が入っているかをすべて見せる。さらに、「この中でよく使う物はどれ? 戻すときに手前に置くようにするよ」などと教えを請う感じで、判断を委ねる。すると、「これはよく使うけど、こっちは古いし使っていないから、もういらないかな」などと片付けが進んでいくのだという。
「そのときに、『無理に捨てなくてもいいんだからね』と一言添えておくと、親も『無理矢理捨てさせられているわけじゃないんだ』と安心するんです。そうやって、少しずつ片付けに対する気持ちを温めていきましょう。絶対やめたほうがいいのは、『これ、いるの?』『これ使ってないでしょ?』などと押し付けるような言い方です」(安東氏)
【記憶力の低下】
ストック品をためてしまう、分別ルールが覚えられない
【視力の衰え】
汚れに気づかない
【味覚の衰え】
食品の腐敗に気づかない
【足腰の筋力の低下】
重い物が持てない。高い戸棚から物が出せない、かがむのがつらく、低い戸棚から物が取り出せない。買い物に行きづらい
実家に自分が昔使っていた荷物をそのまま置いている場合、その荷物から片付け始めるのもいい方法だという。「長いこと置きっぱなしにして、悪かったね」などと自分の物の整理から手をつけ、キレイになった状態を何気なくアピールする。部屋が片付くと便利で快適だと気づいてもらえれば、ほかの部屋も掃除しようかなという気持ちになる。
「いくつになっても親は親。子供から尊敬されたいという気持ちがある。これを忘れると必ずもめます。ですから、極力、言い方に気をつけて、親のプライドを傷つけないことが大事です」(同)
■災害、貢献、相談がキーワード
「都心に住むお金持ちの高齢者の家であっても、5年前に賞味期限が切れたレトルト食品が大量にストックしてあったりします。70代以上の世代は、戦中・戦後の、物のない時代に育ったので、『物を粗末にできない』という考え方が刷り込まれているのです」
そう話すのは、これまでに2000軒近くの遺品整理をしてきた内藤久氏。遺族の心によりそって片付けをすることを信条にしている内藤氏は、親に無理強いしてまで片付けさせることを勧めていないという。しかしながら、足の踏み場もない状態で親が生活していたら、やはり心配になる。そんなときには「災害」をキーワードにするといいとか。
「近年は東日本大震災など大きな災害が重なったため、高齢者は『備え』に敏感になっています。地震のときに棚の上から物が落ちてきたり、足元が物だらけで転倒してしまった経験から、怖くなって施設に入る決断をされた方もいらっしゃいました」(内藤氏)
高齢者の転倒場所で一番多いのが自宅だと言われている。高齢者の場合、骨折すると、そのまま寝たきりになってしまうケースも多い。だからこそ、特に玄関までの床の上を片付けておきたい。その場合は「転倒したら危ないから、よけておくね」と親を思いやる気持ちを伝えながら始めるといいそうだ。
【1】ゴミがたまると処分に「多額のお金」がかかる
【2】老親が「ケガ」をして寝たきりになる
【3】「不衛生な家」だと、嫁や孫が寄り付かなくなる
【4】「身内のけんか」が増える
【5】通帳や印鑑がゴミに埋もれ、「紛失」しやすくなる
ただでさえ夫の実家には行きたがらない妻が、汚ければ余計に嫌がる。人が寄り付かない家では、近所や兄弟間でももめ事が多くなる。
また、本棚に入りきらない本が天井近くまで積み上げられ、親がそのそばで寝ている、なんていう話もよく聞く。そんなときは「貢献」をキーワードにするといいそうだ。誰かが使ってくれるなら、と考えると手放しやすくなる。それでも親が躊躇する場合は、理由だけでも聞いておこう。その理由の中には、きっと「大事な思い出」があるはず。実は、親にとって大事な物を確認しておくことは、後々のことを考えると非常に大事なことだと内藤氏は言う。
「アルバムが100冊あったとします。遺品整理の際、それを全部取っておくわけにはいきません。特に大事な写真をあらかじめ聞いておき、それだけを残せば、ほかは割り切って捨てられます。親が大事にしていた物を聞いておけば、それ以外は躊躇なく処分できるのです」
この「事前に聞いておく」という手法は、もう1つ大きなメリットがある。「見落とされがちな財産」を発見する際に大きな手がかりになるからだ。
「親がわが子のために定期預金をしていても、その存在を知らなければ受け取れません。例えば『子供のための定期預金の管理は夫婦でしようと思っているんだけど、お母さんはどうしてる?』などと、相談する感じで聞いてみましょう。これはネット銀行の預金のパスワードを知るうえでも有効です。『スマホのパスワードは夫婦で共有しているけど、お父さんとお母さんはどうしているの?』などと相談しながら聞いておけば、デジタル遺品を調べるために携帯のロックを解除するときに役立ちます」(同)
親世代では国債などを持っていたりするケースもよくある。生命保険以外にどういったものが受け取れるのかも、「相談」しながら聞いておこう。
「片付けをしていて、金杯が出てきたら要注意です。以前は銀行がお得意様に記念品として配ることが多かったので、もしかしたら親が貸金庫を契約している可能性があります」(同)
見慣れない銀行のカレンダー、生命保険や証券会社のティッシュボックスなどがあったらチェックしておこう。事前に金融関係の情報をうまく聞き出すことで、「見落とされがちな財産」を少しでも減らすことができる。
ただし、ゆめゆめ注意したいのは、自分本位の気持ちで行動しないこと。
「親の家の片付けは、自分のためではなく、親のためにやるもの。それを間違わないようにしてください。『後々、面倒だから』と自分本位の気持ちが伝わると、ひどいことをされるんじゃないかと親も警戒しますよ」(同)
【1】空き家の郵便受けに「ガムテープ」を張ってはいけない
空き家でも、銀行など金融機関から届く郵便物を受け取れるようにしておくことが大事。
【2】銀行や郵便局の「記念品」や「カレンダー」に注意
親から聞いていない金融機関のノベルティグッズがあったら、取引がないか、調べよう。
【3】たんすの一番上の引き出しや「衣装ケースの下」をチェック
高齢者はたんすの引き出しの一番上や衣装ケースの下に、現金を隠すことが多い。
【4】「こけし」などインバウンド需要があるものは高値で売れる
外国人に人気がありそうな物は高く売れる。品薄状態の人気こけしは高額で取引されている。
【5】「旅行ガイドブック」は要注意。すべてペラペラめくる
特に男性は、旅行の際、ガイドブックに現金をはさんで、そのまま忘れているケースがよくある。
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美しい暮らしの空間プロデューサー
これまでに5000軒の家を片付けてきた「片付けの伝道師」。著書に『親の家の片付け 決定版』(小学館)、監修本に『そのとき、あなたは実家を片づけられますか?』(扶桑社)など。
ホテル勤務を経て、ハウスクリーニング会社を設立後、「遺品整理の埼玉中央」を運営。近著に『図解 親の財産を見つけて実家をたたむ方法』(ビジネス社)など。
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■▼【図表】「安東流」実家の片付けのコツ
(志村 江 撮影=和田佳久 写真=iStock.com)
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