『進撃の巨人』作者が語る最終回への思い
プレジデントオンライン / 2018年12月12日 9時15分
■ハリウッド実写化も決まった『進撃の巨人』
人間が次々と巨人に食いちぎられるという残酷で強烈な描写と、独特な世界観のストーリーで読者に大きな衝撃を与えた漫画『進撃の巨人』。物語の舞台は、人食いの巨人が地上をのし歩き、残されたわずかな人類は大きな城壁の中でおびえて暮らす世界だ。大型巨人の出現で壁が崩されたことで、巨人と人間による生き残りをかけた壮絶な闘いが始まる。ダークファンタジーの要素の中に、リアリティーあふれる人間描写が描きこまれ、その圧倒的な迫力が読者を惹きつけてやまない。
11月18日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、作者の諫山創が連載10年を経て、物語をいよいよエンディングへと向かわせるさまに7カ月間密着した。壮大な物語が生まれる源泉や、「最終コマ」のイメージが番組内で明かされた。
■「完結させられるかに責任を感じる」
そもそも、巨人が人を食べるという発想はどこから生まれたのだろうか。
【諫山】「映画の『ジュラシック・パーク』かもしれないですね。でっかいのに食べられるとか。あとは漫画の『地獄先生ぬ~べ~』で、人食いモナリザの回っていうのがあるんですけど、牙じゃない普通の人間の歯で食べられるっていうのがなんともエグイなと思いまして」
コミックの発行部数は7600万部を超え、世界180カ国で展開している。近年ハリウッドで実写映画化されることも決定した。だが諫山は、驚くことを口にした。
【諫山】「今はちゃんと完結させられるかどうかっていうところにプレッシャーというか責任を感じていますね」
『進撃の巨人』が今、終わろうとしている。
■仕事部屋にカメラが潜入
取材が始まったのは今年3月。諫山が創作の場を人に見せることはめったにない。カメラに映る自分を想像するだけでゾッとしてしまうからだという。
ネーム作り(あらすじの下書き)にとりかかる諫山は机につき、椅子に座ったままじっと考え込む。ものの30分もしないうちにあくびが出始め、ついに机から離れソファの上でスマートフォンをいじり始めてしまった。一向に作業が進む様子はない。
【諫山】「だいたいこの繰り返しなんですよね。眠くなってる時に良いネームが書けるわけないって思って寝て、起きたら腹減って、腹減ってる時に良いネームが書けないからって飯食って、飯食ったら眠くなって……(ため息)」
ネームを仕上げるまでに、およそ4日かかる。その間、きちんとした睡眠や食事もとらず、もうろうとした頭でそれでもペンを走らせる姿はまさにヒットメーカーのリアルな苦悩を現していた。
■アフレコ現場で演技指導をしてみたが……
この日はテレビアニメの声を吹き込むアフレコの現場に赴いた。主人公のエレンとその仲間クリスタがお互いの理解を深める場面で意見を求められ、諫山は作者にしかわからないニュアンスを声優の梶裕貴に伝えた。
【諫山】「このセリフをきっかけにエレンはヒストリアを理解できてうれしいというか、安心したのでもう少しテンションを上げた方が良いかと……」
【梶】「自分の持っていたイメージと少し違いました。わかりました」
次の録音で、梶は諫山のアドバイス通り、見事にセリフのテンションを変えてみせた。ところが……
【諫山】「申し訳ないです。僕、変なこと言っちゃったみたいで……。元のテンションに戻してください」
梶のプロの仕事を目の当たりにした諫山はアフレコ終了後、ポツリと漏らした。
【諫山】「漫画家の分を超えたことをやった気がします(苦笑)」
この日の諫山は何だかとてもうれしそうだった。作品を面白くしようという気持ちはみな同じだと実感したからだ。
■漫画の原風景となった故郷・大分
久しぶりに故郷・大分県日田市に帰るという諫山が、『進撃の巨人』の原風景となった“秘密の場所”に案内してくれた。そこは、生まれ育った日田の町を見下ろす高台。マッチ箱を並べたような小さな町を、山がぐるりと囲んでいる。少年時代にこの場所をたびたび訪れたという諫山は、ここで何を思ったのか。
【諫山】「やっぱりここから出たい、田舎から出たいですかね。壁の外、田舎の外の社会には巨人がいるってことになりますね。その巨人と戦わなきゃ外では生きていけない」
高台から故郷を眺める諫山の姿は、壁の上から街を眺める主人公エレンと重なって見えた。そろそろ『進撃の巨人』に決着をつけなくてはならない。
■『進撃の巨人』最後の一コマ
10月『進撃の巨人』最終幕に向けての打ち合わせが行われていた。担当編集者に進捗を問われると「イメージはある」と答える諫山。
【諫山】「変わる可能性もありながら書いてる感じです」
見せてくれたのは長い物語の最後の一コマ。それは、幼子を抱く何者かの後ろ姿と、ただ一言「お前は自由だ」と語りかけるセリフだった。
今、この瞬間も無我夢中でゴールを目指す。そんな諫山に、次回作について尋ねると、「あります」と言い切ったが、迷いもあるようで……。
【諫山】「ありますけど、書かないかもしれない。その可能性が高い。もう一回この生活を始める覚悟ができるかどうか。でも、いろいろな漫画家の先輩方を見ていると、結局は自分も描きたくなるんじゃないかって気がしますね……」
まだまだ諫山の闘いの日々は続く。われわれも、もう少し一緒に夢が見られそうだ。
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漫画家
1986年大分県生まれ。専門学校九州デザイナー学院 マンガ学科卒業。2008年週刊少年マガジン第81回新人漫画賞で入選を受賞。 2009年より別冊少年マガジンにて「進撃の巨人」を連載中。第35回講談社漫画賞を受賞。締め切りに追われる日々の中、ゲームと格闘技観戦が息抜きという32歳。
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(「情熱大陸」(毎日放送))
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