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成年後見人はどれだけおいしい仕事なのか

プレジデントオンライン / 2019年1月1日 11時15分

写真=iStock.com/AlexRaths

病気、介護、お金、片付け、空き家、お墓……。「実家」のさまざまな問題を解決するにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年9月4日号)の特集から処方箋を紹介する。第4回は「財産横取りリスク」について――。

■勧められても安易に申し立ててはダメ

日本にはおよそ20万人の成年後見人がおり、年間3万~4万件の成年後見が新たに開始されています。2000年に成年後見人制度が開始された直後はそのうち9割が家族による親族後見人でしたが、ここ数年は弁護士、司法書士などによる専門職後見人の割合が高まっており、新規後見については7割にも達しています。

私は一般社団法人「後見の杜」の代表として、悪質な後見人に泣かされている被後見人やその家族のために活動しています。その立場から見ると、専門職後見人の激増は「弁護士や司法書士のために割のいい仕事をつくりたい」という法曹界の意向が働いた結果としか思えません。いまや家族が成年後見を申し立てても、家族ではなく、家庭裁判所側が一方的に選任してきた見知らぬ法曹関係者が後見人となるケースがほとんどです。

家族が認知症を発症し、銀行からお金を引き出せなくなったり悪徳商法の標的になったりした場合、銀行や警察からは地域包括支援センターや社会福祉協議会に相談に行くことを勧められます。そしてこれらの施設に相談に行くと、ほぼ確実に「成年後見人をつけるしかありません」と言われます。「手続きのやり方はわかりますか」と畳み掛けられ、その場で弁護士や司法書士の電話番号を渡されたりしますが、簡単に応じてはいけません。

成年後見人の申し立ては本来、収入印紙代などを除けば無料でできます。申立書は用意された項目にチェックマークを入れる程度の、誰でも2時間もあれば書ける内容です。ところがうっかり弁護士などに申し立ての代理を頼んでしまうと、日弁連が公開している費用の目安が10万~20万円であるところ、60万円もの「申立書類作成手数料」を要求されることがあるのです。

申し立てには認知症であることを確認するための医師の診断書も必要。医療保険の適用外で、1万円ほどかかります。また家裁が必要と判断した場合、鑑定医に診断を命ずる場合があり、その場合はさらに10万円程度かかります。しかしこれらは成年後見にかかる総費用のほんの一部にすぎません。

家裁に提出される後見人候補者の名簿は、弁護士会、司法書士会などの業界団体が作成します。こうした団体は地元の家裁と意を通じており、ほかの地域の同業者が後見人に選任されるのを好みません。このため、たとえ申立人が自分の知人の弁護士を後見人に希望しても、ほとんどの場合は棄却されてしまうのです。代わりに選任されるのは、名簿に搭載された地元の弁護士なり司法書士です。

「見ず知らずの弁護士を後見人にするくらいなら」と取り下げを試みる人も多いのですが、いったん申し立てを行ったら、家裁の許可がないかぎり取り下げることはできません。

■70歳になったら任意後見人契約を

成年後見人の仕事はどれだけ「おいしい」ものなのでしょうか。

後見人の報酬額は家裁が決定しますが、その額は被後見人の預貯金に比例します。このため被後見人に資産が少なく、とりわけ生活保護を受けているような場合は、専門職後見人の多くが受任を嫌がります。

家族はおろか被後見人にもほとんど面会しようとしない専門職後見人が多いといわれますが、それは被後見人に会いに行こうが行くまいが、報酬額に変わりはないからです。報酬の目安は図に示した通りですが、被後見人が亡くなるまでの総額では数百万円から場合によっては1000万円超に上ります。そうした報酬の詳細を被後見人の家族が知ることはできません。

後見人の権限は強力です。後見人がついてしまうと、子供でさえ親(被後見人)の資産内容を簡単には教えてもらえなくなります。それどころか後見人は、被後見人を介護施設へ入居させるとか、家裁からの許可を得たとして家を売ることまで家族の同意なくできるのです。その一方、被後見人や家族への態度が不誠実だといった理由で解任しようとしても、まず認められることはありません。後見人の辞任・解任はほぼ次のような不祥事がらみです。

00年から15年までの16年間で約40万件あった後見のうち、約1%で後見人が解任され、約8%が辞任しています。解任理由の多くは横領です。しかし横領を行った専門職後見人のうち解任されるのはごく少数。家裁からの辞任勧告を受けて、本人が横領したお金を返して後見人を辞任すれば「お咎めなし」とされるのが実情です。辞任の中にも「プチ横領」のケースが紛れ込んでいるわけです。

悪質な後見人の例を紹介しましょう。よくあるのは妻が専業主婦で、夫婦の財産のほとんどの名義が夫のものとなっている状態で夫が認知症となり、専門職後見人がつくケースです。

この場合の夫の財産は実際には夫婦の共有財産といっていいものです。しかし専門職後見人が入ってきたら、すべて妻の手から奪い去られてしまいます。財産がいくらかも教えてもらえず、夫の財産や年金収入から妻の自分に渡される生活費さえ、後見人の言うがままに制限されてしまうのです。

「実家に母を連れていくので旅費をください」と頼んだら、「行く必要はない」と一蹴された娘さん。「あんたの生活費に月5万くれてやる」と言われた奥さん。「自分の分の財産をはっきりさせたいなら、離婚するんだな」と言い放たれた奥さんもいます。

このような事態に陥らないためにも私は「任意後見制度」を利用することをお勧めしています。本人の意思がはっきりしているうちに、たとえば70歳になったのを機に後見人を選んでおくのです。家族や知人、懇意にしている弁護士など好きな人を選んで、公証人役場で公正証書を作成します。費用は5万円程度です。

よく「うちは息子がいるから大丈夫。後見人はいりません」と言う人がいますが、大きな間違いです。ここまでご紹介した現実を肝に銘じていただきたいと思います。

なお、図は後見人の必要度と費用の目安を算出したシミュレーションの一例です。入力条件を変えれば必要度・費用も変わります。

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宮内康二
一般社団法人後見の杜代表
1971年生まれ。早大卒。南カリフォルニア大老人学大学院修了。著書に『成年後見制度が支える老後の安心』など。
 

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■▼【図表】一目でわかる! 財産横取りリスク

(一般社団法人後見の杜代表 宮内 康二 構成=久保田正志 撮影=永井 浩 写真=iStock.com)

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