韓国軍「日本には何をしてもいい」の理屈
プレジデントオンライン / 2018年12月29日 11時15分
■なぜ無理筋の言い訳ばかりを重ねるのか
2018年12月20日午後、能登半島沖を飛行中の海上自衛隊のP‐1哨戒機が、韓国海軍の「クァンゲト・デワン」級駆逐艦から火器管制レーダーの照射を受けた。同じ自由主義陣営に属し、朝鮮半島有事の際は協力して事態に対処することになるはずの友邦の軍用機に対し、非常識な行動としか言いようがない。しかも、韓国側は事後対応において、出任せの嘘ばかりを並べている。
まず韓国側は、遭難した北朝鮮の船舶を探すためのレーダーは使用していたが、日本の哨戒機を追跡する目的で火器管制レーダーを照射した事実はないと主張している。だが、通常の捜索用レーダーと、火器管制レーダーとでは、電波の性質が全く違う。
一般的な捜索用レーダーは、アンテナを360度回転させながら、艦艇の周囲をぐるりとスキャンする(つまり、当てられる側から見れば断続的に電波を照射される形になる)。それに対して火器管制レーダーは、指向性が高くパルス幅の狭いビーム波を、目標に対して連続的に照射し、速度と位置を高精度で把握するものだ。周波数の違いもあり、照射された側がこの二つの電波を取り違えることはありえない。事案当時のデータも当然海自が保存しているだろう。
さらに韓国側は、P‐1が韓国艦の上空を低空で飛行したとも主張している。これは海自が公表した、問題の駆逐艦の鮮明な画像を見ての主張だと思われるが、これは図らずもP‐1の光学式観測装置の高性能ぶりを示すものだろう。
韓国側の姿勢にいよいよ業を煮やしたのか、12月28日夕方、防衛省は事案当時のP-1からの撮影動画を公式サイトで公開した。動画にはP-1が国際法や国内関連法令で規定されている高度・距離を取りながら、韓国海上警備庁の警備救難艦、木造漁船とおぼしき小型船、救助用のゴムボート二隻、そしてクァンゲト・デワン級駆逐艦を撮影していたところ、火器管制レーダーの照射を感知した模様が克明に記録されている。
韓国国防部は「捜索のために火器管制レーダーを使った」と主張していたが、動画には警備救難艦によってすでに救助されつつある小型船がはっきり映っており、もはや「捜索」の必要がなかったことは明白だ。韓国側が「通信強度が微弱で聞こえなかった」「コリアコースト(海洋警察)という単語だけを認知した」としていた、照射の意図を問うP-1から韓国艦への呼びかけも、艦番号を名指しする形で3種類の国際緊急回線を使ってクルーが明確に行っている。
韓国側の苦しい弁明をことごとく否定するようなビデオだが、この期に及んでも韓国国防部の報道官は「日本側の主張に関する客観的な証拠とはみられない」「事実関係をごまかしている」と主張。問題が収束する見通しは全く立たない状況だ。
いずれにせよ、韓国側は言い逃れができない状況だ。どうにも言い逃れようがないから、出任せを言うほかないということなのかもしれない。
■自衛隊機と韓国艦は、どこで何をしていたのか
ではなぜ、このような常識はずれの事案が起きたのか。事案発生当時、問題の韓国艦は日本海中央部の大和堆に近い日韓中間水域(11月15日に起きた日韓漁船衝突事故の現場付近)にいたとされる。韓国艦は当該海域で、北朝鮮の木造漁船(しばしば工作船としても使われる)の監視と、通常の訓練を行っていたと思われる。韓国側が主張する「北朝鮮漁船の救難活動」も、あったとすればその中で行われたのであろう。
一方、海上自衛隊のP‐1は能登半島沖の、日本の排他的経済水域(EEZ)の上空にいたとされる。当該機は厚木の第4航空群の所属で、こちらも厚木航空基地から日本海側へ進出し、そこから日本の領海線に沿って回る通常の哨戒活動をしていたと思われる。
具体的には目視(光学式観測)と対水上レーダーによる、海上哨戒活動である。P‐1の水上レーダーは非常に高性能で、海上に浮かぶ多数の船舶の大きさや形、動きなどをすべて把握できる(一説には、水面から数センチほど顔をのぞかせた潜水艦の潜望鏡さえも探知できるという)。そうした性能を使って、北朝鮮船による沖合での瀬取り行為(安保理決議違反である)の監視も行っていただろう。
つまり韓国艦も自衛隊機も、お互いに通常の任務中であったといえるだろう。その中でなぜ、あのような事案が発生したのか。
■「味方です」の警告を手動で解除?
おそらくは韓国艦が何らかの監視活動、あるいは救難活動を行っているときに、P‐1哨戒機の航路に過剰に反応したのではないか。軍艦は常に、周辺の航空機の動きを対空レーダーで監視しており、軍用の敵味方識別装置(IFF)や民間用のトランスポンダを用いて、レーダーでとらえた航空機がどこに所属するのか、友軍か否かも把握できる。ここまでは、どんな艦でも行う問題のない行為である。
だが、火器管制レーダーの照射は違う。ビームが目標に照射された時点で、いわゆる「ロックオン」という、艦の射撃指揮システムが目標を正確に把握した状態が成立する。照射された航空機では、システムが画面表示と警告音によって、ロックオンされた事実を乗組員に伝える。
2013年に中国海軍のフリゲート艦が海自の護衛艦に火器管制レーダーを照射したときもかなりの騒ぎになったが、「友軍」から照射されるというのは、意味不明としか言いようがない状況だったろう。そういう状況のもとでも、防衛省が公開した動画ではP‐1の乗組員は終始冷静で、レーダー波の周波数確認を含む必要な任務を高い確度で遂行していたのが印象的だ。
もっとも、実際にミサイルを発射できるシークエンスにまで入っていた可能性は低い。艦のシステムがIFFで友軍機と認識した航空機を、ミサイル攻撃の目標に設定することは基本的にできない仕組みになっているからだ。
だがそもそも、友軍機に火器管制レーダーを照射する段階で、途中のシステムの警告(味方だが大丈夫か、といった確認を求められる)を手動でオーバーライドする必要があり、そこに何らかの「人為」が働いたことは間違いない。その人為を、誰が行ったのか。
■艦長クラスの上級幹部の命令か
火器管制レーダーを操作するのは、艦のCIC(戦闘指揮所)の射撃管制員だが、通常は艦長あるいは副長の命令がなければ照射は行われない。少なくとも、自衛隊で言えば砲雷長や砲術長など火器管制に関わる幹部の指示が必要だ。さらに火器管制レーダーを使用しているという事実は、CICの全員に伝わる。末端の人間がこっそりやれるような行為ではないし、誤って照射した場合はすぐに制止が入る。もしそのような事象であれば、「レーダー員のミスだった」と韓国側が公表して謝罪すれば済む話であったろう。
おそらくは、もっと上の階級の人間が関わっているために、そうした簡単な処理ができないということであろう。交戦規則などの武器使用に関する規定をここまで無視できるのは、やはり艦長か副長クラスなのではないか。「のぞきやがってけしからん、ひと泡吹かせてやれ」と、そのクラスの人間が命令したというのが、一番ふに落ちるシナリオだ。
国際的な慣習において、公海上の軍艦は旗国(帰属する国家)以外のいずれの国の管轄権も及ばない、一つの独立国と同等の扱いを受ける。その艦長の権限と責任は、いわば一国の主に等しい。もし艦長あるいは副長クラスの上級幹部が今回のような暴走を行ったのだとすれば、韓国軍には指揮統制上の重大な問題があるということの証明になってしまう。
実際、韓国側のこれまでの対応を見る限り、韓国国防部も大統領府も、何が起きているのかを把握する能力がないように見える。文民統制や軍の指揮統制という面から見れば、末期的症状をきたしているといっていい。
■反日教育の「毒」が回った世代が軍の幹部に
「クァンゲト・デワン」級のような旧型艦は一般に、若手艦長の最初の任官先になることが多い。そして今の韓国の若手の職業軍人は、反日教育の「毒」が回った世代だ。
7~8年前、陸上自衛隊のある駐屯地での式典のことだ。式典の開始に伴い国旗の掲揚が行われている最中、その駐屯地に留学で訪れていた韓国軍の若手士官が、私服姿の友人らしき人物とずっと私語をしていた光景を思い出す。たとえ敵対する国に呼ばれたときでも、他国の国旗には敬意を表すのが軍人の常識なのだが、世話になっている留学先でこういう非礼を働く世代が士官になっているというのが、韓国軍の現状なのだろう。
今回の事案の背景には、文在寅政権のもと韓国国内でますます高まっている「日本には何をしてもいい」という韓国国内の空気感の影響もあるのだろう。そして西太平洋の安全保障体制の中で日本と韓国のつなぎ役を果たしてきたアメリカは、韓国との同盟関係を加速度的に細らせつつある。韓国が軍事政権から民政に移行して以来、長年にわたってありとあらゆる工作活動を韓国で展開してきた北朝鮮にとって、これら日韓/米韓の離間はまさに望み通りの結果のはずだ。
そして当の韓国軍は、本来なら優先順位がはるかに高いと思われる北朝鮮軍の南侵やミサイル攻撃に備える装備より、強襲揚陸艦やイージス艦、弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射可能なミサイル潜水艦、射程500キロ以上の新型弾道ミサイルといった、日本への対抗を主眼とするかのような装備の充実に力を入れている。日本にしてみれば、朝鮮半島への軍事侵攻などもはやありえない選択肢だが、韓国国民の認識は異なり、それが軍内部にも反映しているのだろう。
日米韓の協調関係が終わり、核武装した南北統一軍が成立する可能性への備えを、わが国はそろそろ真剣に考え始めるべきなのかもしれない。
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防衛ジャーナリスト
1967年生まれ。拓殖大学卒。雑誌編集者を経て、1995年より自衛隊を専門に追う防衛ジャーナリストとして活動。旧防衛庁のPR誌セキュリタリアンの専属ライターを務めたほか、多くの軍事誌や一般誌に記事を執筆。自衛隊をテーマにしたムック本制作にも携わる。部隊訓練など現場に密着した取材スタイルを好み、北は稚内から南は石垣島まで、これまでに訪れた自衛隊施設は200カ所を突破、海外の訓練にも足を伸ばす。著書に『自衛隊と戦争 変わる日本の防衛組織』(宝島社新書)『陸上自衛隊員になる本』(講談社)など。
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(防衛ジャーナリスト 芦川 淳 写真=時事通信フォト)
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