軽自動車ばかりが売れる日本はダメなのか

プレジデントオンライン / 2019年1月16日 9時15分

新車販売台数で2年連続首位となったホンダの「N‐BOX(エヌボックス)」シリーズ。(写真提供=ホンダ)

2018年の車名別新車販売台数で、ホンダの軽自動車「N‐BOX」が2年連続で首位となった。軽自動車はトップ10のうち7車種を占め、全体シェアも3分の1を越えている。「日本独自規格である“軽”ばかりが売れるのは不健全だ」ともいわれるが、法政大学大学院の真壁昭夫教授は「それは表層的な見方にすぎない」と指摘する――。

■軽自動車は決して「ただ安いクルマ」ではない

自動車には、その土地での人々の生き方が反映される。その意味で、“自動車は文化”だ。文化とは、わたしたちの“生き方(way of life)”である。今後の自動車需要が見込まれる国の文化は、各国の自動車企業の経営に無視できない影響を与えるだろう。

自動車は、ドイツで発明された。その後、自動車産業の中心は、米国、日本、そして中国へとシフトしている。その中で、各国の風土や生活様式が反映され、自動車の設計や仕様は大きく変化してきた。見方を変えると、その時々の世界的な自動車シェアや相対的に高い技術力を持つ国の文化が、自動車の基本設計に大きな影響を与えてきたということだ。

この考えを基にすると、わが国において軽自動車(排気量660cc以下、長さ3.4m以下、幅1.48m以下、高さ2.0m以下の三輪および四輪自動車)が人気を集めている理由が、よくわかるだろう。

一部には、わが国の需要が伸び悩む中で、軽自動車を選択する人が想定的に多いという考え方もある。確かに、そういう考え方はあるかもしれない。しかし、すでに一部の軽自動車は、より大きな排気量を持つ乗用車よりも高額だ。軽自動車人気の理由をわが国の経済の低迷だけに求めても、納得のいく説明は難しい。

■故障が少なく、燃費効率や耐久性の高い日本車

歴史を振り返ると、世界経済における自動車産業の中心地は、ドイツから米国、そしてわが国へと伝わってきた。

1886年、ドイツのゴットリープ・ダイムラーは、ガソリンエンジンの自動車を発明した。この自動車は、貴族など富裕層の移動に使われた。その後、自動車の生産は欧州から米国に移った。1908年に発売された“フォード・モデルT(T型フォード)”は、それまで富裕層の象徴であった自動車を、庶民の移動手段にした。特に、フォードがベルトコンベヤーを用いた大量生産方式を用いて自動車の生産を進めたことは、均一な性能を持つ自動車の大量生産を可能にし、米国のモータリゼーションを加速させた。

第2次世界大戦後、世界の自動車産業におけるわが国の競争力は徐々に高まった。なぜなら、わが国は約3万点に達するといわれる自動車の部品を精密にすり合わせ、故障が少なく、燃費効率や耐久性の高い優秀な自動車を生み出すことができたからである。

この結果、燃費性能などで日本車は世界中の支持を獲得した。1970年代以降の日米自動車摩擦の背景には、わが国の自動車産業の優秀さがあったのである。

■各国の自動車には「その国の生き方」が反映される

各国の自動車には、その国における人々の生き方が色濃く反映されてきた。ドイツでは、速度無制限区域のある高速道路である“アウトバーン”を高速かつ安全に移動することなどを目的に、堅牢かつ重厚な自動車構造が重視された。

ドイツなどでタクシーに乗ると車種はメルセデス・ベンツであることが多い。社内に入って気付くのは、ドアなどの鉄板が厚いこと、エンジン排気量が大きく加速性に優れていることだ。そのため、世界の政治家、エグゼクティブの移動には、ベンツが選ばれることが多い。

また、スウェーデンのボルボも、安全性と車体の頑丈さには定評がある。その理由は、寒冷地でヘラジカと衝突しても走り続けることができることが重視されたからだ。それが、衝突時のショック吸収性能や自動ブレーキの開発につながってきた。

■なぜ農家には必ず「軽トラ」があるのか

わが国の自動車設計にも、人々の生き方が反映されてきた。それが、軽自動車の誕生につながった。

わが国の国土は狭い。そのため、道幅も狭い。山間部には急峻な地形が多く、自動車には十分な登坂能力が求められる。資源の調達・確保に関しても、わが国は多くの化石燃料を海外からの輸入に依存している。地方では、兼業で農業に携わる家計も多い。

わが国での人々の生活を考えると、大排気量かつ大型の自動車を日常的に用いることは現実的ではない。農村や漁村では、細い道にも問題なく入っていける小型の自動車のほうが運転しやすい。必ずと言っていいほど農家に“軽トラ”があるのは、そうした文化の表れに他ならない。

また、地方に住む知人と話をしていると、自動車が一家に一台ではなく、一人に一台の時代になっていることがわかる。少子化と高齢化、および人口の減少が進む中で、鉄道やバスの運行本数が減少してきたことは大きい。個人の通勤や買い物などに、軽自動車は欠かせない存在になっている。

家計の収入状況などを考えても、大型乗用車を複数台購入することに比べれば、軽乗用車を必要な台数購入したほうが維持にかかる費用も抑えられ現実的だ。

■インドの自動車市場で40%超のシェアをもつスズキ

わが国の文化に基づく自動車の開発は、国内自動車メーカーの競争力にも無視できない影響を与えてきた。軽自動車を得意とするスズキは、インドの自動車市場で40%超のシェアを確保している。

インドでわが国の軽自動車がそのまま使われているわけではないが、スズキは国内の軽自動車事業で培ってきた技術力などを活かして、インドの文化にマッチした自動車を生み出し、シェアを獲得している。

従来、軽自動車は普通車よりも価格が抑えられてきた。加えて、インドはわが国同様、原油の輸入国だ。スズキは、価格と燃費面で優位性のある軽自動車をベースに、インドの交通事情や生活にマッチした“マルチ800”を低価格で販売し、ヒットを実現したのである。

■軽自動車のビジネスは国際展開にも適応可能

このように考えると、軽自動車開発の背景には、わが国における人々の生き方が反映されてきたことがわかる。

日本自動車販売協会連合会などの発表によると、2018年の車名別新車販売台数では、ホンダの軽自動車「N‐BOX」が2年連続で首位となった。軽自動車はトップ10のうち7車種を占め、全体シェアも3分の1を越えている。

一部には「軽自動車が売れているのは、デフレ経済からの脱却が実現していないからだ」という主張があるようだが、それは表層的な見方に思える。また、「軽自動車は日本の事情のみに適応してきた“ガラパゴス商品”にすぎない」という主張にも、説得力があるとは言いづらい。

ガラパゴス化とは、その商品が特定の市場に適応しすぎた結果、国際標準からかけ離れていくことをいう。スズキのインド戦略は、軽自動車のビジネスが国際展開にも適応可能であることを示すよい例だ。

■これからの中国市場で「電気自動車」が重視されるワケ

今後の自動車業界の展開を考えると、中国の自動車産業の動向が重要である。2017年、中国の新車販売台数は2800万台を超えた。中国は、世界最大の自動車販売市場だ。トヨタ、独フォルクスワーゲンなど、世界の自動車企業にとって、中国の需要を取り込むことが成長を左右する。

中国の自動車の設計思想は、世界の自動車業界に無視できない影響を与える。中国で深刻化している問題に、大気汚染がある。中国政府は大気汚染対策のために、レシプロエンジンを搭載した自動車ではなく、電気自動車(EV)の普及を重視している。

その理由は、ガソリンエンジンなどよりもエネルギー効率の良いモーターを用いることや、再生可能エネルギーを用いた発電により、温室効果ガスの排出を減らすことができるからだ。中国での需要を取り込むために、世界の自動車企業がEV開発に注力しているのである。

今後、世界の自動車業界における中国市場の存在感は一段と増していくだろう。2024年には、インドの人口が中国を上回ると予想されている。人口増加に伴い、インドのモータリゼーションも加速化するだろう。自動車の生産地・需要源としての中印の存在感が高まるにつれ、自動車設計の思想にはその国の文化がより反映されていくだろう。

その中でわが国の自動車企業は、燃費や居住性能、耐久性などの基本的な強みを生かしつつ、各国の事情に合ったデザインや車種を創造していくことが求められる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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