マドンナも認めた"下着"世界進出の舞台裏
プレジデントオンライン / 2019年2月1日 9時15分
※本稿は、野木志郎『日本の小さなパンツ屋が世界の一流に愛される理由(ワケ)』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■甲冑パンツ、ニューヨークへ行く
前回の記事でご紹介したように、甲冑パンツはいちかばちかで世に出した商品です。
その甲冑パンツが、時を経て別の展開を生み出しました。なんと、2015年9月9日にはじまったマドンナのワールドツアーで、彼女のバックダンサーたちが甲冑パンツを穿いてくれたのです。
ことのはじまりは、その1年ほど前。うちの女性社員が受けた電話でした。「野木さん、なんか……マドンナって言ってますけど」「マドンナ? あのマドンナ? 嘘やろ?」
電話を替わってもらうと、ニューヨークからかけているという日本人の女性が、「マドンナの衣装をデザインしているチーフデザイナーのアシスタント」だと名乗りました。
アシスタント女性「マドンナってご存知ですか?」
野木「歌い手のマドンナさんやったら知ってますけど」
アシスタント女性「そうです。そのマドンナです」
なんだかコントみたいな会話ですが、そんな感じでした。
聞けば、ワールドツアーの衣装を検討している段階で、侍アンダーウェアが候補に挙がっている、ついてはサンプルを購入したいとのこと。私は、そういうことならお代はええからと、甲冑パンツをニューヨークに送りました。
■マドンナのライブに映った1枚のパンツ
1カ月経ち、2カ月経ち、待てど暮らせど連絡がないので諦めかけてきたところ、彼女から電話。「バッチリです」。
5種類の武将で11人分、全部で55枚ほしいとのこと。クレジットカードを切ってくださいという申し出がありましたが、私はいちかばちかでこう言いました。
「パンツは無償提供でいいです、その代わりマドンナさんのライブでパンツが写っている写真1枚だけでもいいので使用許可をください」
すると、後日マネジメントからOKが出ました。ただ、正直言って、その時点の私はまだ疑っていました。そんな簡単に許可なんか出るはずがない。もしこの話が嘘で、タダで送った甲冑パンツ(1枚8800円)がニューヨークの路上で1枚5000円くらいで叩き売りされていたら……、とも思ったのですが、それはそれで笑い話として最高やん、ネタに使える――それくらいに考えていたのです。
待ちに待った9月9日、ユーチューブにかじりつきでライブ動画がアップされないかチェック。しかし見つかりません。次の日、そのまた次の日、そのまたまた次の日と、毎日仕事中、帰宅後、ユーチューブをチェックしました。そして、諦めかけていた1週間が経った頃、見つけたんです! 甲冑パンツが映っている動画を! もう叫びました!
「やった!! 本物やった!!」
■ワールドツアーでVIP待遇
できれば生でそのパンツを観たい! そう思っていたのですが、アメリカやヨーロッパにまで行ってライブを観ることはできません。アジアツアーが開催されるのを祈っていたところ、なんとアジアツアーも決定。めでたく日本でその勇姿を観ることができるのです。
チケット発売日、必死になって私はチケットを買いました。5万円(!)もするスタンド席。パンツをタダで渡し、5万円も出費して、私は一体何をやってるんでしょうか……。
そんな日本公演の前日、アシスタントの彼女から電話がありました。「招待券は届きましたか?」「え? 届いてないですよ」「本当ですか! じゃあ私が今すぐ手配します! 当日は関係者受付に行ってください。何席必要ですか?」
今日の明日ですから、都合のつく人なんていません。私は娘と2人分の席をお願いしました。
翌日、案内された席は完全にVIP席。ダンサーの家族など関係者しか入れないラウンジには、美味しそうな食べ物、飲み物が山ほどあったので、私は食って、飲んで、ベロベロになりました(笑)。
席に戻ると、アシスタントの彼女が私たちを探していました。彼女は開口一番「野木さん、このステージの下のバックステージを案内するので今から行きましょう!」。
■パンツをはさんでマドンナと対面
私と娘はマドンナやダンサーの控室を案内されました。こんなこと、一生に何度も経験できることではありません。満員のスーパーアリーナのステージの下に行くとスタンドからは「誰あれ?」って感じでじろじろ見られてました。
優越感に浸って通路を歩いていると、バックダンサーの衣装とともに甲冑パンツが干してあるではありませんか! 私は絶対に公開しないことを条件に、記念に写真を撮らせてもらいました。
そして、予想だにしていなかったことが起こりました。次の日、包帯パンツがきっかけで仲良くさせていただいている世界的シェフのNOBU(松久信幸) さんから電話。「今日、『NOBU トーキョー』にマドンナの予約が入ったよ。紹介できるかもしれないからおいで」マジですか!? ミラクルです! そりゃあ行きますよ!
コンサートで甲冑パンツを穿いて踊るダンサーをしっかり確認し、存分に堪能した翌日、予約の時間に「NOBU トーキョー」で待機。しかし、待てど暮らせどマドンナは来ません。待つこと1時間半。それでも来ないので「帰ります」と諦めてタクシーで帰途についたのですが、家に到着する直前に電話が鳴りました。
「来たよ!」
私はタクシーをそのままUターンさせ、「NOBU トーキョー」に戻りました。
■ネタとして面白ければそれでいい
「NOBU トーキョー」の一番奥の席にはあのマドンナがいました。私はマドンナが食事を終えるのをカウンターでじっと待ちます。
彼女が食事を終えたところでNOBUさんの長女・純子さんが私をマドンナに紹介してくれたのですが、緊張のあまり何も言葉が出てきません。
純子さんがアンダーウェアがどうのと英語で説明してくれて、マドンナが「ワオ、リアリー?」。私は「オッケー、サンキューベリマッチ」。それが精一杯でした……。
情けない。ほんと、情けない。
甲冑パンツがマドンナのワールドツアーで使われたことは、写真とともに宣伝に使いましたが、実はまったく効果がありませんでした(なんでやねん!)。
ただ、そんなこと以上に甲冑パンツが私に運んできたものは大きかったと思います。
世界的アーティストのワールドツアーの舞台裏をのぞかせてもらい、マドンナ本人からも「ワオ」と言われた奴なんて、まぁ、なかなかおらへんでしょ?
何より、ネタとして面白いですよね。
■たとえ100回負けても、2、3回勝てばいい
私は「名刺を持つよりネタを持て」と常々言っています。ネタとは、それ自体が独り歩きするような実績やエピソードのこと。ネタの多くは失敗から生まれます。「失敗がネタになる」、そう思っていれば、コトの大小問わず、いつでもチャレンジのための一歩が踏み出せるようになります。
ネタさえあれば、多くの人が、あなたのことを忘れず、人に紹介してくれるようになり、ビジネスをひろげてくれます。
失敗の多くがネタになるならば、「たとえ100回負けても、2、3回勝てばいい」、そう思えてくるようにもなります。
みなさん、決してチャレンジをあきらめないでください。ちょっとでも「心が動く」、「心が震える」のであれば、やる価値はある。私はそう思い、いつも一歩を踏み出しています。
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ログイン 代表取締役社長
1960年、大阪府高槻市生まれ。立命館大学法学部法学科卒業。87年株式会社千趣会入社。新商品、新規事業を中心に担当する。2002年に父親の会社「ユニオン野木」へ。その後「包帯パンツ」を開発し、06年にログイン株式会社を設立して独立する。包帯パンツは19年1月現在、世界で130万枚を売上げ、世界的なシェフ・松久信幸(NOBU)氏やロバート・デ・ニーロ氏など、国内外の著名人にも多くのファンを持つ。
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(ログイン 代表取締役社長 野木 志郎)
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