自民党の"不倫男受け入れ"を理解できるか
プレジデントオンライン / 2019年2月6日 9時15分
■自民党の「駆け込み寺」の扉をたたいた細野氏
「ただいま志帥会(二階派)の例会で特別会員としてお認めいただいた。長く非自民でやってきたので、地元を含めて厳しいご意見のかたがたくさんいると思いますが、政策実現するという意味で、自民党入りを目指していきたいという思いは持っています」
1月31日午後。細野氏はややこわばった表情で語った。まずは無所属で二階派に所属、いずれ自民党に入ろうという考えを正式に明らかにした瞬間だった。当面の身分は「特別会員」だが、自民党入りできた段階で、正会員に「昇格」する運びだ。
二階俊博幹事長が率いる二階派には、これまでも自民党入り、もしくは復党を目指していた長崎幸太郎氏(現山梨県知事)、小泉龍司衆院議員らが二階派メンバーとなってから自民党入りを果たしている。党内では二階派のことを「駆け込み寺」と揶揄する声もある。
寄せ集め集団ゆえ、所属議員にはスキャンダルや問題発言も多い。昨年の臨時国会で物議をかもした片山さつき地方創生担当相と桜田義孝五輪相も二階派に所属している。このあたりの経緯は昨年11月に配信した「安倍首相が"片山大臣"を守る気がないワケ 大臣抜擢の時点で"義理"は果たした」をご覧いただきたい。
■2006年にフリーアナウンサーとの不倫が発覚
細野氏は47歳。2000年の衆院選で初当選して以来、7回当選を重ねている。政治的センスの高さは若手のころから注目され、党では役員室長、政調会長、幹事長などを歴任。民主党政権の時には閣僚も経験した。出世街道を歩み続けてきたのだが、一般の人にとっては「モナ騒動」の印象が強いだろう。
2006年、党政調会長の時、フリーアナウンサーの山本モナさんとの不倫が写真週刊誌に報じられた。路上でキスしている「路チュー」写真は注目を集め、山本さんはキャスターに抜擢されたばかりだったTBS「筑紫哲也のNEWS23」を降板。以来、細野氏はネット上で「モナ男」などと呼ばれるようになった。スキャンダル経験者という点では「二階派に向いている」といえるかもしれない。
■騒動後に閣僚となるが、「小池劇場」で失脚
ダメージは大きかったが、これで政治生命が絶たれたわけではない。閣僚になったのも、民主党幹事長になったのも「モナ男」になってからだ。細野氏は後日、「自身の問題(モナ騒動のこと)を経験し、東日本大震災の時に原発対応を経験し、危機管理の対応は十分経験できた」と自身のスキャンダルを前向きにとらえることさえあったという。
順調にキャリアアップしてきた細野氏にケチがつき始めたのが17年、小池百合子東京都知事が代表を務める「希望の党」の結党に参加した時だ。「排除発言」など、高飛車な言動が批判された小池氏の側近として振る舞ったことで党内外の批判が集中。すっかり悪役になってしまい、同年10月の衆院選で希望の党が惨敗したときには戦犯扱いされた。翌18年、無所属となり、その後は鳴かず飛ばずの日々を過ごしている。
■萩生田氏「説明なしにウロウロされるのは迷惑だ」
今やうだつの上がらない中堅議員にすぎない細野氏だが、自民党内では彼の二階派入りに、激しいハレーションが起きている。岸田文雄政調会長は「二階派の人から話を何も聞いていない」と露骨に不快感を示す。萩生田光一幹事長代行もインターネット番組で「自民党政治を批判していた振る舞いが間違っていたのなら、国民に知らせるべきだ。説明なしにウロウロされるのは迷惑だ」と批判した。
最大の理由は細野氏のキャラクターだ。野党時代は論客でならし、自民党批判の先頭に立ってきた。だから細野氏にわだかまりを抱いている自民党議員は今も多い。
それに自民党内の派閥争いも加わる。二階派と岸田派の確執だ。両派は衆院山梨2区で岸田派の堀内詔子氏と二階派の長崎氏が争い、事実上の分裂選挙を繰り広げていた。先月の山梨県知事選では、衆院選で敗れた長崎氏が出馬して堀内氏がそれを応援。「国政は堀内、県政は長崎」とすみ分けることで和解が実現したはずだった。
ところが「細野問題」が再び両派閥をいがみ合わせることになった。細野氏は静岡5区で当選を重ねているが、最近3回の選挙で議席を争ったのは自民党の吉川赳氏。この人物は岸田派のメンバーなのだ。
細野氏は「5区を離れる時は政治家を辞める時」と公言しており、自民党入りして静岡5区にこだわれば、吉川氏と自民党公認を争うことになる。収束に向かったばかりの「二階、岸田戦争」は戦場を静岡に移し、第2幕を迎えようとしているのだ。
■幹事長の二階氏、幹事長代行の萩生田氏の争い
両派の争いについて、党内は総じて岸田派に同情的だ。今、自民党は衆院でも参院でも十分な議席を持っている。党内に波風を立てるような手をつかって1人の国会議員を引っ張り込む必要はない。
萩生田氏の「説明なしにウロウロされるのは迷惑だ」という激烈な表現も、そういった党内の雰囲気が背景にある。これに二階氏は「ウロウロとは何事だ」と怒りをぶちまけているという。幹事長の二階氏、幹事長代行の萩生田氏。上司と部下の争いも今後、目が離せない。
そういう軋轢があるのを意識しているのだろう。細野氏は、自身が二階派にわらじを脱いだ「根拠」を昭和期の1人の政治家に頼ろうとしている。
■自民党入りを「理解できない」と答えた人は58%
「二階派とのご縁は、二階会長というのがあります。遠藤三郎先生の秘書を二階会長はやられていた」
遠藤三郎とは、現在の静岡5区(三島市など)を地盤にした昭和期の政治家で、建設相などを歴任し1971年に死去した。二階氏は大学卒業後、政界入りした際、まず遠藤氏の秘書になっている。つまり、二階氏と細野氏という似ても似つかぬ2人の政治家は、遠藤三郎という人物を接点に1本の糸でつながっている。
細野氏はその「縁」を強調することで二階派入りの正当性を示そうとしているのだ。二階氏も周囲に「静岡5区は遠藤先生以来、見るべき政治家がいたか」と呼応してみせる。しかし、遠藤氏がいかに静岡県東部の生んだ偉大な政治家だったとしても、50年近く前に他界した人物の名を持ち出すのは苦しい。これは「後付け」の理屈だろう。裏返せば、今回の二階派入りの評判が悪いことを二階氏も細野氏も自覚しているということなのだろう。
2月2、3の両日にJNNが行った世論調査では、細野氏が自民党に入ることに「理解できる」は25%で、「理解できない」と答えた人は58%だった。自民党の静岡5区支部は、細野氏の入党を認めないよう党本部に要請する方針だ。ある程度予想したこととはいえ、細野氏にとっては厳しい船出となった。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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