ゆとり世代社員は小室圭さんにそっくりだ
プレジデントオンライン / 2019年2月19日 9時15分
■ゆとり世代と上の世代とのトラブルが頻発している
小中学校でゆとり教育を受けた「ゆとり世代」が、30歳以下の若手社員の大半を占めるようになった。小・中学生の期間のすべてをゆとり教育で過ごした1995~1996年生まれの筋金入りのゆとり世代も2018年から入社している。
最近、企業取材の現場でゆとりと上の世代との間のトラブルをよく耳にする。そうした世代間のギャップは、かつても存在していたが、ゆとり世代の特徴はほかの世代より際立っているように感じる。
たとえば、ある外資系企業がメディアを招いたイベントを開催した際、案内係を担当した広報の女性(25歳)が外国人記者に質問され、事実と異なる答えをしてしまった。上司の30代後半の女性はこう話す。
「込み入った質問は必ず私につなぐように言っておいたのですが、本人は英語に自信を持っていて質問されるままに答えたのです。なぜ私を呼ばなかったのと注意すると『矢継ぎ早に質問されるので私も必死だったのです。質問を遮ると相手に迷惑をかけると思ったのです』と言う。自分が知らないことを話すこと自体がおかしく、軽く叱ると本人はムッとしていましたね。その後、間違いに気づいた記者がカンカンに怒って彼女に電話をしてきたのですが、彼女が『お詫びのメールを送りました』と言ってきました。メールには『お叱りありがとうございます。私への励みと思い、これからもがんばります』と書いている。驚くというより呆れました」
ゆとり女子はおそらく自分なりに最善を尽くそうとしたのだろうが、結果的に間違いを起こした。だが、失敗してもなぜかそれを認めたくないという思いもある。実はこうした特性は他のゆとりにも共通する。小売業の40代の人事部長はこう分析する。
「小さい頃から型にはまった勉強しかしていません。失敗しないように親の庇護の下で塾と学校を往復する生活を送り、大学進学の際も安全圏の大学に絞り、AO入試で入る。大学生活も楽なバイトしかやらず、サークル活動も和気藹々と過ごした温室育ちが多いように思えます。そういう彼ら・彼女らがミスをして『失敗したのは君の責任だ』と言っても、決して認めようとしませんね。失敗することを極端に恐れるところがある。昔は若い頃に失敗を重ねて成長していくパターンでしたが、ゆとりは失敗するかもしれない危ない橋は渡ろうとしません」
■「私、失敗したことがありません」
失敗というと、入社面接では「あなたの失敗経験を教えてください」という質問が定番だ。失敗を克服した経験を聞くことで、成長の可能性や伸びしろを確認するのが狙いだが、近年は「私、失敗したことがありません」と答える学生が珍しくないそうだ。
不動産・住宅情報サイト運営会社のシンクタンク、オウチーノ総研がゆとり世代に自身の特徴を聞いた調査がある(対象は2016年に20~28歳の688人)。
それによると1位が「打たれ弱い・失敗を恐れる」の17.0%。次いで「仕事上のつきあいよりプライベートを優先させる」(14.7%)、「スマホ・ケータイ依存」(14.0%)、「ストレス耐性が弱い」(13.7%)、「出世にこだわらない」(13.7%)、「受動的・積極性がない」(11.0%)となっている。
ゆとり自ら「失敗を恐れる」と答えているのは興味深い。この特徴を見ても上の世代との価値観や行動の違いが大きいことがわかる。こうした違いが職場でのコミュニケーションギャップを引き起こしている。
外資系製薬業の教育担当部長はこう語る。
「昔は1を聞いて10を知れとか、先輩の行動をよく見て学べとか言われましたが、今の若い人には通用しません。わからないことがあれば先輩に聞けばいいと思うのですが、聞こうとしないし、聞き上手の若手も少なくなっています。『わからないことがあったら聞けよ』という上司がいますが、彼らはこっちが聞く前に(上司が自分に)教えるのが当然だと思っている。仮に聞いていないことで失敗しても『聞いていないんだからしょうがないですよ』というのが若い人の考え方なのです」
■ゆとり世代は「ひとことで言えば小室圭くんタイプ」
ゆとり世代の特徴を凝縮しているのが、小・中学生期間のすべてをゆとり教育で過ごした「2018年新卒入社」の世代だ。
複数の大学でキャリア教育を行っているキャリアコンサルタントは「ひとことで言えば小室圭くんタイプ。人あたりがすごくよく、真面目で感じもよさそうだが、本当は何をどうしたいのかよくわからない世代」と指摘する。口数が少なく、素直で真面目であるが、嫌なことがとあっても我慢する傾向があるという。
「職場で嫌なことがあっても、(上司などに)おかしくないですかと批判的なことは言えないタイプが多い。それでいて溜め込むと破裂してしまいます。ただ、それも声を荒らげて怒るのではなく、少しでもむかつくと、上司や先輩の話を聞かなくなり、その存在を彼らの中で“消去”、つまり無視するようになります」
多くの企業の新入社員研修を手がける教育コンサルタントもこう語る。
「受け入れ側の会社では彼らが見えづらい、わかりづらいという印象を持つ方が多いです。たとえば新入社員向けの研修の最後に『何か質問がありますか』と聞いても誰も手を挙げない。『では終わります』といった後に、ザーッと質問しに集まる。いろんな疑問があっても皆の前で目立ちたくない。わからないことをわからないと言えず、意思伝達が弱いという特徴があります」
■新幹線でいえば「こだま」ではなく「のぞみ」タイプ
こうしたゆとりの特徴は、上の世代から見れば理解に苦しむかもしれない。しかし、理解に苦しむのは自分たちと「同じ行動特性や価値観を持っている」と思っているからともいえる。彼らと自分たちとは違うのだと割り切ればコミュニケーションギャップを改善できるのだ。
最近になって彼らの言い分を理解できるようになった、と語るのは広告会社の人事部長だ。
「あるゆとり社員から、『上司がやるべきことを教えてくれない』という相談を受けました。『(上司の言動を見て)自然に覚えろ、と言うのですが意味がわかりません。上司がどのように教えるべきか、会社としてマニュアルを作り社員教育システムを改善すべきです』と要望されました。詳しく話を聞いていて、へんな理屈だとは思いましたが、彼らはそれで筋を通しているつもりなんです」
それ以来、この人事部長は管理職研修でゆとりを想定した指導方法を話すことにしたそうだ。その一つが新幹線の「のぞみ」と「こだま」の違いだ。
「こだまやひかりは停車駅が多いですが、のぞみは静岡を飛ばして名古屋までいく。ゆとりは『のぞみ型』です。こだまのように途中下車するのを嫌がり、大阪まで早く行きたがる。つまり、大阪に行くというゴールを設定してやることが重要なのです。しかし、世の中はそれほど甘くないし、紆余曲折しながらゴールにたどり着くのが普通です。ときには小田原や静岡に停まることも必要ですが、そのときに『どんな意味があるんですか』と聞いてきたときにちゃんと説明してあげることが大事だと強調しています」
■生まれも育ちも文化も異なる「外国人」と思って接する
前出のキャリアコンサルタントは上司世代に、ゆとり対策をこうアドバイスする。
「部下が失敗しても批判的な言葉を決して言わないことです。そのうえで彼らの言い訳に対し『君は僕の意見を聞いていないよね』とか『そういう考え方もあるけど、こういう考え方もあるよね』というふうにお互いの意見や考えを絡ませる訓練をしたほうがよいと思います。また、部下と話が終わったら『すっきりしたね、今日はここまで、じゃ飲みに行こうか』と話題を変える。そうやって気持ちを切り替えるようにしてあげるほうがよいでしょう。飲みに付き合うかどうかは不明ですが……」
価値観や行動特性が異なるのはゆとり世代だけではない。男女、外国人の違いを受け入れるダイバーシティ(多様性)マネジメントが今重視されている。その視点に立ってゆとり世代と接することも必要ではないか。違いを違いとして認めることでコミュニケーションは円滑化する。
前出の教育コンサルタントもこう指摘する。
「この世代がいけないとか、変わっているということではなく、育った環境が違うことを認識すべきです。お互いがその違いを理解しない限り、育成するにしても絶対にうまくいきません」
若い社員は、生まれも育ちも文化も異なる「外国人」だと思えということなのだろう。
(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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