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東京マラソン不参加組も走る"勝田"の魅力

プレジデントオンライン / 2019年3月2日 11時15分

1月27日に開催された「第67回勝田全国マラソン」(画像提供=ひたちなか市)

3月3日、東京マラソンが開催される。だが走れるのは応募者のうち12人に1人だけ。残りの11人は別の大会に参加するしかない。ではどんな大会を選ぶのか。1月27日に行われた茨城県ひたちなか市の「勝田全国マラソン」は、東京マラソンに落選した人が少なくないという。なぜランナーは東京の次に勝田を選んだのか。その知られざる魅力とは――。

■2万人が参加する「勝田全国マラソン」

3月3日、市民ランナーも参加する国内最大の大会「東京マラソン2019」が開催予定だ。毎年応募者は多く、今回は「マラソン」一般募集枠に約33万人が申し込んだという。同枠の定員は「2万7370人」で、12人に1人のランナーしか走れない計算になる。

東京マラソンに申し込みながら、抽選で外れたランナーはどうするか? もちろん人それぞれだが、別の大会に出場する人もいる。そうした人たちの間で人気なのが、今年は1月27日に開催された「勝田全国マラソン」(茨城県ひたちなか市)だ。

東京マラソンの“滑り止め”扱いするのは失礼だろう。1953年から開催されており、今年で67回を迎えた伝統ある大会だ。参加者数も多く、近年は2万人超のランナーが走る。これは前述の「東京マラソン」「大阪マラソン」「横浜マラソン」「NAHAマラソン」(沖縄県那覇市)などに次ぐ。歴史と参加人数で国内屈指の市民マラソン大会なのだ。

上位の大会は、大都市や名高い観光地だ。そうではない地方都市の「勝田」に、なぜここまでランナーは集まるのか? 現地取材で魅力を探った。

■あまり細かく言わない「安定した運営」

勝田全国マラソンには「フルマラソン」と「10キロ」コースがある。遠方からの参加者やその家族の中には、ひたちなか市や隣接する水戸市に現地宿泊する人も多い。

「勝田は最高ですよ。毎年、この大会だけに参加しています」

大会翌日、水戸市のホテルで会った40代男性(栃木県から参加)はこう語った。「フルマラソンに参加し、翌日は仕事を休んでゆっくり帰宅」が恒例だと言う。何が最高なのか。

「沿道ブースの飲食提供も多く、楽しいことですね。大会を通じて知り合った人と、一緒に事前練習もします。タイムは誇れませんが、完走すれば達成感があります」(同)

神奈川県の40代男性は、体型も陸上競技者タイプ。「安定した運営」を評価した。

「さまざまな大会に参加しますが、中には『あれはダメ、これはダメ』という縛りが多い大会もあります。安全に実施するため必要なのは理解していますが、正直『細かいな』と感じる時も。その点、勝田はランナーの自主性に任せてくれる一面があります」

総じて、大会慣れしていて自己記録更新をめざすようなランナーは、「あまり心を乱されないでスタートラインに立ちたい」が本音のようだ。

多くのランナーが集まった勝田全国マラソン(写真提供=ひたちなか市)

一方、大会前日に、ひたちなか市のホテルで出会った60代男性はこう語った。

「以前はフルマラソンを走っていましたが、数年前から10キロコースに変えました。その分、楽しんで参加できるようになり、今日もこれからおすしを食べに行きます」

記録をめざすか、大会を楽しむか。それぞれの意識で向き合っているようだ。

■東京からの距離と参加費用も魅力

会場に東京から電車で移動する場合、JR東京駅から勝田駅までは常磐線特急で約1時間30分だ。会場までは徒歩10数分だが、無料バスが運行されており、10キロコースなら日帰り出場もしやすい。こうした利便性も大会の人気を支えている。

参加料はフルマラソン「6000円」、10キロ「4000円」(参加資格は高校生以上で高校生はいずれも3000円)だ。2017年に参加料が上がったが、横浜マラソンの1万5000円、東京マラソンの1万800円に比べれば安い。なお、東京マラソンは2020年の大会から1万5000円(+税。国内ランナーの場合)に改定されることが発表された。

「勝田」は、東京マラソンの抽選終了後に申し込めるのも魅力のひとつだ。取材した中にも、東京マラソン落選組がいた。「勝田も参加数の上限を設けるようになったが、外れることはほとんどない」と明かす。

■コースは平たんだか、寒さと風が大敵

どの市民マラソンでもそうだが、出場するランナーは、大きく「アスリートタイプ」「健康増進タイプ」「エンジョイタイプ」に分かれるようだ。

実は「勝田」の男女のフルマラソン優勝者は、米国の「ボストンマラソン」に参加できる。今年のマラソン部門(39歳以下)の男子優勝者は甲斐大貴選手で、優勝タイムは2時間18分29秒(グロスタイム)。同女子は橋本奈海選手で優勝タイムは、2時間34分18秒(同)。超ハイレベルではないが、競技レベルは高い。

「近隣の実業団が、Bチームの選手をまとめてエントリーして、タイムを競わせるケースも目立ちます」(大学の陸上競技関係者)

夏の大会に比べて記録が狙いやすいのも、冬の大会の特徴だ。ただし屋外競技は、当日の気候条件に左右される。昨年の同大会は小雪が舞った。今年は晴れたが最高気温は9℃程度。参加者の中にはランニングウェアの上からプラスチック製のごみ袋をかぶる人も目立った。

「これは風よけです。スタートを待つ間に身体が冷えてしまうので」(ある女性ランナー)

走る間はランニングパンツに入れるという。「コースは平たんだが、○○に出たら風が強い」といった詳細情報は、事前にネットで知ることもできる。

■1万人の市民が大会を支えている

開催地にとって、「勝田全国マラソン」はどんな位置づけなのか。ひたちなか市に取材を申し込んだところ、大会会長の市長ではなく、スポーツ振興課長から回答があった。

「ランナー、ボランティア、そして沿道の応援として参加する市民は1万人を超えています。大会の開催そのものが市民の誇りであるとともに、地域住民の連帯意識やまちづくりへの参加意欲が育まれ、地域の活性化につながっています」

大会規模や歴史の割に、同大会は企業からの協賛金が少ない。「2016年に始まった県庁所在地・水戸の『水戸黄門漫遊マラソン』の協賛金が約4000万円に対し、『勝田』は1000万円未満」と聞く。協賛企業が、近年予算を減らしたケースもある。

沿道には応援の市民が集まる(写真提供=ひたちなか市)

■警備も市民の協力でしのいでいる

このため2万人を超えるランナーが安全に走るためには、市民の協力が必要だ。高齢化に伴い、参加者の平均年齢も上がってきた。「勝田」は、レース中はAED(自動体外式除細動器)を持った、茨城県内の大学生による自転車の“見回り隊”が巡回する。

一般にマラソン大会は「警備費」がかさむ。東京マラソンの価格改定理由もこれが大きい。各大会は地元警察や消防、自衛隊に協力を仰ぐが、参加人数が多いと民間の警備会社に委託する。ひたちなか市の場合、市民の協力でなんとかしのぐが、こんな声も聞く。

「大会実施中は、交通規制で走れない道路もあり、目的地まで時間がかかります。その分、料金もかさむ。お客さんに理解してもらうのに苦労します」(タクシーの運転手)

一般市民からは「当日はクルマで外出しにくい」という声も聞いた。年に一度の大会に多くの市民が協力する一方、こうした市民の忍耐で支えられる一面もある。

■激増した結果、淘汰される大会も

「東京マラソン」が一般参加型となった2007年以降、市民マラソン大会は激増した。県庁所在地が開催を始め、周辺の大会が影響を受ける例もある。2016年に「鹿児島マラソン」(鹿児島市)が始まった翌年、「たねがしまロケットマラソン」(同県)が30回の歴史を終えた。

ランニング人口も減ってきた。「スポーツライフに関する調査報告書」(笹川スポーツ財団)によれば、2016年にジョギング・ランニングを「週2回以上した人」の推計は約364万人。2012年の385万人をピークに、374万人(2014年)→364万人(2016年)と10万人規模で減る。フルマラソンはもちろん、10キロを走っても身体にはダメージが残る。そのため意欲的なランナーも、出場する大会を比較検討することになる。

■「2万人規模」をどう考えるか

ランナーへの訴求として、各地の大会では参加賞や特別賞にも工夫を凝らす。たとえば「焼津みなとマラソン」(静岡県焼津市)では「飛び賞」として10人に3人の割合で当たるカツオが名物だ。「勝田」では、参加者全員に県内産「乾燥イモ」(「完走」の洒落)、「長袖Tシャツ」を配る。これ以外に家族で参加した「ファミリー賞」などもあり、受賞者に人気だ。

実は「勝田」の参加者(エントリー数)も少し減ってきた。以下の図表の数字を見てほしい。

フルマラソン・10キロ合わせた数字では、過去最多だった2015年に比べて約3500人減だ。大会の開催は、事故がないことが一番で「ランナーが安全に走れる適正規模」の視点もある。数字がすべてではないが、人数が減ってきたのは事実だ。

また、出場者の不満はランニング情報ポータルサイト「ランネット」などに投稿され、主催者側も注目できる。

「ネットに投稿された不満は、実行委員会にも報告し、できるだけ改善しています。たとえば『スタートブロックの割り込み防止』のため、スタート地点の沿道にフェンスを設置。『トイレが少ない』という不満に応えるため、簡易トイレも増設しました」(同市)

伝統だけでは生き残れない時代。魅力を高めて「選んでもらう」のは、市民マラソン大会も同じだ。

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高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 写真提供=ひたちなか市)

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