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"原発は必要"と"消費増税は必要"は同じだ

プレジデントオンライン / 2019年3月11日 9時15分

2月1日、衆議院議員会館で行われた「薔薇(ばら)マークキャンペーン」の記者会見。朴教授のほか、松尾匡立命館大教授などが「反緊縮」を訴えた(撮影=プレジデントオンライン編集部)

■原発問題でも御用学者が言っていたことはウソだった

私は環境経済学者で、原発のリスクやコストの問題を論じてきました。そのような人間がふとしたきっかけから経済問題に関わるようになりました。それは原発問題と現れ方がよく似ているからです。

かつては政府の御用学者が「石油がなくなるから原発が必要だ」「原発は安全だ」「コストが安い」などと主張し、それを新聞社が無批判に記事にして、多くの政治家が賛成していました。

同じように日本の財政問題についても、政府の御用学者が「1000兆円を超える借金を抱えた日本政府は破綻寸前」「だから消費税増税が必要だ」「消費税を上げても問題はない」などと主張し、それがマスコミによって無批判に拡散されています。

これはまずい状況です。なぜなら消費税増税は地震が起こる地域で原発を再稼働するようなもので、確実に人の命や健康が脅かされるからです。原発では悲惨な事故が起き、多くの人が避難を余儀なくされています。同じようにタイミングが悪い時に消費税増税が行われた場合にも、甚大な被害が出ます。自殺や過労死は増えますし、お金がなくて医療や介護のサービスを受けられない人も出てきます。いろいろな形で人の命が奪われるのです。

■「借金1000兆円説」は、IMFによって否定されている

財政の本当の状態を表す重要な事実は、きちんと報道されていません。国際通貨基金(IMF)が2018年10月に、世界の主要国政府のバランスシートを比較し、日本の「公共部門」(中央政府+地方政府+政府関係機関+中央銀行)の純負債はほぼゼロだとする報告書を公表しました(IMF Fiscal Monitor Managing Public Wealth, Oct. 2018)。これは日本経済の行方を左右する非常に重要な事実なのですが、ほとんど報じられていません。

「借金1000兆円説」は、日本の財政のごく一部を一面的に示して行われる世論誘導です。企業も政府も、その「経営状況」はバランスシート(貸借対照表)の両面(資産側と負債・純資産側)を見て判断されなければなりませんが、危機をあおるマスコミも学者もそういうことはしません。

また、日銀は政府の子会社ですから、連結決算して「統合政府」の財政状況を評価するべきなのですが、そんなことはしません。財政の一部分が一面的に示され、「1000兆円」の借金の危険性がマスコミによって伝えられ、緊縮策(財政と金融の引き締め)が常識とされてしまっているのです。それは、原発は必要で安全で安価だと多くの人々が信じていた時代を思い起こさせるものです。

■財政危機の根本原因は「債務貨幣システム」

不況の時に財政赤字が必然的に増えてしまう根本原因は、近代以降の標準的な通貨制度である「債務貨幣システム」にあります。

おカネを作っているのは、日本銀行というよりも民間銀行です。日本銀行が発行する現金(日本銀行券)は、1000兆円を超える通貨量(マネーストック、M3)のうちの1割未満(100兆円程度)に過ぎません。残りの9割以上は現金ではなく、民間銀行などの預金(帳簿上の数字にすぎない「預金通貨」)です。これが企業や個人によって支払いに使われて「おカネ」として通用しているのです。

ただし、民間銀行は預金者から預かったお金だけを貸し出しているのではありません。銀行は、資金の借り手の預金口座を作ってあげて、そこに金額を書き込むのです。こうして銀行は、預かったおカネの何倍・何十倍ものおカネを「創り出し」て、預金という債務を負うと同時に、企業や個人の生殺与奪を握る債権者となることができるのです(これを信用創造と言います)。

これは望ましい通貨システムとは言えません。好況の時には貸し出しと「預金通貨」が急膨張してバブルの発生が助長されますが、バブルが崩壊すると金融危機が起こります。「大きすぎて潰せない」銀行は政府によって救済され、財政赤字を増やします。また貸し出しが急速に減れば、「おカネ」も減って不況がひどくなります。つまり、バブルも金融危機も財政危機もこの「債務貨幣システム」が大きな原因なのです。

2月1日、衆議院議員会館で行われた「薔薇(ばら)マークキャンペーン」の記者会見。左手前が朴教授(撮影=プレジデントオンライン編集部)

■金融界は「信用創造」から莫大な利益と権力を獲得している

銀行には預かった預金の全額を保有させるようにして信用創造をやめさせ、政府がマネーストックの全体を管理するような「公共貨幣システム」にすべきです(参考:山口薫『公共貨幣 政府債務をゼロにする現代版シカゴプラン』東洋経済新報社、2015年)。

でも既存のシステムの中で、信用創造から莫大な利益と権力を獲得している金融界はこれに大反対でしょう。ですから、政府に貨幣発行量の管理を任せることはできない、そんなことをすると必ずハイパーインフレになるという神話は、金融界に有利なのです。

「公共貨幣システム」の実現が当分の間は難しいとすれば、現状の「債務貨幣システム」のもとで、デフレ脱却という課題を抱える私たちに提示された選択肢は、「反緊縮政策によるデフレからの脱却」か、「緊縮策による持続的な不況」の2つに1つです。

■「財政ファイナンス」でむしろ財政は健全化する

金融危機が起こって不況に突入すると、民間の貸し出しが減りますから「おカネ」も減り、これがデフレの原因になります。そこで日銀が「おカネ」を増やすことが必要となりますが、日銀はマネーストックをじかに調整することができません。日銀が管理できるおカネは「マネタリーベース」と言って、日本銀行券と「日銀預け金(日銀の口座に民間銀行が預金しているおカネ)」からなるものです(財務省が発行する硬貨も含まれますが、その割合はごく一部です)。

マネタリーベースを増やすとき、日銀は民間銀行から国債を買い上げて「日銀預け金」の金額を書き足します。いわゆる量的緩和政策は、毎年数十兆円規模で日銀が国債を買い上げる政策です。政府が民間に対して30兆円分の国債を発行しても、日銀が30兆円分の国債を買い上げれば、それは日銀がおカネを作って政府の借金をすぐに返したのと同じです。

つまり、政府と日銀(政府の子会社)を連結決算して「統合政府」として捉えれば、このような政策によって日本の財政はむしろ健全化するのです。量的緩和は、円安・株高・雇用改善の効果も実証されています。マネタリーベースを大幅に増やすためには、そもそもの国債が増えないといけませんから、政府が国債を毎年数十兆円規模で発行する必要も出てきます。

■このままでは「緊縮策による持続的な不況」が続く

しかし、そのような政策は「財政ファイナンス」と呼ばれ、すぐにハイパーインフレにつながる「禁じ手」だと信じられ、日本ではタブーとされています。

私は、日銀が作ったおカネで、子育て、教育、医療のための支出を行う「反緊縮政策によるデフレからの脱却」を目指すべきだと考えています。物価安定目標を決めて節度をもって財政ファイナンスを行う限り、インフレを悪化させないことは可能だと考えています。

不世出の大蔵大臣であった高橋是清は、世界大恐慌の後、1932年に巨額の財政ファイナンスを行って世界でいち早くデフレ脱却を実現しましたが、その後は健全財政路線に転じて物価を安定させました。現在でも、2013年いらい日銀は300兆円を超える国債買い上げを行っていますが、財政破綻どころかインフレ率が2%の物価安定目標に達する兆しさえ見えません。

しかし、このような反緊縮的な政策が拒否され、早まった「財政再建」が行われれば、そこに待っているのは「緊縮策による持続的な不況」です。名目GDPが低迷して税収も増えず、財政赤字が増えなくても「政府債務と名目GDPの比率」が悪化してゆくと考えられます。

■政権の批判者には庶民のための経済政策がない

ここまで説明したような反緊縮的な政策は諸外国でも、財務省や中央銀行の保守的なエリートたちによって拒否されるのが普通です。しかし、緊縮的な新自由主義に対抗する欧米の左派・リベラルの政治家や経済学者は、反緊縮的な政策を掲げて対抗しています。

私にとって不思議なのは、日本では戦争や原発事故で脅かされる命に誰よりも敏感で、政府の世論誘導に欺かれなかったリベラルな市民や政治家たち、そしてこうした人々の知識の源になっている新聞記者たちが、デフレ不況によって失われた数万の命や、人生を狂わされた数百万の人々に対してとても冷淡に見えることです。

安倍政権を批判する政治家やジャーナリストたちも、自己満足のような「アベノミクス批判」に終始し、底辺の人々の暮らしを向上させるような経済政策を打ち出せていません。

このような状況は危険です。このままでは原発をなくすことも、平和憲法を守ることも難しいでしょう。ひとりでも緊縮神話に疑問を持つ人が増えるように、筆者は「薔薇マークキャンペーン」に協力しています。緊縮財政を続けることで、利益を得るのは金融界やエスタブリッシュメント(エリート支配層)で、被害を受けるのは庶民です。ぜひその事実を知っていただきたいと思います。

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朴 勝俊(ぱく・すんじゅん)
関西学院大学 総合政策学部 教授
1974年大阪生まれ。専門は環境経済学、環境政策。神戸大学大学院経済学研究科で博士(経済学)を取得。京都産業大学経済学部准教授を経て現職。著書に『脱原発で地元経済は破綻しない』(高文研)、『環境税制改革の「二重の配当」』(晃洋書房)、訳書に『黒い匣:密室の権力者たちが狂わせる世界の運命 元財相ヴァルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層』(ヤニス・ヴァルファキス著、明石書店、近刊、共訳)などがある。

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(関西学院大学 総合政策学部 教授 朴 勝俊 撮影=プレジデントオンライン編集部)

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