"三本締め"白鵬の立ち合いが超ズルいワケ
プレジデントオンライン / 2019年4月12日 15時15分
■また白鵬か……、陳腐性は仕方がない
平成最後の本場所となった春場所。記念すべき天皇賜盃は横綱・白鵬がかっさらった。これで42回目の幕内最高優勝だ。しかも全勝。「終わってみればまた白鵬か」という陳腐性は仕方がないにしても、文句のつけようがない。
恒例の土俵下のインタビューのとき、「平成最後なので皆さんで三本で締めたいと思います」と観客に三本締めを強いたことに苦言を呈されたようだが、そんなものは嵐の前の紙切れだ。
しかし、協会への注文がある。まず、なにゆえ、「白鵬─逸ノ城」戦が組まれなかったのか。横綱を1敗で追う逸ノ城と白鵬の直接対決をファンはなにがなんでも観たかったはずである。「なに言ってるんだよ。横綱の取組、特に後半はガチガチに決まっているから、当てたくても当てられないんだろ」という声も聞こえてきそうだが、それこそなに言ってんだ。ガチガチだろうとなんだろうと、割り返し(取組のやり直し)をすればいいのである。
2000年のまさに同じ春場所。前頭14枚目の貴闘力が史上初の幕尻優勝を遂げた。貴闘力は初日から12連勝。番付上は普通であれば横綱とは対戦しない。しかし協会審判部は13日目に横綱・武蔵丸を、14日目には横綱・曙を貴闘力にぶつけた。当該2人の横綱対戦を潰してまでもぶつけたのである。結果、貴闘力は連敗を喫したものの、千秋楽の雅山戦に勝って13勝2敗で優勝した。土俵下での男泣きインタビューは今でも語り草になっている。
だからこの春場所、千秋楽の面白くもない「白鵬─鶴竜」なんてぶっ潰して、白鵬と逸ノ城を当ててほしかった。
もう1つの注文は、優勝した白鵬の立ち合いだ。白鵬は相手と呼吸を合わせず、常に自分本位の立ち合いを強要し、絶対的優位に立つから勝つ。だから大記録を打ち立てても、その偉業を最大限に称える声が案外大きくならない。大横綱としてスケールに欠ける。
3代目若乃花の花田虎上氏は白鵬の立ち合いを「ずるい」と指摘。半世紀にわたり土俵を見続けている相撲ジャーナル・長山聡編集長は「今の相撲の立ち合いは、白鵬の左手がついた瞬間に立ち合い成立という暗黙の了解になっている。大鵬も貴乃花も、立ち合いは五分で十分としていたのに、白鵬は100%自分の呼吸で立とうとする」と鋭く分析。その白鵬もかつては相手に合わせる立ち合いを見せていたが……。
まず、横綱の立ち合いは「後の先」などと表現されるように、相手有利の呼吸で立ち、それでも勝ち切るのが理想とされた。格下に力を出させれば攻防が生じて土俵が面白くなる。しかし、ただでさえ強い横綱が、立ち合いで絶対に有利を譲らないとなれば、ほぼ圧勝。いわば「先の先」だ。一方的でつまらない相撲になってしまいがちだ。
前提として、相撲の勝敗はほぼ立ち合いで決まると言われる。15秒も取れば長いと言われる競技だ。力士たちは立ち合いにすべてをかける。手をどのタイミングで土俵につくか。立ち合いの駆け引きがスリリングなわけだが、初めから両手をしっかりとついて相手に合わせる好漢もいる。幕内では嘉風、大栄翔あたりが実に潔い立ち合いを見せる。ただし、相手に有利な呼吸を与える利他行為に思えるけれども、立ち合いの駆け引きに腐心せずに済むメリットもあるかもしれない。だがなにより好角家は彼らのような正統派を好む。平成の大横綱には「勝ってこそ」の意識が強すぎるようだ。勝つためには立ち合いを優位に持ち込めばいい。当たり前のことで、なにも非難される筋合いはないと思っているのかもしれない。
では、どうすればいいのか。立ち合いのルールを厳密化すればいい。
互いが呼吸を合わせて立ち合いが決まる、というのはもはや無理がある。「待ったなし!」と行司が叫んでいるのに頻繁に「待った」がかかる。「五分以下でも立つ」と鷹揚に構える横綱がいる時代ではないのだ。ズバリ、行司の合図で双方が出る。出遅れれば不利になるから合わせざるをえないだろう。合図の前に出れば短距離走と同じでフライングとなる。それを角界的な粋なニュアンスで制度化すればいい。
(作家 須藤 靖貴 写真=時事通信フォト)
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