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人気タレントがアニメ映画に起用される訳

プレジデントオンライン / 2019年6月5日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Davizro)

アニメ映画や洋画の声優にタレントがキャスティングされることがある。声優の岩田光央氏は「人気タレントが作品に出演すれば、メディアは取材に来てくれる。だが、声優は職人であって話題を呼ぶために存在するわけではない」と指摘する――。

※本稿は、岩田光央『声優道』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■声優は「職人としての資質」が8割

なぜ僕が声優を「職人」と表現しているかと言えば、求められる仕事の多くの部分はクライアントがいて、その要望に応えることが仕事だからです。さらに言えば声優という職業は、職人としての資質が8割、芸術的な資質が2割程度の割合で必要だと考えています。

どんな役で、どんなシーンであなたの声が、演技が求められているのか。その組み合わせは確かに無限ではありますが、あなたが選ばれた以上、求められる理想の声と演技が存在しているのは事実です。

そしてその要望は、その場の付け焼き刃で出したもので応えられるのではなく、あなたの過去の、その積み重ねの果てに初めて到達できるもの。つまり日々の努力で磨かれた技術があって、初めて演じることができるようになるはずです。

そうした職人とも言える技術が土台にあって、その上で性格や個性、緻密さを組み合わせて、役の魅力を高めるのがベテランの技術であり、魅力であると言えるでしょう。

どんなベテランだろうと現場に行く前には、台本を片手にコツコツと予習をし、口パクを合わせるという作業は必須で、これらの準備はやはり職人仕事であり、華やかさとはある意味で無縁なのです。

■作品に没頭できるなら「タレント」はいい演技をしている

職人としての声優の反対側に存在しているとイメージされやすいのが、大作アニメ映画や洋画などでよくキャスティングされる芸人や俳優、タレントでしょうか。

そうしたキャスティングを考えるのは、あくまで監督や制作会社側であって、僕の立場としては何も言えませんが、声優としての良し悪しの判断基準を述べるのであれば、それはあくまで作品を見ていて違和感を覚えるかどうか、ということだと思います。

違和感なく作品に没頭できたのならば、そのタレントはいい演技をしているということであり、少しでも違和感を覚えたのなら、残念ながら声優としてのニーズを満たしていないということになります。

特に俳優は普段声だけに頼らず、顔の表情や身振り手振りといった身体を使って演技をしていますから、声優としての演技をする場合、作品中での役とうまくシンクロできていないように感じられる場合が多い。

しかし彼ら俳優やタレントは声だけで演じる技術がなくて当然ですし、そもそも声優としての立場を求められてはいないとも言えます。

■声優は「話題を呼ぶため」に存在するのではない

制作会社が声優を起用する場合、僕たちのギャランティは制作費から捻出されますが、タレントを起用する場合、彼らのギャランティは広告宣伝費から出されている場合があるのも、そうした事情の背景になっているかもしれません。

よくテレビのワイドショーなどで、タレントが吹き替えを務める新作の公開アテレコをしている場面を見ることがあります。人気タレントが作品に出演すれば、メディアは取材に来てくれますし、制作会社にとっては非常にありがたい存在です。だからこそ広告宣伝費を使ってでも、彼らを起用しているのです。

ですが、作品の質を本当の意味で担っているのは、現実としてアニメーターや音声など、多くの職人たち。僕たち声優も、例外でなくそれに該当していることを忘れてはなりません。そして作品はあくまで制作サイドの所有物であり、僕たち声優はいかに彼らの要望を確実に満たせられるかが重要です。

作品の質を高める上で、職人の存在は欠かせません。そして声優もやはり職人であって、話題を呼ぶために存在するわけではない、という事実を決して忘れるべきではないと僕は思います。

■少し前は王子様系、最近はキーの高い声が人気

なお男性声優で言うと、少し前の世代だと甘い王子様系の声が、最近ではキーの高い声が特に求められているように感じます。

流行する声、もしくは人気の声はもちろん存在します。テレビのナレーターなどは如実で、同じ人の声をいろいろな番組で聞くことはよくあると思います。たとえば一日テレビを点けていると、「世界の果てまでイッテQ」のナレーションなどで有名な立木文彦さんの声が何度も聞こえてきた、なんて経験はきっとあるはずです。

ナレーションが大きな意味を持つテレビ番組だと、制作会社側としても安定した実力や人気があるベテランを好んで起用します。だから同じ人に集中して仕事が殺到するのは仕方がないかもしれません。

アニメやゲームのキャスティングも少し前までこの流れが顕著でした。非常に「旬」を重んじ、声優そのものの人気を当然のように重要視していました。

■「SNSのフォロワー数」がキャスティング基準の一つ

その理由は、何と言ってもソフトを「売らなければならない」からです。たとえばアニメ作品の場合、地上波放送や映画の放映期間が終わった後も、DVDやブルーレイ、アニメから派生するキャラクターソングやイベントチケットなど、いろいろな分野で収益を上げることになります。

そしてその稼ぎは、出演した声優の人気にかなり比例します。アニメの制作会議では、声優のSNSのフォロワー数や、以前に出したCDの売上枚数などをキャスティングの基準の一つにしていることもある、という事情が聞こえてきます。そうした背景の中、旬となった声優に集中して仕事が集まるのは当然でしょう。

もちろん同じ声優ばかり起用し続けると、それはそれで厳しいファンたちからは飽きられてしまいかねません。インターネットを通じ、そうした声がハッキリ見えるようになった昨今、ネガティブな評判が募ればそれはそれで死活問題となりますから、少しずつ次世代の声優と入れ替えていくことになります。

そのスパンは、現在の男性声優で7年くらいと言われています。ちなみに今のアニメのキャスティングを見ていると、2000年代前半に一世を風靡した声優たちの入れ替え時期に該当するかも、と個人的に感じています。

■女性声優の入れ替えスパンは長くて5年

しかし女性声優の入れ替え時期は平均するともっと短い。長くても5年前後ではないでしょうか。

特に若手の場合、どうしてもタレント性が求められる女性声優だけに、その寿命は短いと言われていました。僕もこれまで多くの女性声優とアニメに出演し、ラジオ番組をしてきましたが、数年一緒に仕事をしていても、出番を終えたらそのまま共演することがなくなった、と感じた経験が多くあります。

20代で毎月のように雑誌の表紙を飾っていた女性声優たちも、だいたい平均すると30代前半に差し掛かったくらいから、もしくは結婚などを境に姿を見かけなくなる場合が多い。最近だと10代から声優活動を始める女性声優が多く、競争も激しくなっていますので、すでにもっと短命になっているかもしれません。

■事務所に所属しているけど「開店休業」状態な声優がいる

先述のように、「旬」を迎えて仕事が集中する時期はスケジュールの管理が難しかった声優も、ひとたびそれが過ぎれば同じような活躍は困難になります。特にアイドル的な人気に頼りすぎた場合、「アイドル」の部分が何かの拍子で欠けると、途端に売り方が難しくなり、マネージメントの方向性を見失いかねないことが多いようです。

そのため「旬」を避けては通れない若手の女性声優だと、事務所に所属し続けてはいても、事実上「開店休業」状態となる人があまりに多い。人気作品のメインキャラクターを演じ、一時代を築いた人だろうと決して例外でなく、ある程度の年齢になった頃、事務所を移籍する人もいれば、そのまま辞めてしまう人も数え切れません。そしていよいよ近年、男性声優に対してもこうしたアイドル的売り方の風潮が強く見られるようになりました。

詳しくは著書『声優道』に記しましたが、「とにかく大量に安く」という風潮が一方で生まれてきてもいて、入れ替えのスパンはさらに短くなっているように感じています。特に「旬」や「華」の要素が強く求められるようになった若手の場合、男性も女性も、これからは同じ状況にある可能性が高いと考えておいたほうがいいでしょう。

■死んだとき「もうあの声が聞けなくなるな」と悲しんでもらえるか

岩田光央『声優道‐死ぬまで「声」で食う極意』(中央公論新社)

ただし「旬」や「華」に頼り、一時の人気に甘んじ、軸足を声優以外のところに置いてしまえば、残念ながら長く親しまれる声優の地位には決して就けず、いずれ苦しむことになるはずです。そのことは人気作に恵まれながら、その後ドン底を味わうことになった自分だからこそ、断言できます。

どの生き方がベストだ、ということは誰にも言えません。しぶとく長く、声優でい続けることが正しいわけではなく、一瞬だけ輝いて潔く散るのも、現在の声優業界を考えればさもありなん、と感じます。

しかし、あくまで自分は誰かの記憶に残り続ける声になりたい。自分が死んだとき「もうあの声が聞けなくなるな」と誰かに悲しんでもらえるような、そんな心に残る存在になりたい。

そしてファンにそう思われてこそ、真の「声優」なのではないかといつも考えているのです。

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岩田光央(いわた・みつお)
声優
1967年、埼玉県生まれ。出演作に「AKIRA(金田役)」「頭文字D(武内樹役)」「トリコ(サニー役)」「ドラゴンボール超(シャンパ役)」、「斉木楠雄のΨ難(斉木國春役)」など多数。子役から芸能界入りした、芸歴30年以上のベテラン。2013年、第7回声優アワード「パーソナリティ賞」受賞。ラジオ大阪「岩田光央・鈴村健一スウィートイグニッション」などにレギュラー出演中。声優学校などで講師を務める。通称『兄貴』と呼ばれ、後輩やファンに慕われている。19年6月より青二プロダクション所属。

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(声優 岩田 光央 写真=iStock.com)

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