金持ちだけが得した"太陽光バブル"のツケ

プレジデントオンライン / 2019年6月25日 9時15分

建設中の太陽光発電施設。2014年10月3日、宮崎県川南町(写真=時事通信フォト)

■「太陽光バブル」と揶揄される状況が出現した

経済産業省が、太陽光や風力でつくった電気を、電力会社が決められた価格で買い取る「固定価格買い取り制度(FIT)」の終了を検討している。6月12日に日本経済新聞が報じ、その後、各紙も同様に報じている。経産省からの正式な発表はまだないようだが、FITの終了は以前から予想されていたことだ。終了が事実だとしても、政府の対応は遅すぎるぐらいだろう。

わが国のエネルギー自給率は7%にすぎない。天然ガスや石炭などのエネルギー源のほとんどを輸入に頼っている。そのため、エネルギーの自給力を高める太陽光や風力などの再生可能エネルギーの活用は重要だ。その目的を実現するために、わが国は固定価格による電気買い取り制度を導入し、事業者が太陽光発電などに取り組みやすい環境を整備した。

それと同時に、政府は、市場に“ゆがみ”が出ないように、市場の価格メカニズムを通して効率的に資源を配分する仕組みを作るべきだった。その視点が抜け落ちていたため、結果的に、FITのうまみに目を付けた投資が急増し、一部では「太陽光バブル」と揶揄されるような状況まで出現した。

政府は、国民の負担を減らしつつ再生可能エネルギーの普及を促進する工夫が必要だ。そのためには、ゆがみのない、持続可能性の高い仕組みで民間企業の活力を最大限に引き出すことを真剣に考えるべきだ。

■「一定期間にわたって価格が一定」という設定自体が無理

2011年3月に発生した東日本大震災により、東京電力の福島第一原子力発電所では事故が発生し、国内の電力供給は混乱した。この事故はわが国に、原子力発電のリスクと社会・環境への影響を抑えた持続的なエネルギー源を確保することの重要性を突きつけた。

2012年、政府は太陽光発電などの「固定価格買い取り制度(FIT)」を導入した。重要なことは、一定の期間、事業者が発電した電気を“固定価格”で売ることができるようになったことだ。

通常、モノ(商品)であれ金融資産であれ、市場の価格メカニズムに基づいて需要と供給が均衡する。価格は、気象や経済環境など多面的な要素に影響される。見方を変えれば、資本主義経済において、一定期間にわたって価格が一定ということは基本的に無理がある。

■「FITほどおいしい投資案件は見当たらない」

対照的にFITは発電事業者に対して、固定価格を保証した。事業者に求められることは、期間損益を計算したうえで、収益を確実に得られる事業規模を実現することだ。その条件を満たすことができれば、実際に太陽光パネルを設置して発電を行い、固定価格で売電することで安定的に利得を得ることが期待できる。ある知人の投資家は、「FITほどおいしい投資案件は見当たらない」と話していた。

具体的に固定価格制度の下で各電力会社は、太陽光発電などを行う事業者から電気を買う。電力会社は家庭や企業に、再生可能エネルギーを用いて発電された電気を売る。電気使用者は電力料金と合わせてサーチャージ(再エネ賦課金)を電力会社に支払う。これを原資にして電力会社は太陽光などの発電事業者に決められただけの料金を支払う。

重要なことは、国民の負担によって固定価格での買い取り制度が運営されてきたことだ。2012年のスタート時点での太陽光発電の買い取り価格は「40円+税金(1キロワット時あたり、調達期間は20年)」と設定された。

■需要の2倍程度もあるという「過剰な供給能力」

2012年以降、わが国では太陽光発電が急速に増加した。資源エネルギー庁の報告によると、2012年以降の設備容量の年平均伸び率は26%に達している。

特に、事業用(非住宅用)の太陽光発電が急増した。環境エネルギー政策研究所が公表している『自然エネルギー白書 2017』によると、太陽光発電全体に占める事業用の太陽光発電のシェアは、2012年半ばの時点で10%を下回っていた。2016年度末には全体の80%近くのシェアを占めるまでに膨張した。

この資源配分はゆがんでいるといわざるを得ない。基本的に電力の需要は経済成長に連動する。わが国の経済の成長率は低迷している。このような太陽光発電の増加は行き過ぎだ。それほど固定価格という制度は企業や投資家にとって魅力的だった。

これに伴い、地方では、空き地などにびっしりと太陽光パネルが敷き詰められた光景が出現し始めた。特に、まとまった面積を確保しやすいとの理由から、かなりの事業用の太陽光発電施設が北海道と九州に偏っている。こうした地域では、基本的に人口が減少しており、電力需要は低下傾向にある。その一方で電気の供給能力は需要の2倍程度あるともいわれている。過剰な供給能力は、FITが生み出した“ゆがみ”の顕著な例だ。

■中国資本も太陽光発電に参入し、ブームが過熱

加えて、中国の太陽光パネル生産能力の向上の影響も見逃せない。2005年、世界の太陽電池セル市場においてわが国は約50%のシェアを誇っていた。しかし、現在では中国が世界最大の供給者としての地位を確保している。

供給が増加するとともに太陽光パネルの価格は下落し、わが国における太陽光発電投資の増加を助長した。加えて、中国資本がわが国における太陽光発電に参入し、太陽光発電ブームが過熱した。パネル価格の下落によって発電コストは低下する。政府は国民負担への配慮から買い取り価格を段階的に引き下げたが、資源配分のゆがみを是正するには至らなかった。

FIT導入の背景には、「再可能エネルギーの利用普及には、国のサポートが欠かせない」という政府の発想がある。それは、わが国の産業政策の多くに通じる考え方だ。わが国は、補助金などを通して事業主体が安心して(リスク負担を軽減して)新しい分野に進出できる環境の整備を重視しがちだ。

■2040年ごろには太陽光パネルの廃棄問題も深刻化

結果的にみると、その取り組みは一部の事業者の利得確保につながりはした。しかし、経済全体にプラスの価値をもたらしたとは言いづらい部分がある。北海道や九州に偏ってしまった太陽光発電施設から全国に電気を送るためには、送電網の整備が欠かせない。電力会社はその財源をどう確保するかという難しい問題に直面している。

政府は、価格メカニズムの発揮を目指すべきだ。政府には採算性という発想がない。一方、民間の事業主体は、資本コストを上回る期待収益率を確保しなければならない。企業は新しい発想の導入やコスト低減への取り組みなどを通して、競合相手よりもより有利な価格で財やサービスを顧客に提供し、利得を得ようとする。

価格メカニズムを活用すれば、企業の創意工夫やチャレンジを引き出し、より効率的かつ持続可能な経済資源の再配分を目指すことができる。その上で政府は、民間企業に過度なリスクが及ばないよう、部分的に価格の維持制度などを導入すればよい。

FIT制度によって太陽光発電への参入が急増した結果、メンテナンス不備による安全面への懸念や、景観の悪化などの問題も表面化している。これは、固定価格による買い取り制度を続けた弊害だ。加えて2040年ごろには太陽光パネルの廃棄問題も深刻化する恐れもある。そうした課題を解決するためにも、政府は価格メカニズムに基づいた民間企業の競争を促し、持続可能な再生エネルギーの活用を目指さなければならない

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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