セクハラ・法改正の驚くべきポイント4つ
プレジデントオンライン / 2019年7月1日 11時15分
■セクハラ規制“法改正のポイント”4つ
セクハラ事件は後を絶たないが、経営者を巻き込んだセクハラ事件が大きな話題になっている。龍角散の社長が起こしたセクハラについて法務担当部長が社内調査を開始したところ、社長はセクハラ被害をねつ造したとして部長を解雇。6月6日、元法務担当部長の50代の女性が不当解雇であるとして地位の確認と解雇後の賃金などの支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。
裁判の行方が注目されるが、折しも5月29日、国内では初のパワハラ防止法が国会で成立。同時に新たにセクシュアルハラスメント(セクハラ)規制の強化策を盛り込んだ法改正が行われた。
セクハラに関しては「男女雇用機会均等法」に企業に雇用管理上必要な防止措置を義務づける規定がある。今回の法改正によって新たに盛り込まれたセクハラ規制は以下の4つだ。
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2.事業主に相談した労働者への不利益取り扱いの禁止
3.自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合の協力
4.紛争調停への職場の同僚の出頭・聴取対象者の拡大
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■相談者への不利益な扱いも禁止
1番目は、罰則はないが、セクハラをしてはいけないことが初めて法律に書き込まれた。また、これまでは企業に防止義務を課していたが「他の労働者に対する言動に注意を払うことなどを関係者の責務」とし、関係者とは上司、部下、同僚や取引先の社員も含み、企業以外の関係者もセクハラをしないことを責務とする規定を盛り込んだ。もちろん経営トップもその中に入る。
2番目は、会社にセクハラ相談をした労働者に対する不利益な取り扱いを禁止したことだ。もし不利益な取り扱いをした場合、措置義務違反として都道府県労働局から助言、指導、勧告を受け、それでも従わない場合は企業名が公表されることになる。
ちなみに龍角散の事件では社長のセクハラを目撃し、相談した女性執行役員が左遷されたと一部のメディアで報じられている。もし事実であれば措置義務違反となる。
■目撃者を出頭させることも可能に
3番目は自社の労働者が他社の労働者からセクハラを受けた場合は、事実確認などの協力を要請できることにした。今回の改正では「被害者の企業から事実確認などの協力の要請があれば、それに応じることに努めなければならない」とする努力義務が課せられた。
企業間をまたぐセクハラにも解決の道が開かれたが、努力義務なので加害者企業は事実確認を拒否することもできる。だが、1番目に指摘したようにセクハラをしないことは自社の社員だけではなく、取引先の社員の責務と規定している。都道府県労働局に相談すれば、加害者企業に「協力に応じるように努めるという趣旨を説明し、協力してくださいという何らかの指導があり得る」(厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課)という。
4番目は、セクハラ被害者が相談しても会社側が無視したり、意に反する対応をした場合、都道府県労働局長による紛争解決援助や紛争調停委員会の調停を受けられる。
実際にはセクハラ事実で意見が分かれることもある。そのため今回の改正では、職場の同僚などに参考人として出頭を求め、意見聴取ができるようになった。セクハラの現場に目撃者がいて証言が得られれば被害者に有利となる。
■とある大手医療機器メーカーの処分実例
セクハラなどハラスメントに対する企業の姿勢は年々厳しくなっている。セクハラ禁止規定を就業規則に盛り込んでいる企業は多い。罰則には懲戒解雇、諭旨解雇、降格、出勤停止、減給、譴責などがある。大企業の場合、内部の相談窓口で通報を受けたら、担当部局がまず被害者と面談し、事情を聞く。その次に職場の同僚などセクハラの事実を知る人がいればヒアリングし、最後に加害者に事実を確認する。
事実と確認されると相応の処分を受ける。大手医療機器メーカーの人事担当役員は処分事例についてこう語る。
「社内の男性社員からことあるごとに食事に行こうと誘われ、終業時間後も玄関で待ち伏せされているという女性社員の通報がありました。しつこくつきまとっていることは他の社員から裏付けが取れたので本人に問い質しました。彼が言うには、女性社員とは以前につきあっていたことがあるそうです。その後振られたのですが、彼としてはまだ自分に好意を持っていると誤解し、つきまとっていたそうです。女性が通報したことに彼自身も驚き『二度としません』と反省していました。初犯だし、情状酌量の余地もあると思いますが、罰則として減給処分にして部署を異動させました」
同社はセクハラなどの就業規則違反があれば、イントラネット上で個人名を隠し、所属部門と罪状・処分内容を一定期間掲示しているという。啓発活動と、ハラスメントは許さないという社員に向けた注意喚起の意味がある。
■セクハラ研修も強化
大手消費財メーカーの法務担当役員は、セクハラなどハラスメントに関しては以前にも増して厳しく臨んでいると語る。
「今では新卒採用の4割が女性ですし、以前よりも女性社員が増えていますのでセクハラ教育は必須となっています。もちろん就業規則や行動規範などを使って教育していますが、より徹底させるために研修でもセクハラについて指導しています。研修では明文化して禁止はできない事項についても触れます。たとえば男性上司と部下の女性の1対1の社内での面談は許されるが、社外での1対1の食事には行かないこと。行くなら3~4人など複数で行くようにと指導しています」
1対1での食事は、セクハラトラブルが発生した場合に、「言った」「言わない」など事実確認が難しいこと、「とくに男性上司は酒が入ると口説き口調になりやすい」(別の小売業の人事部長)といった理由からである。
■ある消費財メーカーの研修で出題された問題
また、今回の法改正で強化された取引先とのセクハラ問題にも目を尖らせている。消費財メーカーでは社員研修で以下のような質問を出している。
あなたなら「問題あり」「問題なし」のいずれだろうか。回答は「問題あり」だ。法務担当役員はこう語る。
「つまり好意のない人からプレゼントや食事をごちそうになるのは、あらぬ誤解を生みやすくトラブルの原因になる可能性があるからです。本当は規則に書きたいところですが、実際に得意先の社員と結婚したケースもあり、判断が難しいグレーゾーンなので、マナーとしてよくないと口頭で指導しています」
■食事の断り方も具体的に指導する
しかし、商品を売りたい営業職の女性社員が、相手企業のバイヤーから「飲みに行きませんか」と熱心に誘われたらなかなか断りづらいものだ。その場合はどうするのか。
「“社内規程”で取引先との1対1の食事は禁止されているんです。今度私の上司と一緒に行きませんか、と話すなどうまくやりなさいと言っています。そして上司と一緒に行く場合はこちらが接待するようにと。向こうにごちそうになると何かの便宜供与などと、あらぬ疑いをかけられる可能性もありますから」(法務担当役員)
実際には「社内規程」はないが、断るための方便として使っている。だが、今回の法改正でセクハラに関して他社からの事実確認の協力要請に応じることが盛り込まれた。これを機に「原則として取引先等の役員・社員との1対1の食事禁止」を明文化する企業も出てくる可能性もある。
(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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